宮守の神域   作:銀一色

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ついに始まりました。三年編です。


第6章 最後の栄光を目指して (高校三年生編)
第323話 地区大会編 ① 予選前


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視点:神の視点

 

 

「……おはよ」

 

 少し前までは一面を白く埋め尽くした雪も、すっかり雪解けどころか雪の形跡が全て消えてしまった始まりの春。新学年という名の通過儀礼の始業式を終えてから既に一ヶ月以上が経ち、県予選まであと約一ヶ月としたある日、眠そうに部室に入ってきた小瀬川白望はもう時刻は未刻を過ぎているのにも関わらずそう挨拶すると、先に来ていた臼沢塞がピンと来たのか、「……もしかして授業の時寝てたの?」と聞くと、小瀬川白望は「座りながら寝るって結構疲れるね……」と呟き、「やっぱり寝る時は横たわらないと……」と言ってソファーに寝っ転がった。

 

「あ、そういえば」

 

「どうしたの、シロ?」

 

 臼沢塞がそう言ってソファーに横たえる小瀬川白望の方を向くと、小瀬川白望は天井を見たまま「清澄高校も地区大会出るって……さっき聞いた」と伝えた。臼沢塞が「清澄って……確か竹井さんのいる?」と言うと、小瀬川白望はコクリと頷いた。

 

「あっちも人数揃ったんだ。ウチと同じような境遇だって聞いたから心配してたけど」

 

「そうみたい……あと、阿知賀と有珠山も」

 

「……その高校は初めて聞いたわよ?」

 

 そう臼沢塞が言い、小瀬川白望の方を睨むと小瀬川白望は何事も無かったかのような自然な動きで寝返りを打ち、臼沢塞から視線を逸らした。内心で臼沢塞は(実はシロの知らないところで繋がってるんだけどね……まあ言わないでおくか)と呟き、ふふっと笑った。

 

 

 

「おやおや、授業中に寝ていたのかい?感心しないねえ」

 

「あ、熊倉先生……」

 

 先ほどまでの話をドア越しから聞いていたのか、それともソファーに寝っ転がる小瀬川白望を見て推測したのか、部室に入って来た熊倉トシは小瀬川白望に向かってそんな事を言う。そう言われた小瀬川白望が上体を起こすと、熊倉トシは「師匠の赤木さんも何か言ってやりなさいって言いたいところだけど、生憎あなたもいわゆる『不良』だったようだね?全く、この師にしてこの弟子ありってところかい。まあ、まだ授業に出てくれるだけ有難いけどね」と呆れたように言うと、赤木しげるはこう反論した。

 

【おいおい……不良とは人聞きの悪い……一応俺は工場で真面目に勤めてた事もあるんだぜ】

 

「それは驚いたね……麻雀界のトップに立っていたあんたがかい?」

 

【まあな……色々あって直ぐに辞めたが……】

 

 赤木しげるがそう言うと、小瀬川白望が「どうせ同僚とか上司とかから賭けでお金毟り取ったんでしょ……」とズバリ言い当てる。赤木しげるはフフフと笑い、【まあ、俺には合わねえと悟ったな……窮屈で仕方ない】と言った。それと同時に赤木しげるは同僚であり、毟られていた側の治の事を思い出していた。

 

【(そういえば……治のやつ、一体あれからどうなったんだろうな……ま、あいつの性格上、なんかの店でも開いたんだろうが……)】

 

「まあ、補修でインハイに出られないなんて事にはならないでおくれよ」

 

「……善処します」

 

 小瀬川白望がそう返答すると、姉帯豊音とエイスリン、そして鹿倉胡桃がやって来て「たっだいまー!」と言い、部室内へやって来た。

 

「やっぱり一年生をたまに見かけると、ちょっとビックリするし、ドキドキしちゃうよー」

 

「ワタシハ、モウナレタ!」

 

「多分相手の方もビックリしてると思うよ?私たちのほうが良い意味でも悪い意味でも目立つと思うし」

 

「そうだねー……超高身長に超低身長に外人さん、他じゃ見れないよー」

 

 そう会話する姉帯豊音らを制し、熊倉トシは手を叩いて皆に向かって指示を出す。「全員揃ったね。今日も本番を想定して、各自

10万点持ちの状態から始めてもらうから、とにかく半荘終了まで白望を相手に耐える。これさえできれば後は言うことはないよ。良いね?」と言うと、全員が頷く。

 

「じゃあ白望、後はあんたに任せたよ」

 

「……分かりました」

 

 

 小瀬川白望が首を縦に振ると、誰よりも早く卓に着いた。そうして他に座る三人を四人で決めているのを、今か今かと待ち望み、はやく打ちたい。そんな目で、ジャンケンをする四人を見つめていた。

 

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「おーっす、全員いるかー」

 

「いるわよ、全員」

 

 岩手から更に北上し、日本の最北端の北海道にある有珠山高校では、獅子原爽が指揮を執って麻雀の練習に勤しんでいた。獅子原爽と、その後輩の岩館揺杏の幼馴染である桧森誓子が獅子原爽の問いに答えると、「っとその前に……揺杏、ユキの衣装と"例の衣装"。完成しそうか?」と聞くと岩館揺杏は「ユキのは完成間近、っていうかほぼ完成……だけど"例のヤツ"の方は結構ギリだな……モデルの最後の記憶が五年以上の前の話だし」と答えた。

 

「チカちゃん、ちょっと良いですか?」

 

「どうしたの?成香」

 

 桧森誓子と小学時代からの付き合いである本内成香が桧森誓子に向かって「爽さんと揺杏ちゃんの言う"例の衣装"って一体誰の衣装なんですか?」と質問する。それを隣で聞いていた真屋由暉子も「私も気になります。私の衣装より派手そうでしたし」と同調する。

 

「まあ……私も会ったわけじゃないんだけど、揺杏曰く爽の絶賛片想い中の人らしいよ。それも、中一の冬頃からの」

 

「ということは……五年も片想いしてるんですか?」

 

 真屋由暉子がそう言うと、桧森誓子は「らしいね……」と呟く。それを聞いた本内成香は目を輝かせて「五年も片想いを続けるなんて……素敵です。ロマンです……」と呟いた。

 

「でも、そんな人にあんなの着せるんですか?正直、私も逡巡しますよ」

 

「確かにあの服はちょっと際どいです……」

 

 そんな話を聞いていたのか、獅子原爽はゴホンと咳払いをして、至って真面目な声で三人にこう言った。

 

 

「私の愛が拗れに拗れた結果があれだ。私は悪くないぞ!」

 

「それを爽が悪いって言うんでしょ!?」

 

 

 

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「……どうしました?赤土さん」

 

 所変わって今度は南下し、奈良県のあるコンビニでは買い出しに来ていた高鴨穏乃が麻雀の週刊誌らしきものを見つめていた赤土晴絵に向かってそう言うと、赤土晴絵は「ああ、いや。すまん……さ、帰るか」と答え、コンビニを後にした。

 

(熊倉さんは言っていたあの話、十中八九本当だとして……もしそこと当たれば……皆は……)

 

(……いや。あまり悪い風には考えない方が良いな。何も私のように軟弱なわけじゃない。だけど……もし当たったらその時は……覚悟しないと……)

 

 

 そんな事を考えていた赤土晴絵と、先陣を切る高鴨穏乃を遠くから発見した小走やえは、成る程と言って少し考えるような仕草を取る。

 

(確か……赤土晴絵とか言ったか。阿知賀のレジェンドに……いつぞやのニワカ。成る程、凱旋ということか?いや、ちょっと違うか……)

 

 

(まあ、どれだけ監督がレジェンドと言われようと、所詮はニワカはニワカ。覚えたての剣を振るうニワカじゃあ相手にならんよ。個人も団体も、容赦はしない。勝ち取るのは私らだ)

 

 小走やえは謎の勝利感に浸りながら、心の中で笑う。絶対的自信がそこから容易に感じることができる。小走自身、去年のインターハイでは後続がなすすべも無く完封されたり、時の運も絡んで二回戦で敗退する事となってしまったが、それはあくまでも団体戦の話。個人戦では決勝卓に残れはしなかったものの、十分健闘した方であった。

 

(さて……メールを確認して、よし。まだ何も返ってきてない。……帰るか)

 

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「悪いけど、今のあなた達じゃ全国は疎か、県予選すら危ういな」

 

「ッ……!」

 

 更に所変わって今度は奈良から見て東に位置する長野県のとある雀荘では、藤田靖子がキセルを片手に二人の少女に向かってそう言い放った。

 

「お前らの最大の敵になるのは人呼んで……『牌に愛された子』。昨年長野県の代表の龍門渕高校の大将、天江衣。あいつを打ち崩すのは至難の技だぞ。なんせ、私だって勝てなかったんだからな」

 

「……!」

 

 そう言われ絶句する二人を見て、藤田靖子はフフと微笑み、再びキセルを吸い、「ま、私はそれ以上のヤツを知ってるけどな。世界ってのは広いもんだ」と付け加えた。

 

「そ、それ以上の方が……?」

 

「それについては原村。お前も知ってると聞いたが?」

 

「え……っ、ま、まさか!」

 

「ああ、今お前の思い浮かべているやつだ。……そしてそいつは確実に天江衣より上だ。……信じられないかと思うが、あの宮永照よりもな」

 

「……ッ」

 

 その名を聞いて一方の少女が奇妙な反応を示すが、それは一旦無視して少し前の事を思い出す。

 

(……そういや天江衣のやつにも冗談だと言われたっけな)

 

 

 

『おい、天江衣』

 

『むっ、また衣の上背を嘲弄するつもりか。衣に負けたくせに!』

 

『いやいや。そんな事じゃないさ。……ただ、お前じゃアイツには絶対勝てないだろうなって事を忠告しようと思っただけだ』

 

『フンっ、勝者に諫言など言語道断。悪女の深情けこと限りなし』

 

『……お前がそう言うなら仕方ないな。まあ、足元を掬われないようにしておけよ』

 

 

「ま、今のままじゃ無理だろうな。地区予選、楽しみにしてるぞ」

 

 

 藤田靖子はそう言い残し、雀荘を去る。そして暫くした後、竹井久の携帯番号に電話をかける。内心藤田靖子は竹井久に対して愚痴を吐くが、それでも言われたことはしっかりと遂行した藤田靖子であった。

 

(全く……人使いの荒いやつめ)

 




次回に続きます。

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