宮守の神域   作:銀一色

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今回からとうとう原作編に突入していきます。
原作に則ったセリフとかはだいたい同じニュアンスですけど原作全く同じにはしてない(というより一々原作見て確認するのが面倒な)ので、原作やアニメのセリフとは若干の差異があると思いますが、そこの所はご了承願います。


第312話 高校二年編 ㉘ 例の人物

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視点:神の視点

 

 

(……全く、やっぱり東北の冬は寒いねえ)

 

 秋も終わり、ほんの数ヶ月前まで真夏であったとは到底思えないほどの寒さを誇る冬のある日、白銀に輝く岩手の世界を駆ける電車が一本走っていた。その電車に乗車している熊倉トシは、電車の窓から岩手の世界を一望しながら東北の冬の厳しさに対して愚痴を吐いていた。

 

(それにしても、遠野市の宮守女子ねえ……)

 

 そんな彼女は今から自分が向かう場所、もとい来週から自分の勤務先となる宮守女子高校の事を頭の中で考えていた。遠野市といえば遠野物語が有名ではあるが、熊倉トシは別のことがとても気にかかっていた。

 

(……秋一郎さんが言っていた"例の人物"。確か岩手に住んでるらしいけど……もしかしたら会えるかもねえ?)

 

 肝心の名前と岩手に住んでいるということ以外は何も教えてもらってはいなかったが、大沼秋一郎ほどの名プロ雀士が一目置く子供が岩手にいるという事を何年か前に熊倉トシは聞いたことがあった。確かに時期が合えばその人物がちょうど高校生になってちょうど宮守女子高校に所属しているという可能性もあるのだが、自分が今から行く宮守女子高校に運良くいるとは到底熊倉トシは思えなかった。

 

(宮守女子はインターハイどころか、県予選ですら名前は出ていなかったからねえ……個人戦でさえも)

 

 そう、もしそんな存在がいたとすればインターハイや県予選などの何かしらの大会で一度は名前は耳にするはずだ。しかしここ三年はおろか、熊倉トシが調べる限りでは宮守女子高校の名前を地区大会ですら見ることはできなかった。

 

(ま、期待するだけ無駄かもね……麻雀部は一応あるようだけど、どうやらまともに活動もしてなさそうだしね……)

 

 しかし熊倉トシはこの時点では気付いてはいなかった。宮守女子高校の名前が個人戦の地区大会ですら出ていないのはあくまでその人物が出る意志が無いからであり、別に活動をしていないというわけではなかった。

 

 

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視点:神の視点

 

 

「塞、何してるの?」

 

 臼沢塞は雪が降っているのにも関わらず、傘も差さずに遠野市の名物である宮守川橋梁……通称めがね橋と呼ばれる鉄道橋の上を走りさる電車を遠くから見ていた。そんな臼沢塞に傘を二本持ってきていた鹿倉胡桃は声をかける。振り返って鹿倉胡桃の存在を確認した臼沢塞は、めがね橋の方を指差してこう言った。

 

「来週辺りからくる新しい先生……多分さっきの電車に乗ってたかも」

 

 臼沢塞は電車に乗っていた白髪の人物を思い出しながら、鹿倉胡桃が持っていた二本の傘の内の一本を受け取って言う。鹿倉胡桃は「本当?それすら初耳なんだけど、誰か知ってたの?」と臼沢塞に向かって質問すると、臼沢塞は「いや、校長の幼馴染らしいって事以外は全然知らないけど……この時間帯にあの電車に乗る人なんてそうそういないから、そうかなー……って思って」と言う。鹿倉胡桃は「いやいや、気のせいじゃ無い……?」と返し、臼沢塞に向かってこう言った。

 

「そんな事よりも、ほら。シロが待ってるよ」

 

「え?ああ……うん。分かった。行こうか」

 

 鹿倉胡桃が校舎に戻ろうといった旨を婉曲な言い回しで臼沢塞に伝えると、臼沢塞はそれを了承して鹿倉胡桃についていく。が、臼沢塞の興味は未だあの電車に乗っていた白髪の女性に向いていたのであった。

 

(……悪い気のせいじゃ無いと思うけど)

 

 

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視点:神の視点

 

 

 

 

「珍しいねー……シロが卓についたまま何もしてないなんて。いつも私か胡桃が来るまでメールの返信してるのに、何かあった?」

 

 臼沢塞は卓の前にある椅子に座っていた小瀬川白望に対してあくまでも友達として、邪な考えを省いて小瀬川白望に向かって言う。……まあ若干の妬みはあったかもしれないが。

 

「ああ……ちょっとダルくて。家に帰ってからでもいいかな……って思ったから」

 

「それが理由なんだっ……!?」

 

 臼沢塞は小瀬川白望の自由奔放さに驚きながらも、日本のどこかで小瀬川白望からの返信を待っている誰かに対して(今頃なかなか返ってこないとか思ってるんだろうなあ……)と同情していたが、すぐさま(いや……よくよく考えれば私も何回かシロにやられてるな)と自分がそのような状況下におかれたことが何回かあったという事を思い出して同情の気持ちが綺麗さっぱり消えてしまった。

 

「胡桃は?」

 

「後から来るって」

 

 小瀬川白望が鹿倉胡桃の事について質問し、臼沢塞がそれに答えた瞬間、部室のドアが開いた音がした。臼沢塞はてっきり鹿倉胡桃が帰ってきたものかと思って「お、早っ。もう来た……」と言いながらドアの方向を向くと、そこには先ほど臼沢塞がめがね橋で見た白髪の女性が立っていた。その女性は傘を窄めると「一応、卓はあるみたいだね」と突然二人に向かって話しかけた。

 

「誰……?」

 

「胡桃が老けた……」

 

 小瀬川白望が本当にそう思っているのか、果たして冗談で言っているのか分からない微妙なラインの発言をするのをよそに、臼沢塞はようやくここで先ほど自分がめがね橋で見た人物であると認識する。臼沢塞は「新任の先生ですか?校舎広いから、迷ったりして……」と言うが、熊倉トシは臼沢塞の発言に対して首を振りながらこう言う。

 

「ああその点は大丈夫。っとその前に、自己紹介が遅れたね。私は来週からこの学校の教師になる、熊倉トシです」

 

「私の趣味は麻雀でね、自然と牌がある場所に足が向くのさ。だから私はここに来たんだよ」

 

 熊倉トシがそう自己紹介すると、小瀬川白望は「牌無くした時に便利……」とこれまた本気で言っているのかどうか分からないような発言をすると、臼沢塞は「いやいやシロ。幾ら何でも雑用やらせるのは失礼でしょ」とツッコミを入れる。そんな二人を微笑ましく見ていた熊倉トシは、二人に向かってこう提案した。

 

 

「……今からちょいと打たないかい?」

 

 その瞬間、臼沢塞の表情は途端に青ざめる。熊倉トシは何事かと思って臼沢塞の事を見ていたが、臼沢塞は「いや、止めた方が……四人いませんし……」とあまり乗り気ではないような発言をした。熊倉トシは(……やけに乗り気じゃないね?さっきの白髪の子が言ったように麻雀を全然しないっていうわけでもなさそうだけど……)と疑問に思いつつも、後ろからドアが開けられる音を聞いてニヤッと笑った。

 

「たっだいまー……って誰!?」

 

 鹿倉胡桃が部室内に見知らぬ人……熊倉トシを見てそう言うが、熊倉トシはその問いかけを無視して「これで四人揃ったね?じゃあ、始めましょうか」と三人に向かって言う。臼沢塞はそれを聞いて心の中で(熊倉さん、大丈夫かな……)と心配していた。そしてやけに気合の入っている小瀬川白望を見て、(……本当に大丈夫かな)と更に熊倉トシに対して心配の気持ちを一層強く抱いた。

 

 

 

 

 

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視点:神の視点

 

 

 

 

「……ロン」

 

「っ……!?」

 

「2900の7本場……」

 

 小瀬川白望が熊倉トシの捨て牌を見るやいなやそう宣言して手牌を倒す。積み棒は既に7本目を数えており、完全に小瀬川白望の独壇場のまま局は進行していた。いや、厳密に言えば小瀬川白望が親になってから既に7本場と、一向に小瀬川白望の親が終わらないため実際にはそんなに進んではいないのだが。

 そしてこの小瀬川白望の和了によって熊倉トシの点棒はゼロを割り、箱テンとなってしまったためこの対局は終了した。熊倉トシも自分がかなりの実力者であるという事を自覚していたが故に何も出来ずにトバされるという事に対して悔しさや屈辱を感じていたが、それよりも何よりも熊倉トシは感動していた。今自分の目の前にいる小瀬川白望こそが、大沼秋一郎が言っていた例の人物だと、熊倉トシは確信していた。

 

(まさか、本当に出会えるとはね……"あの娘"といいこの娘といい、宮守は遠野物語が劣るほどの魔境だね……)

 

 




次回からようやく大天使2名が登場します。

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