宮守の神域   作:銀一色

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前回に引き続きです。


第319話 高校二年編 ㉟ 指導

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視点:神の視点

 

 

「う、うーん……はっ!」

 

 先ほど小瀬川白望とハグした事によってショートしてしまった臼沢塞が、雷にでも打たれたかのように突然起き上がった。ソファーから身を起こし、とりあえずどこまで記憶が残っているかを確かめる。しかし、臼沢塞にとっていくら夢のような出来事だとしても、小瀬川白望とハグをしたという事実が記憶から消えているはずもなく、気絶した後の今になって羞恥心を感じ、後悔していた。その反面、小瀬川白望とのハグの瞬間を鮮明に思い出して嬉しがってはいたのだが。

 

「ア、オキタ!」

 

「……大丈夫?」

 

 そんな臼沢塞の目覚めに気づいた小瀬川白望とエイスリンは、そう言って寝起きの臼沢塞に近寄って心配の声をかける。臼沢塞は「まあ、うん……大丈夫だよ」と言って視線を逸らす。流石に先ほどの事があってか、容易に小瀬川白望と目を合わす事が出来なくなっているらしい。乙女の恥じらいとでも言うのであろうか。

 

 

「たっだいまー!」

 

「ただいま戻ったけどー……って、わわっ、塞が起きてたよー」

 

「お、おかえり……何処行ってたの?」

 

 すると玄関から姉帯豊音と鹿倉胡桃が家へと戻ってきた。臼沢塞はただいまと言われて反射的におかえりと返したが、実際二人が何処に行っていたのかどころか、出かけていたことすら分からなかったのだ。臼沢塞がそう質問すると、横にいた小瀬川白望が「いや……夕飯の食材、二人に買ってきてもらったんだ」と説明した。

 

「シロとエイスリンも一緒に行けば良かったのに」

 

「いや……気絶してた塞を放っておくわけにはいかないし……それに」

 

「そ、それに……?///」

 

 平然と述べる小瀬川白望に対して既に真っ赤に顔を染めていた臼沢塞は、今から小瀬川白望が続ける言葉に臼沢塞はどこか期待し、更に赤面する。また倒れてしまうほど赤くなっていた臼沢塞であったが、小瀬川白望はそんな期待を裏切るが如くエイスリンの事を指差してこう続けた。

 

「エイスリンが留守番したいって言ってたから……」

 

「ウン!シロトルスバンガヨカッタ!」

 

「え?あ、ああ……まあそりゃあそうよね……はは」

 

 臼沢塞が一瞬でもど天然な小瀬川白望に期待してしまった自分を悔やんでいると、鹿倉胡桃が臼沢塞の手を引っ張って立ち上がらせる。臼沢塞がなんだと思って鹿倉胡桃に聞こうとしたが、それよりも前に鹿倉胡桃がこう臼沢塞に向かって言った。

 

「塞は豊音と晩御飯作ってきて!私とシロはエイちゃんに麻雀教えるから!」

 

「わ、分かったわよ……」

 

「ほら、お母さん力を見せる絶好の機会でしょ!豊音、あとは頼んだよ!」

 

「お安い御用だよー」

 

 そう言って姉帯豊音が敬礼の構えをとって臼沢塞をキッチンへと連れ込むのを確認した鹿倉胡桃は、いつも通りダルそうに座っている小瀬川白望を引っ張ると、「シロ、麻雀牌持ってきて!」と言った。

 

「別に夜ご飯の前くらいゆっくりすれば……」

 

「そう言って怠けようとしない!麻雀牌持ってくるの面倒なだけでしょ!?シロしか何処にあるのか分からないんだから!エイちゃん、役は覚えたからその復習と実践練習!私も付いて行くからほら、立って!」

 

「教えるんだったら私より適任な人がいると思うんだけどなあ……まあいいか」

 

 小瀬川白望はそうして半ば強引に立たせられると、鹿倉胡桃に背中を押されるような形で部屋へと連れて行かれた。そんな鹿倉胡桃と小瀬川白望をキッチンからチラリと見ていた臼沢塞は心の中で(やっぱりどう考えても胡桃の方がお母さんっぽいわよね……一番子供みたいな見掛けなのに)と思いながら包丁で野菜を切っていると、横にいた姉帯豊音に「塞、余所見は危ないよー?」と注意される。臼沢塞が我に返って視線を落とすと、自分の指と包丁との間が数センチにまでに迫っていたことに気づき、思わず声を上げてしまった。

 

「え?うわっ、危なっ!?」

 

「塞は意外とおっちょこちょいだよー」

 

「べ、別に……考え事してただけだから!」

 

 それを聞いた姉帯豊音が「それってシロの事ー?」と何気ない感じで尋ねると、臼沢塞は大きな声で「い、今は違うわよ!」と言う。まあ実際違うのではあるが、その場限りの話であって、いつも考え事といえば小瀬川白望の事なのは間違いは無いのだが。

 

「『今は』ってことは、いつもはシロの事を考えてるんだねー」

 

「ま、まあ……そうだけど」

 

「……シロってカッコいいよねー。私なんかじゃ、シロとは釣り合わないよー……」

 

「……豊音だってカワイイじゃない。後ろ向きだとやってけないわよ」

 

 臼沢塞はそう言って姉帯豊音の方を見ると、姉帯豊音も集中力を欠いているのか自分の指を包丁で切りかけていたところであった。すんでのところで「と、豊音!指、指!」と叫ぶと、姉帯豊音も「わっ、わー!」と言って思わず尻餅をついてしまった。

 

「……豊音も、私と同じでおっちょこちょいだね」

 

「うん……おっちょこちょい仲間だよー」

 

 そう言って二人が笑い合っている裏では、小瀬川白望と鹿倉胡桃がエイスリンに麻雀を教えていた。小瀬川白望は赤木しげるから教えてもらった方がいいと提案したのだが、赤木しげるから人に教えるのもまた修行の一環だと言われたので、教える側に回っていたのであった。

 

「えーと……ここは……八萬切りかなあ」

 

「ホワイ?」

 

「え、いや……直感だけど。ツモを予測する時は他に情報とかないし……」

 

「もっと分かりやすい説明ないの!?私も全然分からないよ!」

 

 そう言って鹿倉胡桃は赤木しげるに解説を求めるが、当の赤木しげるも小瀬川白望と同じ己の感覚から根拠を組み立てて行くといった、一言で言えば『勘』で済む説明だったため、鹿倉胡桃とエイスリンにとっては終始ハテナマークが飛び交う始末であった。そもそも、今回の趣旨はエイスリンに必要最低限の知識と戦略を知ってもらう事であり、いきなり小瀬川白望や赤木しげるのような異次元な麻雀をするような人物が教える側に立たせるのは自分の人選ミスであると理解しつつも、鹿倉胡桃は小瀬川白望と赤木しげるに向かって文句を言う。

 

「もう、何なのこの二人!」

 

「ほら、次巡で二向聴になった」

 

「う、うるさいそこ!」

 

 

 

 

 

 




次回に続きます。来月で第1話からとうとう一年が過ぎようとしてますね……

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