宮守の神域   作:銀一色

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前回に引き続きです。
心が浄化されます。


第321話 高校二年編 ㊲ 眼前

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視点:神の視点

 

 

「あー……あったかい……」

 

「ソウダネ……」

 

 頭と身体を洗い終えた小瀬川白望とエイスリンは、二人仲良く湯船に浸かって物思いに耽っていると、エイスリンが小瀬川白望に身体を寄せて彼女の名前を呼んだ。

 

「シロ……」

 

「……何?」

 

 小瀬川白望が問いかけると、エイスリンは小瀬川白望の手を握って「アノトキ……サソッテクレテアリガトウ」と言った。あの時とは言うまでもなく、小瀬川白望が鹿倉胡桃と臼沢塞に呼ばれて部室に行こうとした時に、急に足を止めてエイスリンを誘った時の事であった。日本での友達が全くと言って良いほどいなかったエイスリンにとって小瀬川白望は救いであり、初めてできた友達……そしてエイスリンが生涯で初めて恋心が芽生えた存在であった。

 それを聞いた小瀬川白望は自分の手を握りしめるエイスリンを見て、若干照れ臭そうに「まあ……あそこで一人にするのも可哀想だったし……」と返した。

 

「それに……礼を言うのは私もだよ」

 

「エ……?」

 

 小瀬川白望の発言に首をかしげるエイスリンであったが、小瀬川白望は「あの時、エイスリンが手を挙げなかったらきっと地区大会に出ようっていう話は無かったことになってかもしれないし……もう一度、私があの場所に立てる機会がやってきたのはエイスリンのお陰だよ……」と呟くようにエイスリンに向かって言った。

 

「だから、ありがとうね。エイスリン」

 

「ア、ア……ドウイタシマシテ……」

 

 エイスリンは小瀬川白望が真剣な表情で感謝の意を述べている事に対して若干たじろぐが、小瀬川白望に向かってそう言うと、慌てるようにして握っていた手を離した。

 

「じゃあ、そろそろ上がろっか……」

 

「ッ〜……!!??」

 

 そうして立ち上がろうとした小瀬川白望だが、エイスリンが声にならない叫びを放ち、目を覆うようにして腕を交差させる。小瀬川白望はこの時何があったのかは気付いていなかったが、エイスリンは浴室に入ってからは小瀬川白望の裸体を極力見ないように心掛けていたのだ。初心が故にそういう愛する者の裸体というものを直視して平気でいられるほど、エイスリンは肝の座った者では無かった。浴槽の中も入浴剤のおかげで見る事なく、そうして小瀬川白望の裸体を避けてきたエイスリンであったが、ここで小瀬川白望が立ち上がる事によって、エイスリンは視線を予め逸らそうとする前にモロに小瀬川白望のありのままの姿が視線の中に入ってきたのであった。

 

「シ、シロ!」

 

「……?どうしたの」

 

 エイスリンは顔を慌てて隠すかのように手で覆いそう叫ぶが、今この瞬間も小瀬川白望の裸体が脳内を駆け巡っている事は言うまでも無かった。無論そんな事になっているなどと小瀬川白望は思っていないため、疑問そうにただ突っ立っていただけであったが、それがまたエイスリンの精神と理性を削って行く要因となった。もうどうしようもなくなったエイスリンは、わずかに残っていた思考力に従って小瀬川白望の腹部目掛けて抱きついた。

 

「……ッ!」

 

「っ……エイスリン……?」

 

 小瀬川白望はエイスリンを優しく受け止めると、エイスリンに向かってそう言う。が、思考力がほとんど機能していないエイスリンにとってはこれしか考えついた方法は無かったのであった。小瀬川白望の腹部に顔を埋めれば、小瀬川白望の裸体を見ることができないという理論に基づき、エイスリンは実行したのであった。

 結局その後は落ち着いたエイスリンが目を閉じている間、小瀬川白望が先に上がるということになり、小瀬川白望は浴室から出たのであったが、それでも尚エイスリンの脳裏では小瀬川白望の艶やかな肌の感触と、美しい肢体が頭の中から離れる事はなかった。

 

 

 

 

 

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「ただいま戻ったよー」

 

 それから少し時間が経ち、最後に入浴を行なった姉帯豊音が戻ってくると、小瀬川白望を除いた三人が何やら話し合っているのを彼女は確認した。姉帯豊音は何だろうと思いつつも、ソファーでグッタリとしている小瀬川白望に近付き、隣に座った。

 

「あ、豊音……」

 

「ご無礼したよー」

 

 小瀬川白望と姉帯豊音が挨拶を交わしていると、臼沢塞はようやく話し合いが終わったのか、小瀬川白望と姉帯豊音の目の前に立つ。そうして、二人に向かってこう切り出した。

 

「シロ、豊音。……寝る時どうする?」

 

 それを聞いた姉帯豊音が思わず「シロと寝たいよー!」と言うが、それを見越していたかのように臼沢塞がふふっと笑い、二人にこう提案した。

 

「まあそう言うと思って……ところで、シロの寝室にベッドあるでしょ?」

 

「まあ、あるけど……それが?」

 

「……そのベッドで、五人で寝るわよ」

 

 臼沢塞の提案を聞いた小瀬川白望は流石に「……五人で?」と聞き返したが、臼沢塞は満足そうに頷くだけであった。そればかりか、「どうせ布団出すのダルいとか言うでしょ、面倒だから五人で寝るわよ」と小瀬川白望を言いくるめようとした。実際何も言い返せない小瀬川白望は仕方なくといった感じで「ま、まあ……いいけど」と了承してしまった。

 それを聞いた鹿倉胡桃とエイスリンは喜び声をあげ、「じゃあ早速寝に行こう!」と小瀬川白望の腕を引っ張った。姉帯豊音も「五人一緒に寝る……こんな体験きっとできないよー」と乗り気の様子で、小瀬川白望の家の寝室へ向かうのであった。

 

 

 

 

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「じゃ、おやすみー」

 

「おやすみだよー」

 

「グッナイ!」

 

 そうして提案通り五人全員で小瀬川白望のベッドに寝る事になったのだが、やはりスペースの狭さは否めないものであった。

 

(シロ……顔近い……///)

 

(こういう時に……偶然装ってお触りとかしたりしてー……やってもいいかなー?)

 

 さっそく臼沢塞は暗闇でもしっかり小瀬川白望の寝顔を見ることができ、それに対して悶絶して、姉帯豊音は純粋ながらも邪な考えを心の内に秘めつつ、小瀬川白望の事を抱きしめていた。鹿倉胡桃は(狭いけど……これもいいかも)と心の中でつぶやき、エイスリンは(ネガオ……カワイイ)と小瀬川白望の顔を手で愛でていた。

 

(……やっぱり五人一緒に寝るのは冬でも暑苦しいけど……寒いよりかはいいか)

 

 そして当の小瀬川白望はというと、そんな楽観的な事を考えながら目を閉じ、そのまま夢の世界へと旅立つのであった。




次回に続きます。
そろそろ高校三年編に突入しそうですね……

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