宮守の神域   作:銀一色

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前回に引き続きです。
今回はエイスリンから。と言っても出るのは最後の方ですが。


第313話 高校二年編 ㉙ パン

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視点:神の視点

 

 

「……どうします、もうひと半荘しますか」

 

 熊倉トシがあの大沼秋一郎が認めた……一目置く存在である小瀬川白望によもや少なくともここでは会えないであろう宮守女子高校で会えた事と、その小瀬川白望の自分でさえも最も簡単にトバすほどの雀力対して深く心を動かされていたのをよそに、小瀬川白望が再度椅子に深く凭れ掛かりながら熊倉トシにこう告げた。熊倉トシははははと笑って、「もう十分だよ。何度やっても結果は変わらなさそうだし」と答えた。すると臼沢塞は、そういう熊倉トシに向かってこう言った。

 

「でも、久々の四人打ちは楽しかったです」

 

 臼沢塞はそう言うが、実際はさほど久し振りではない。赤木しげるを加えた三人と一人の霊体での四人打ちは高校で麻雀部に入って稀に行い、その都度小瀬川白望と赤木しげるの頂上決戦のような臼沢塞と鹿倉胡桃からしてみれば地獄のような卓になったりはするのだが、ここでは敢えて臼沢塞はそれを通常の四人打ちとは別物として考えた。

 

(まあ……生きてる人間だけでの四人打ちは本当に久々だから、強ち間違いではないかな……ははは)

 

「見た限り顧問もいなさそうだけど、部員もこの三人だけなのかい?」

 

 それを聞いた熊倉トシは三人に向かって質問するが、小瀬川白望達はこの問いにどう答えていいのか非常に悩んでいた。部員が三人だけなのかという問いに対してではなく、顧問がいなさそうという発言に対してである。赤木しげるも一応は小瀬川白望達の顧問的存在なのだが、いかんせん厳密には部外者なため、顧問としていいのか、そもそも死んだはずの赤木しげるの存在を明かしていいのかという点、この二つに対して悩んでいた。

 

【……ククク。どうせ隠したっていつかはバレるもの……なら先に言っておいた方が好都合だ】

 

 

「っ!?一体誰が……」

 

 だが、赤木しげるがここで口を開く。熊倉トシはどこからか放たれた言葉なのか分からず辺りをキョロキョロ見回すが、この場にいる以外の人間はどこにもいなかった。熊倉トシは疑問そうに小瀬川白望達の事を見ると、小瀬川白望は「また勝手に……」と言って首から掛けていた巾着を取って中身を手に取ると、熊倉トシに向かってその中身を見せつけた。熊倉トシは興味深そうにその中身である石の欠片……正確に言えば赤木しげるの墓の断片をまじまじと見ていると、熊倉トシは未だ驚いたような表情で「驚いたね……いったい何者なんだい?」と小瀬川白望に聞くと、小瀬川白望の代わりに赤木しげる自らが答えた。

 

【赤木……赤木しげるだ。もうこの世にはいないはずの人間だが、どうしてかこんな形で俺はまだ存在しているらしい……一応当時では名の通ってた博徒だったんだが……俺の名前を知ってたかい、お嬢さん】

 

 熊倉トシに向かって赤木しげるが自分の名前を語ると、熊倉トシは少し怒ったような表情で「お嬢さんねえ……私もこれでも今年で54歳なんだよ?」と赤木しげるの言った「お嬢さん」に対して反論する。それを聞いた赤木しげるは【おっと、そいつあ失礼……確かに俺が死んだ歳は53だから、そういう意味ではアンタの方が歳上なのかもな、熊倉さん】と笑いながら言う。そんな赤木しげるを見ながら、熊倉トシは心の中で記憶を掘り返していく。

 

(それにしても……赤木、しげるねえ……確かに聞いた事があるようなないような……)

 

(……そういえば、秋一郎さんが前に言っていたような)

 

 そうして熊倉トシが記憶を掘り返していると、大沼秋一郎が取材で尊敬する人物について聞くと言われていたためにどうしようか嘆いていた、その時の会話を熊倉トシは思い出した。

 

『困ったな……俺の尊敬する人物か』

 

『取材を受けられるだけでも有り難いと思うんだね。……それにしてもあんたの尊敬する人物かい?そりゃあ気になるねえ』

 

『ああ、まあ適当に偉人でも言ってれば良いんだろうが……俺が唯一、一人だけ挙げるとしたら赤木しげるになるだろうな。まあ、公言する気はないけどな』

 

『へえ、麻雀打ちかい?』

 

『そうだな……多分日本の麻雀界に一番衝撃を与えた人物だろうな……俺がプロになろうと思ったのも、そいつを越えるためさ……まあこのように無理だったんだがな』

 

 

(……なるほど、こいつはたまげたね……"背向の娘"にこの娘たち、まさかそれ以上の発見があるとはね……ちょっと怖くなってくるね?)

 

 熊倉トシはスケールの大きさに少し腰を抜かしそうになるが、とりあえず姿勢を保って皆に向かって言う。小瀬川白望らは熊倉トシの方を見ると、熊倉トシは天を仰いでこう続けた。

 

「……実は、ここに来る前にちょっと寄り道をしてたんだけどね」

 

「そこで、面白い娘を見つけたのよ」

 

「あんた達に……合わせてやりたいと思う……」

 

 

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視点:神の視点

 

 

「はあ……」

 

 熊倉トシが突然宮守女子高校にやって来たあの日から数日が経った今日、小瀬川白望はいつもと変わらぬ状態で机に突っ伏し、ゆっくりと自由な時間を過ごしていた。そんな小瀬川白望を見つけて、宇夫方葵は「あー、やっぱりいた!」と廊下から叫ぶ。

 

「小瀬川さーん!食堂行かない!?私と愛を育みに行きましょーう!!」

 

 女子高校生とは思えぬ発言をする宇夫方葵であったが、小瀬川白望もとうとう慣れてしまったのか、いちいち突っ込む事はせず「今ダルいからまた誘って……」といつもの答えを返した。するといつも通りの答えが返ってきた宇夫方葵は「今日もダメかー……残念!」と言うと、食堂の方へと向かっていった。そんな宇夫方葵を見送った小瀬川白望は突っ伏していた身体を起こして、勢いそのままに今度は後ろに倒れこむ。すると小瀬川白望の目に入ってきたのは日本では珍しい金髪の少女がスケッチブックらしきものを首から引っ提げ、赤ペンを競馬よろしく耳に掛けていた。小瀬川白望は今日から来るという留学生の存在自体は知っていたが、今この瞬間までどこにいるのか後ろの席にいたというのに分からず、小瀬川白望にとっては初めて見るものであった。もっとも、ホームルームの時小瀬川白望が話を全く聞いていなかったのが原因なのだが。

 

「留学生の子……後ろの席だったんだ」

 

 小瀬川白望が日本語が通じるかどうか分からないものの一応日本語でそう言ったが、留学生の少女はその言葉に対して頷くところを見る限り、少なくともある程度日本語は理解できるようだ。

 

(ふーん……まあ流石に日本語が何も分からないで日本なんかに来ないか……メグとかも話せるし)

 

 その留学生の少女を小瀬川白望は見ながらそんな事を考えていると、小瀬川白望の腹部から音が鳴った。昼食は今の今まで机に突っ伏していたため、何も食べていない状態の小瀬川白望の胃は耐えきれなかったようだ。留学生の少女は腹を鳴らす小瀬川白望に対し少し驚いていたが、小瀬川白望に向かって「……オナカ、スイタ?」と質問する。それに対して「うん」と頷くと、留学生の少女はパンを取り出して小瀬川白望にこう聞いた。

 

「パン、タベル?」

 

「……うん」

 

 




次回は豊音です。
ようやくメンバーが揃いますね……

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