宮守の神域   作:銀一色

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今回はいつも通りの長さです。
だけど一向に話が進まない…


第20話 全国大会1回戦 ④ ギャンブラー

 

 

 

 

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視点:神の視点

東1局一本場

 

小瀬川 34600

小走 15400

上埜 25000

白水 25000

 

 

 

打{⑥}。

 

リャンメンを捨て、愚形の{⑤}単騎待ちに移行する。

 

小瀬川と共に打つ3人には何が起こっているか分からないが、特別観戦室の塞たちはその一打に唖然としていた。

 

ありえない。

 

そんな一打を打った小瀬川。ここは手堅く行くべきだ。確かに、あと一枚索子を引けば混一色を聴牌できるが、今はそんな切羽詰まる状況でもない。

 

しかし、塞達の不安を他所に、局は進む。

 

現在の状況は

 

小瀬川:手牌

{⑤345666} {白白横白 横東東東}

 

小走:手牌

{赤五五七八九赤⑤⑧⑨246西西}

 

上埜:手牌

{六七七九①③④④⑧1125}

 

白水:手牌

{六六②③⑤赤58} {横三四五 中横中中}

 

という状況で、次のツモは小走。

 

 

 

小走:手牌

{赤五五七八九赤⑤⑧⑨246西西} ツモ:{3}

 

小走のツモは{3}。これで一向聴となる。

 

打{6}

 

が、小走が一向聴にする為に切られる牌を、{6}を待ち望んでいた者がいた。

 

 

「カン…」

 

小瀬川:手牌

{⑤345} {666横6 白白横白 横東東東}

 

そう。ついさっき聴牌を変え、{⑥}を切った小瀬川が、ここで動く。

 

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特別観戦室

 

【ククク…来たか。】

赤木がやはりといった感じで笑う。

 

「…?どういうことだ?王牌に索子が眠っていて、それをツモろうというのか?」

智葉が、赤木の笑みを理解できずに言う。

 

【…20点だ。そもそも、アイツは混一色を狙う気はない。そのまま嶺上開花だ。】

赤木がサラッととんでもない事を言う。

 

「混一色の分岐点じゃあ無かったの…!?」

塞が驚いて赤木に問い詰める。

 

赤木はクククと笑い、

【混一色かどうかの分かれ目じゃねえ…和了れるかどうかの分岐点だよ。】

 

「{④ー⑦}じゃ和了れないって事?」

胡桃が答える。

 

【その通り。…だが半分だ。まずあの待ちでも…混一色に向かっても…和了ることは不可能だ。】

 

【ツモはさっきの{6と3}引きから見て、まず索子寄りだという事は分かる。筒子は引けないだろう…となると、残りは出和了りだが、これもまず望めない。】

 

【小走と上埜は{④を引いても⑦}を引いても溢れる事は無い…すると白水からは2人と比べ、溢れやすいかもしれないが、それより先に{8}が切られるだろう。】

 

【だが混一色に向かえばその分遅くなる。お前らには分からないかもしれんが、この巡目でカンしなければ小走が和了っていた。次の巡でアイツが仮に混一色を聴牌しても、奴がそれに追いついてリーチをかけ、上埜が{西}をツモって振り込んで終わりだ。】

 

つまり、と赤木は加え

【この局はあの巡目で{⑤}待ちにして、大明槓からの嶺上開花以外では和了れないってこった。だからあの{3}は分岐点なのさ…大明槓からの嶺上開花をする為の分かれ目…】

 

言葉で言えば如何とでも言える。

いや、赤木はできるのかもしれない。

しかし、あの状況で、あの形に手を仕上げる事が出来る人間など、誰がいようものか。

 

誰も、いない。

 

そう悟る3人であった。

 

 

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「ツモ」

 

小瀬川:和了形

{⑤345} {666横6 白白横白 横東東東}

ツモ:{赤⑤}

 

ドラ:{2北}

 

「嶺上開花ダブ東白赤1。満貫。」

 

淡々と点数を申告する。

 

通常では理解できない打ち筋で辿り着いた奇跡の和了を、ただ淡々と。

 

「…一本場を加えて12300の責任払い。」

 

 

(何だその和了形…馬鹿げた打ち筋、{④ー⑦}待ちば取らなかで{⑤}単騎…?)

白水がその和了形を見て絶句する。意味が分からない。何故速めの{④ー⑦}を捨て、挙句混一色にも取らないで和了る意味が。

 

(私と同じ悪待ち…?いや違う…のか?私は悪待ちにすれば逆に和了れるといった感じだけど…

小瀬川さんは悪待ちとか関係なしに和了れると確信しているからそう打っているのかな…?何にせよ、普通のオカルトよりオカルトチックな打ち筋ね…)

こちらもその和了形を気持ち悪そうに見つめる。自分と似たようで、全く違う異形の何か。

 

(…馬鹿、な。何故そんな打ち方が出来るんだ。)

小走は何故そんなメチャクチャな事が出来るのかが不思議でたまらなかった。

例えそう確信したとしても、そう実行できる人間などいない。そもそも、確信できるのがまずおかしい。

 

(ニワカなんてものじゃない…最早こいつは…)

 

ギャンブラー。雀士という枠組みから超えた、自分の破滅さえも厭わない、狂人。まさに小瀬川がそんな様に見えてきた。

 

(やらなければ、やられる…喰われる…!)

気付かない間に小走は小瀬川に恐怖していた。手を震わせ、額からは汗が出ていた。

 

「…2本場。」

 

小瀬川は3人の動揺と戦慄を気にも留めず、100点棒を取り出し、ヒョイと投げる。

 

 

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東1局 2本場 ドラ{6}

 

小瀬川 46900

小走 3100

白水 25000

上埜 25000

 

 

この麻雀には1回戦のみトビ終了がある。つまり、小走は残りの3100を吐き出せばその時点で小瀬川の勝ちが決まる。

 

であるからして、小走をトバさないように上埜と白水は打っていかなければならない。

が、トバさないようにする事は文字だけ見れば案外難しい事ではない。小走に差し込んで安全圏に戻したり、ツモらず小走以外の人間から出和了りしたりなど、色々な手段がある。

しかし現実的な話として、トバそうとする人間がいる時点でそれは至難の技と言える。

 

故に、今白水と上埜が最も聞きたくない単語は、

 

 

「リーチ」

小瀬川:手牌

{裏裏裏裏裏裏裏裏裏裏裏裏裏}

 

捨て牌

{横5}

 

 

小瀬川の聴牌宣言である。

 

ダブリーの2飜が確定する。どれだけ少なく見積もっても、ツモは30符3飜で2200オール。これならまだいいが、小走が打てば最低でも30符2飜の3500。つまり終わりだ。

 

だが、それを知りつつも、

 

 

「チー!」

 

小走:手牌

{二二五七③③④666中} {横534}

 

 

 

小走、動く。

 

(やられる前に…やる…!)

そう決心しつつ打{中}。一打目から既に危険を伴う地雷ゲームに足を踏み入れる。

 

「…」

 

小瀬川からロンの言葉はない。つまり回避したようだ。

 

続く上埜は小走が鳴けそうな中張牌の{③}を強打。別に振っても構わない。小走がトバなければいいのだ。

 

「…」

この{③}にも小瀬川からの発声は無く、セーフ。

 

小走は上埜の期待に応え、それを鳴く。

 

「ポン!」

 

これによって聴牌する事が出来る。待ちは嵌{六}。

 

{④}を河へと置くが、これも小瀬川は動かない。

 

続く上埜は差し込もうと{四}を打つが、実らず。

 

(違う…そっちじゃない!)

 

白水も同じく差し込みを狙いつつ小瀬川の安牌でもある{5}を打つ。

 

が、それも実らない。

 

上埜も鳴いてツモ順を変える事もできず、ついにツモは小瀬川の元へ。

 

(ここまでか…!)

 

打ったのはこれで3局目だが、嫌でも分かる。小瀬川はここで和了れないなんてミスはしない。

和了れると小瀬川が思えば、それは必ず的中する。

 

ゆっくりと小瀬川が山に手を伸ばす。

 

まるで焦らすかの様に。まるで死刑宣告をするかの様に。

 

(ぐっ…!)

 

 

が、

 

 

 

 

しかし、

 

 

 

 

「…」

打{北}

 

 

小瀬川が「ツモ」という単語を発する事は無かった。

即ち、無駄ヅモだったという事だ。

 

(え…?どういう…事だ?)

小走は若干困惑していた。どういう事だ。今までからして、ここで和了れないなどという失態をする筈がない。このギャンブラーは、そんなミスなどありえない。

 

(それとも…今までのは運が良かっただけ…?)

そう疑心暗鬼になるほど、インパクトが大きかった。

が、小走はまだある可能性に気づいた。

 

(そうか、私のツモ…!)

そう。ツモでないのなら、残りはロンしかない。つまり、当たり牌を掴まされるという事だ。

 

(何を引く…安牌を引けば、まだ和了れる可能性はある…!)

 

そう願い、ツモ牌を引く。その手は震え、今にも山を倒しそうな弱々しい手だった。

 

 

ツモ牌{六}

 

(…!)

引いたのは{六}。いや、掴まされたのは{六}。捨て牌に未だ姿はない、つまり危険牌の{六}。

 

(取り敢えず、この{六}は切れ…)

そう考え、手中に収めようとした時、

 

({六}…?)

 

 

小走:手牌

{二二五七666} {③③横③} {横534}

 

 

待ちは嵌{六}。ツモってきたのは{六}。

 

 

即ち。

 

 

「ツ、ツモ!」

 

小走:和了形

{二二五七666} {③③横③} {横534}

ツモ{六}

 

「断么ドラ3!2本場を加えて2200-4100!」

 

 

自摸和了。起死回生の和了。これによって、遂に長い東1局を終える事が出来る。

白水と上埜は、ホッとして点棒を小走に渡す。

 

親のダブリーを蹴られた小瀬川だが、そんなに驚く事も無く、手牌13牌を伏せ、親被りの4100分の点棒を渡す。

 

その顔に一切の悔しさは感じられない。

 

 

(…ここから巻き返す。王者の打ち筋というものを、ギャンブラー…お前にお見せしよう…!)

小走はすっかり勝ち気を秘め、サイコロを振る。

 

小走の親番で、東2局が始まる。

 

 

 

 




やっと東1局が終わったと思ってたけど、まだ東1局しか終わってないという。
こんなんで「準決勝と決勝は二半荘」とか言ってたけど大丈夫だろうか。
でも流石に「アカギ」みたいに一回のツモに二、三話はないです。まず小説でそんな事が出来る筈がない。
というか鷲巣麻雀完結は今年中とか豪語してた春の頃の私を殴りたい。絶対今年までに終わらないと思います。

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