宮守の神域   作:銀一色

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前回に引き続きです。
今回は豊音も出てくるよー



第314話 高校二年編 ㉚ 再会

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視点:神の視点

 

「パン、タベル?」

 

「……うん」

 

 小瀬川白望がそう答えると、留学生の少女は小瀬川白望に対して警戒していたような表情をキラキラと輝かせ、ニッコリとした表情で小瀬川白望にパンを渡した。留学生という立場以上、言葉も通じるか分からないのが理由で話し難いというのもあるのだろう。そう言った意味で留学生の少女にとっては貴重な宮守女子高校でのこの小瀬川白望とのコミュニケーションは。目を輝かせるほど嬉しいものだったに違いない。

 そんな期待と希望を背負った留学生の少女から小瀬川白望はパンを受け取ると、「……いただきます」と言い、モキュモキュとパンを食べ始めた。よほどお腹が空いていたのか、小瀬川白望はかなり速いスピードでパンを食べ進めていく。

 

「ああ、いたいた」

 

 そして小瀬川白望がパンを食べている途中、廊下側から聞き慣れた声が聞こえてきた。すると小瀬川白望がパンを食べるのを止め、声が聞こえた廊下の方を見る。留学生の少女も、気になったのか小瀬川白望と同じ方向を向いた。教室にドアの前には小瀬川白望が予想していた通り臼沢塞と鹿倉胡桃が立っており、鹿倉胡桃は小瀬川白望にこう伝えた。

 

「シロ!熊倉先生が言ってた例の娘、連れて来たって!」

 

「あー……今行く」

 

 小瀬川白望はそう言うと、止めていた手を再び動かして食べかけのパンを口へと押し込む。そうして全て食べきった後、小瀬川白望は立ち上がり留学生の少女に向かって「ご馳走様……それとありがとう」と言い、臼沢塞と鹿倉胡桃の方へと歩き始める。しかし、ここで小瀬川白望の足が止まった。

 

「……」

 

「……?」

 

 小瀬川白望は足を止めて、何かを考えているような不自然な間を作る。留学生の少女を含めたこの場全員の人間が小瀬川白望がいきなり進むのを止めた事に対して頭の上にクエスチョンマークを浮かべていた。そして幾許かの時間が経った後、小瀬川白望は留学生の少女の方を振り向いて、こう問い掛けた。

 

「……一緒に来る?」

 

 それを聞いた留学生の少女はもちろん、教室の外にいた臼沢塞と鹿倉胡桃も驚いて小瀬川白望のことを見ていた。そしてそんな小瀬川白望の元へ臼沢塞が近づくと、小瀬川白望に対して耳元で「ちょっと……まだ何も分からない留学生の子を誘っても、向こうだって困るでしょ。それにシロだってあの子のこと何も分からないでしょ」と言う。が、臼沢塞にそう言われても小瀬川白望は引き下がらず、逆に臼沢塞にこう反論した。

 

「でも……一人で教室にいるよりはマシでしょ。多分初日で仲が良いって子もいないだろうし……」

 

「それはまあ、そうだけど……」

 

 臼沢塞が反論に対してたじろぐ間に、小瀬川白望は再度留学生の子に「……どうする?」と問い掛けた。一度目に問い掛けた時は驚いていたようで返答に困っていたが、今度は笑顔を浮かべて「……イク!」と答えた。

 

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視点:神の視点

 

 

 

「……熊倉先生が連れて来た子、どんな子なんだろうねー」

 

 四人が麻雀部の部室へ向かっている最中、鹿倉胡桃がそう言って小瀬川白望と臼沢塞に向かって熊倉トシが連れて来た子がどんな人であるかについて尋ねてみるが、その肝心の小瀬川白望はというと、自らの後ろを付いてくる留学生の少女に興味津々の様子であった。

 

「名前、なんていうの」

 

「……エ、Aislinn Wishart.」

 

「……じゃあエイスリンさん、でいいのかな」

 

「……OK. And you?」

 

 エイスリンが小瀬川白望にこう聞くと、小瀬川白望は「ああ、あー……マイネームイズ、コセガワシロミ」とエイスリンのネイティヴな発音とは正反対の、いわばカタカナ英語のような発音で自己紹介をするが、どうやらエイスリンにも伝わったようで、「OK.シロミサン……」と小瀬川白望に向かって返した。

 

「……ふんだ!いいもん!シロなんて知らない!」

 

 そしてもちろんそんな光景など臼沢塞や鹿倉胡桃が快く思うわけもなく、鹿倉胡桃はついに匙を投げ、怒ったような口調でそう言った。それを聞いた小瀬川白望は「あ……ごめんごめん。熊倉さんが呼んだ子の事でしょ?」と鹿倉胡桃に言うが、本人は「……ふん!」といまだ怒っている様子だった。そんな鹿倉胡桃を見てか、エイスリンは小瀬川白望の制服の裾をちょいと引っ張って「……オトモ、ダチ?」と臼沢塞と鹿倉胡桃の方を向いて尋ねた。小瀬川白望は「うん……」と答えると、エイスリンは臼沢塞と鹿倉胡桃の近くまで近寄ると、ぺこりとお辞儀をしてこう言った。

 

「ワ、ワタシ……Aislinn Wishartデス……」

 

「は、はあ……」

 

「……ヨ、ヨロシクデス」

 

 エイスリンが震える手で臼沢塞と鹿倉胡桃に両手を差し出すと、臼沢塞と鹿倉胡桃は「よ、よろしく……」と言ってエイスリンの両手を握った。流石に相手があそこまでピュアだと、二人も強く言えないのか、臼沢塞と鹿倉胡桃は肩透かしを食らったことで、エイスリンは知り合いが増えたことで喜びを噛み締めたことで、その後は無言のまま部室へと向かった。そんな中、小瀬川白望はポケットの中にある携帯電話を異様に気にしていた。

 

(それにしても、熊倉さんが連れて来た"面白い娘"ねえ……豊音から連絡が入ったのはちょうど熊倉さんが初めてここに来た時期と一致するけど……まさか……ね)

 

 

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「こ、こんにちはー」

 

「遅かったね?」

 

 部室のドアをコンコン、といつになく礼儀正しくドアを開ける臼沢塞は、まるで見知らぬ人の家に上がるような声色で挨拶しながら中に入る。中に入った臼沢塞が最初に見たのは熊倉トシと、彼女が連れて来たという長髪の少女の姿であった。……いや、外見から見て『少女』と評するには些か語弊があるだろう。その少女は最初は座っていたが故に分からなかったが、熊倉トシが自己紹介をするように促し、その少女が立ち上がったところでようやく臼沢塞は気付いた。彼女の異常なまでの高身長に。どう少なく見積もっても180……いや、190はありそうな高身長で、とても『少』女と呼ぶには値しなかった。

 

「岩手から来ました、姉帯豊音です」

 

 姉帯豊音は開口一番にそう名乗ると、大きな体を折り曲げてお辞儀をする。臼沢塞は「ここも岩手だよ……っていうかデカいな!?」と驚きを露わにするが、熊倉トシは「これでもあんたと同じ高二だよ?」と言う。そして熊倉トシは面喰らったような表情を浮かべる小瀬川白望を見て、「流石のアンタでも豊音の身長には驚いたかい?」と質問すると、小瀬川白望は驚いたような表情で「豊音……?」と言う。すると姉帯豊音もようやく気付いたのか、はっとしたような表情で「し、シロッ!?」と叫ぶ。

 

「おやおや、知り合いだったのかい?」

 

「いや……私たちは全然」

 

 突然の再会に驚きと喜びを浮かべる姉帯豊音と小瀬川白望をよそに、熊倉トシも若干呆れたような表情で小瀬川白望のことを見ていた。

 

「久しぶりだねー。自己紹介に緊張しすぎてて今の今まで気付かなかったよー」

 

「やっぱりメールをくれた時期が同じだったからもしやと思ったけど……本当に豊音だったなんて」

 

「うん……まさかシロがいるなんて思ってなかったから……これだけでも来た甲斐があったよー」

 

 そう言って小瀬川白望を抱き締める姉帯豊音を見て、鹿倉胡桃は(まさかこの学校でライバルが更に二人増えることになるなんて……思ってもいなかったよ)とこれまた呆れた表情を浮かべていた。




次回に続きます。

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