宮守の神域   作:銀一色

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前回に引き続きです。


第316話 高校二年編 ㉜ 五人

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視点:神の視点

 

 

「ロン」

 

「……っ!」

 

 

(まずいねえ、精彩を欠いてきた……いくら豊音と雖も、流石に相手が悪かったようだね)

 

 

(……何を打ってもシロに当たっちゃうよー)

 

 

 小瀬川白望の姉帯豊音の六曜の一つである先負の数少ない、姉帯豊音と同じ牌が当たり牌であれば確実に和了れるという弱点を利用したリーチ一発ツモを皮切りに、小瀬川白望の怒濤とも言えるような猛攻撃が始まることとなった。しかし、特別小瀬川白望の運や配牌が良いというわけでも、何か特殊な事をしているわけでもない。ただ小瀬川白望はいつも通りの麻雀をしているだけなのだ。相手の捨て牌や仕草、癖を観察し、そこから仮説を立てて照準を合わせ、敵に気づかれないように迷彩を作って射抜く。簡単に言ってしまえばこれ以外の事は何もしていない。それが姉帯豊音に……いや、小瀬川白望と赤木しげる以外の人間は怒濤のように見えるだけなのであった。

 しかし、当然の話だがそのような事を実際に彼ら以外に完璧にできる人間がいないが故に、恐ろしく、常軌を逸したように見えるのであって、姉帯豊音の反応はなんらおかしな事ではなかった。

 

「と、通らば……リーチ」

 

「通らず……ロン」

 

 

 そしてこの半荘何度目かも分からぬ小瀬川白望の放銃によって、結局最初の東一局以外和了れる事が出来ぬまま姉帯豊音のトビ終了で終わりを迎える事となってしまった。姉帯豊音は最後の辺りは若干涙目になっていたが、勝負が終わると同時に防波堤が決壊したかのように涙を流し、小瀬川白望に抱きついて「シロー……怖かったよー……」と、恐怖を植え付けた本人に向かって言う。局が終わるまでは小瀬川白望に執拗に狙われているのを見て同情していた鹿倉胡桃も、それを見て一気に同情の気が失せたのか、何かを言いたそうに両手をグッと握り締めていた。

 

「……それで、豊音はいつ転校してくるの」

 

「え……て、転校……?」

 

 抱きつく姉帯豊音に小瀬川白望が質問すると、姉帯豊音は驚いたような表情で熊倉トシの方を見た。臼沢塞は「てっきり熊倉さんが私たちの新たなメンバーを連れてきたのかと思ってたけど、違うんですか?」と熊倉トシに質問すると、熊倉トシは「サプライズで豊音にも話してなかったんだけど……どうやら分かってたようね」と言い、近くにあったソファーに腰掛ける。

 

「で、でも……私なんかが皆さんのお仲間なんて……ありえないなー……とかとか」

 

「何言ってるの、豊音」

 

 姉帯豊音が涙を拭ってそう言うが、小瀬川白望はそれを直ぐに否定する。自らを謙遜する姉帯豊音に向かって、小瀬川白望はこう告げた。

 

「もともと私は豊音と友達……そして今、塞と胡桃っていう友達が増えた……それが仲間じゃないなら、なんだって言うの……」

 

 

 小瀬川白望が姉帯豊音に向かってそう告げると、姉帯豊音は再び涙を流して「……ちょー嬉しいよー」と笑顔で言った。熊倉トシは「それで、さっきの答えだけど既に手続きは終わらせてあって、書類上は転校済みになっているんだよ。私が初めて豊音と会った去年の秋辺りから」と答えた。

 

「あとは豊音があんた達と合うかどうかだったんだけど……もうその心配はいらなさそうだね?」

 

「そうですね……シロの知り合いなら、断る理由もないですし……」

 

「塞の言う通りだけど、ほらそこっ、シロから離れる!シロが窒息しちゃうでしょ!」

 

 鹿倉胡桃が小瀬川白望に抱きつく姉帯豊音に向かって指をさすと、姉帯豊音は「わっ、ごめんなさいだよー」と素直に小瀬川白望を解放し、謝罪した。素直に謝った姉帯豊音を見て、鹿倉胡桃は若干罪悪感を感じたのか、「いや、そんなに謝らなくてもいいけど……」と付け加えた。

 

「でも、そんなに前から準備していたんですね。去年の秋からだったなんて……なんでそんな前から……」

 

 臼沢塞が疑問そうに熊倉トシに向かって言うと、何かに気づいたように小瀬川白望の方を見る。小瀬川白望もそれとほぼ同時に気付いたのか、顔を見合わせた。

 

「そっか……」

 

「インターハイの団体戦……」

 

 姉帯豊音はそれを聞いて「え……?」と呟くと、鹿倉胡桃が「全国麻雀選手権!毎年夏にあるんだよ!」と説明する。ここで熊倉トシは最終確認として小瀬川白望に「……あなたは出る気は無かったようだけど、どうするんだい?」と質問した。小瀬川白望はそれを聞いて、少し悩んだような表情で「……皆が出たい、って言うなら……」と答えた。これで全員の理解と了承はは得られた。時期的にも夏のインターハイには間に合うが、ここで新たな問題が生じる。団体戦に出るには五人必要であり、今のままではあと一人足りないのであった。臼沢塞が候補として頭の中で一人、宇夫方葵を思い浮かべていたのだが、宇夫方葵だけはダメだと頭の中で撤回する。新たな問題に当たった一向であったが、ここで「ハイ!」と言って手を挙げた人物がいた。そう、今の今まで黙って見ていたエイスリン・ウィッシュアートであった。

 

 

「エイスリンさん……?」

 

「ノー!プリーズコールミーエイスリン!」

 

 エイスリンがそう言って掛けていたホワイトボードを皆に見せる。そこには絵が描いていたのであり、小瀬川白望は「……皆で地区大会に出て優勝しよう」と解釈した。臼沢塞は「分かるの!?」と驚いていたが、小瀬川白望は「いや、勘だけど……」と答える。

 

「……これで、五人揃ったわね。師としてのあなたとしては、彼女が表のインターハイに出るのはどうなんだい?」

 

【……さあな。あいつがやると言った以上、それを後押しするのが師ってもんだろ……】

 

 熊倉トシが赤木しげると話しているのを見て、姉帯豊音とエイスリンは驚いて小瀬川白望に近寄り、熊倉トシの方を指差してこう言った。

 

「い、石が喋ったよー……」

 

「アノストーン、シャベッタ!!」

 

「ああ、そういえば二人には話してなかったね……」

 

(……嘘みたい。ほんの前までインターハイとか、夢の話だと思ってたのに……たった数時間で現実味のある話になるなんて)

 

(ようやく、私もシロのいたあの場所に……今度はシロの横で立つことができるんだ……!)

 

 




次回に続きます。

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