-------------------------------
視点:神の視点
東2局が始まる少し前に時は遡り、東1局2本場で小瀬川がダブリーをした場面。その時一般観客席は騒然としていた。
ざわ…!ざわ…!
親のダブリーに対して驚いているのではない。小走がトンで終了してしまうかもしれない事態に驚いているのではない。
〜〜〜
小瀬川:手牌
{一四九②⑥⑥⑨3569東白}
捨て牌
{横5}
リーチを放ったのにも関わらず、ノーテンである事に対してだ。
-------------------------------
特別観客席
「え…?何で?」
塞が不意に言葉にしてしまう。が、それはごく当然と言っても過言ではない。
何故なら?と聞かれれば答えは1つだろう。
ノーテンであるからだ。それも、清一色などで聴牌していると見間違えたわけでもない。どこにも見間違える要素もない、全くのバラバラなのだ。
塞達の困惑や疑問などが卓に届くわけもなく、淡々と局は進む。
『チー!』
小走が切った{5}を鳴く。何事も無かったかのように。いや、小走側からは知る由もないが。
「…どういう事だ?流石にこれは意味があるとは思えんぞ。第一にこれは和了る為の布石にすらなっていない。寧ろその逆だ。」
智葉が冷静そうに赤木に尋ねる。いや、冷静そうに振る舞っているだけで、スクリーンを見つめるその目線は、明らかに心配そうだ。
それに対して、赤木は珍しく事でもないと言わんばかりに返す。
【どういう事もなにも、ノーテンリーチだ。意図的のな。】
「それは分かってるよ。赤木さん。そう言う事じゃない!話を逸らさないそこ!」
胡桃が赤木に説教する。赤木は【あらら】と大して反省していない様子で
【この局が終わったら教えてやるよ。】
と、言う。
-------------------------------
『ツ、ツモ!』
小走が満貫をツモ和了り、東1局2本場は終了する。
「…教えてもらおうか。」
智葉が赤木を見て言う。
が、いきなり本題には入らず、赤木は3人に質問する。
【最初に上埜が切った牌は何だ?】
「「「{③}」」」
3人が口を揃えて答える。
【じゃあその{③}はツモ切りと手出し、どっちだった?】
赤木は次の質問に移る。
「確か、ツモ切り…?」
塞が答える。
【正解だ。じゃあ、小走が鳴かなければ、その{③}は誰がツモっていた?】
その質問に、3人はハッとする。
【鳴かなければ、{③}は"小走がツモっていた"。じゃあ聞くが、奴が和了した牌は、本来誰がツモるはずだった?】
赤木の問いに、3人は暫し考え、
「「「小走…」」」
と答えを出す。
【そうだ。つまり奴は、鳴かずとも聴牌する事が出来ていたんだ。】
【奴が鳴かずに聴牌していれば、打点を高くする為にリーチをする。あの流れじゃあ、一発でツモっていただろうな。リーチ一発ツモ断么ドラ3。裏が乗れば倍満。乗らずとも跳満だった手だ。】
【が、あのノーテンダブリーによって…わざわざ鳴かなくても良い牌を鳴かせたんだ。ツモられれば終わりの状況で、まず考えるのは速攻で終わらせる事だ。】
【逆に言えば、あそこでノーテンリーチをしなければ、最低跳満をツモられていたってわけだ。おそらく、最初に切った{5}も見逃すだろう…】
「…だが、どうやって察知したんだ?これまで小走は、二連続シロから点棒を取られている。流石にシロも、何の予兆も無しにそんな事はできないはずだ。それに、小走が急にそんな大物手を張れる事が分からない。」
智葉が赤木に質問する。さっきまでの小瀬川の打ち筋は何らかの予兆があった。対子場や染め手などのツモの偏りや、前局の{3}などの分岐点となるキー牌など、予兆はあった。
しかし今回は違う。東1局2本場に限っては、何の予兆もない。
が、赤木はフフフと笑い
【予兆はあったさ…前局、小走の配牌は最悪だった。立ち上がりから親に振り込めば、流れも悪くなるのは当然と言っちゃあ当然だがな…
それでも尚、あいつはインスタント満貫を二番目に聴牌した。】
つまり、と赤木は付け加え
【言うなればそれが予兆…本来悪いはずの流れで、聴牌にもままならない配牌でも聴牌した事が異常…
そう考えれば、その次の局にあたる東1局2本場も必然的に小走が優勢になる。その証拠に、二連続和了ったあいつの配牌はあまり良いとは言えなかっただろ?】
とテストの回答を述べるように、当たり前の事らしく言う。
【この局…あいつはイレギュラーな流れを強引にねじ伏せ、最小限に抑えた…
だが小走のイレギュラーな流れは一度だけで終わるとは到底思えない…この後の2、3局、正念場だな…】
と、楽しそうに赤木は言い、スクリーンを見る。
-------------------------------
対局室
東2局 親:小走 ドラ{東}
小瀬川 41800
小走 12600
上埜 22800
白水 22800
悲願の小瀬川の親を蹴る事に成功し、親番となった小走の追撃はここから始まる。
8巡目。小走がツモった牌を盲牌しニヤッと笑うと、その牌を置き、
「ツモ!」
小走:和了形
{12345666789③④}
ツモ牌{②}
「2600オール!」
3人が2600分の点棒を支払う。それをしまった小走は、100点棒を取り出し、
「1本場!」
と高らかに宣言する。
-------------------------------
東2局1本場 親:小走 ドラ{8}
小瀬川 39200
小走 20400
上埜 20200
白水 20200
前局の和了で、一位とは差があるものの、2位に浮上。この勢いは、未だ留まることを知らず、
7巡目
(きたっ!)
小走:手牌
{一七④④⑤⑤11377発発}
ツモ{一}
「リーチ!」
小走が1000点棒を投げ、牌を曲げる。
しかしその同順。小瀬川が少し長考し、打ったのは{9}。
それとほぼ同時、白水が牌を倒す。
「ロン。」
白水:和了形
{二二二三四④⑤⑥⑥⑦⑧78}
「平和ドラ1。3200ばい。」
((!!))
この場にいる全員が、小瀬川が振り込んだのではなく、差し込んだと理解した。
(しっかりと低めば打つか…やっぱいこいつは強敵ばい。)
強引に小走の親を終わらせ、場は東3局。未だ焼き鳥の上埜に親が回る。
(どうしよう…まだ一回も和了れてない…)
顔には出していないが、上埜は内心とても焦っていた。
「上埜さん。」
そんな中、小瀬川がふと上埜を呼ぶ。
「は、はい?」
想定外の事に、若干戸惑う上埜だったが、
「緊張するのは分かるけど…もっとリラックスしなよ。気楽に打とう…」
と、小瀬川に言われた事で、頭のスイッチが変わる。
(…そうね。小瀬川さんも皆も、この対局を楽しんでいる。なら、焦っている場合じゃないわね。)
そう思いを抱き、サイコロを回す。
「良かったのか?相手ば元気付ける事ば言って。」
白水がどこか微笑ましく小瀬川に問いかける。
それに対して、小瀬川は
「…本気の状態で闘いたいから。相手が本調子じゃない時に勝っても、ダルいし…」
と返す。
(イケメンさんだな…)
と、白水は内心ときめきながらも、それを振り払い、東3局が始まる。
東2局あっさりしすぎィ!それと進まなすぎィ!
まあ、こんなローペースでも毎日投稿しているから、まあ多少はね?