宮守の神域   作:銀一色

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前回に引き続きです。
とうとう二年編の最終回。


第322話 高校二年編最終回 ここから

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視点:神の視点

 

 

「……んん」

 

 あれから何時間が経ったのか、小瀬川白望はそれすらも分からないまま目覚めを迎えることとなった。小瀬川白望は手を挙げて背筋を伸ばすと、今も尚眠たそうに欠伸をしながら起き上がる。そうして誰もいないベッドの方を見て、ようやく皆がいないということに気付いた。

 

(……皆もう起きたのかな。悪いことしたかも……)

 

 小瀬川白望は現在の時刻も確認せずにとりあえず居間の方へ歩いて行くと、そこには臼沢塞を始めとした小瀬川白望を除いた全員が何やら調理に勤しんでいた。まず小瀬川白望が起きてきたことを確認した姉帯豊音が「あ、シロ。おはようだよー」と声をかけると、その場にいた全員が小瀬川白望の方を向いて「おはよう」と声をかけた。

 

「何してるの……?」

 

「何してるのって……見れば分かるでしょ!朝ご飯作ってるの!」

 

 鹿倉胡桃はめいいっぱい背伸びをし、食材を切りながら小瀬川白望の返答に答える。側から見れば完全に料理の手伝いをする小学生にしか見えないのだが、小瀬川白望はあえてそのことについては何も言わずに「……私は何したらいい」と四人に向かって質問した。

 が、その問いに対して皆は口を合わせて何もすることはないから、椅子に座って待っててということであった。確かに小瀬川白望自身あまり料理など好んでやるタイプではあるのだが、どこか疎外感を感じてしまう。しかしそう言われてしまった以上何もすることはないのでおとなしく椅子に座ることにした。

 結局そのあと直ぐに朝食が出来上がり、五人が席に着くと、「いただきます」と言って一斉に朝食を食べ始めた。

 

「正式に豊音がこっちに来るのはいつ頃になるの?」

 

 食事中、小瀬川白望がふとそんな事を聞くと、姉帯豊音は「んー……分からないけど、近いうちに行くよー」と答えた。それを聞いた鹿倉胡桃は「じゃあ!その日に歓迎パーティーやんなきゃね!エイちゃんも含めて!」と皆に提案した。

 

「おー、いいね」

 

「そうだね……」

 

「わっ、わー……あ、ありがとうだよー」

 

「アリガトウ……!」

 

 涙を流す姉帯豊音と、嬉しさで顔を綻ばせるエイスリンを見て、臼沢塞はふふっと笑うと「感謝するのはこっちの方だよ……二人が来なければ、インターハイなんて出ようって話になんなかったし」と言った。それに加えるようにして鹿倉胡桃が「何処かの誰かさんが行く気は無いって言ってたからね!」とニヤつきながら小瀬川白望に言うと、小瀬川白望は「皆が言うから、私も出る事にした……ただそれだけ。でも、皆が本気で思ってるんだから、やる以上は一つしかないよ……」と呟いた。

 

「そうだね……目指すは全国大会優勝!」

 

「ほら、豊音も涙拭いて!」

 

 

「う、うん!」

 

 

 そうして彼女たちは朝食を食べ終えると、小瀬川白望の家から出る事となった。その時の四人の顔は若干物足りないといった表情であったが、一件矛盾するような表現だが、それと同時に確かな満足感は得る事はできたのであった。

 

 

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「はあ……ダルい」

 

 

 あれから数日、小瀬川白望は部室の中にある雀卓の椅子に腰掛けると、そのまま凭れるようにして背中を預けると、誰かに語りかけるわけでもなく、ただただ心の中から出てきた言葉でそう呟いた。同じ部室にいるエイスリンはそんな小瀬川白望を見てホワイトボードに何かを描いていた。先程から何も喋らないところを見るとかなり熱心になっているのだろうと小瀬川白望が推測すると、特に何もすることがないので視線をエイスリンから天井近くに設置されているテレビに移す。どうやら高校麻雀の特集をしているようで、今も小瀬川白望がよく知っている鹿児島の霧島神境のメンバーが紹介されているのを見て、小瀬川白望は釘付けになっていたが、そこで外から臼沢塞と鹿倉胡桃が部室の中に入ってきて小瀬川白望にこう言った。

 

「やっぱりここにいたか」

 

「塞……」

 

「ほら、駅行くよ」

 

 臼沢塞がそう言って小瀬川白望の腕を掴むが、小瀬川白望は一向に椅子から離れようとはしなかった。臼沢塞が力みながら「ほら、急いで立って〜!」と言うが、意外にも小瀬川白望の体はビクともしなかった。

 

「お、重い……」

 

「オモイ!」

 

「全く!忘れちゃったの!?」

 

「……分かってるよ。ただからかっただけ」

 

 小瀬川白望はそう言ってケロっとした表現で立ち上がると、ハンガーにかけてあった上着を取って着る。そしてエイスリンも自分の上着を着ると、宮守駅に向かって歩いて行った。外は雪景色で、本来なら外に出ようとも思いたくない寒さであったが、今回に至っては別だ。そう、何を隠そう今日は姉帯豊音が正式に宮守女子にくる日であった。

 

「あ、電車。もうすぐ来ちゃう!?」

 

 外に出た臼沢塞が時刻を確認すると、慌てたようにそう叫んだ。それを聞いた四人は地面が凍結している可能性もあったが、それを顧みず駆け足で駅の方へ向かった。

 

「もう!シロのせいだからね!」

 

「ごめん……」

 

 そう言いながら走り、宮守駅が視界に入ったと思ったら、駅内から姉帯豊音と熊倉トシが出て来た。走りながらやってくる四人を見て、熊倉トシは若干呆れながら「迎えはいいって言ったのに……」と言うと、姉帯豊音の背中を押して「ほら、行っといで」と促した。

 

「豊音!」

 

「トヨネ!」

 

「やっほー。とうとう来たよー」

 

 

 

 

(……これで、五人)

 

 姉帯豊音と皆の再会のシーンを少し離れて見ていた臼沢塞は、心の中でそう呟いた。ようやく、今までの一件が夢ではなく、現実に起こっているのだと確信できた臼沢塞は、拳を強く握りしめた。

 

(ここから……ここから始まる……!)

 

 

 

 

 




次回から三年、インターハイ編です!

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