宮守の神域   作:銀一色

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前回に引き続きです。


第302話 高校二年編 ⑱ 時間

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視点:神の視点

 

 

「……始めるで」

 

 

 園城寺怜達は病院から千里山女子高校の麻雀部部室へと戻り、まず始めた事は園城寺怜の未来視が麻雀でも使えるのか、そもそもその未来視をもう一度使う事ができるのか。その二つを確かめるべく、園城寺怜と清水谷竜華と江口セーラ、そして小瀬川白望が卓を囲んだ。園城寺怜の後ろには船久保浩子がタブレット端末を片手に園城寺怜の手牌を見ていた。

 そして園城寺怜は皆に向かって今から始めるという事を宣言する。その宣言に対して三人は了承の意を伝えるべく首を縦に振る。園城寺怜はそれを皮切りに、ゆっくりと目を閉じた。

 

「……」

 

 暫く目を閉じ続ける怜だったが、この場にいる皆は園城寺怜に対して見えたとかどんな感じだとか、一切声はかけなかった。無論、園城寺怜の集中を途切らせないためである。園城寺怜のいる卓から少し離れていた所から見ていた愛宕雅枝も、他の部員が寄ってこないように見張りつつも、しっかりと目線は園城寺怜に注がれており、危なくなったらいつでも対処できるよう心構えていた。

 

(……何も見えへん、お先真っ暗や。くそッ、やっぱアレ(未来)が見えたんは単なる偶然っていう事なんか……?)

 

 そして一方の園城寺怜は、目を閉じて集中しているが何も見えてこないのに対し若干苛つき、悲観になる。それもそうだ。自分がようやく親友と同じ土台に立つ事ができ、競い合い、高め合う立場になれるかもしれないというのに、こう出だしが悪ければ悲観になってしまう。

 

『……死にかけた当初は面白いと思ったんじゃがのお……何故そこまで悲観する、餓鬼』

 

 が、そんな園城寺怜の精神世界に突然何者かが入り込んでくるかのように、此処にはいないはずの誰かの声が聞こえた。園城寺怜はその声に対し驚き目を開けてしまいそうになるが、園城寺怜がどれだけ目に力を入れたとしても、一向に目を開く事ができなかった。

 仕方なく、園城寺怜は素直にその声の主に届くかどうかは分からないが、心の中で念じるように会話を試みる。

 

(なんやねん、誰やアンタ)

 

『質問を質問で返すな小童が。儂に口答えするなど数千年早いわ』

 

 やけに攻撃的な言葉で園城寺怜に返事をする。園城寺怜も先ほどまで苛ついていたのが、一気にその声のおかげかどうかは知らないが、我に返り冷静になる事ができた。園城寺怜はその声の主に対して若干怯むが、正直に理由を打ち解ける。

 

(なんでって……ウチ、麻雀できひんもん。未来もあれっきり見えへんし)

 

『ほう……できない、か。それほどの才を持つ者が、そんな愚図の代名詞のような台詞で悲観するか……甘ったれるな、餓鬼』

 

(……ウチが才能あるみたいな言い方やな。そんな才があるんなら今部活で三軍やっとらんわ)

 

 園城寺怜が自分の素性を明かしながら反論するが、その声の主は一蹴する。『そこが駄目なんじゃよ。だから貴様は平凡止まりなんだ』と園城寺怜に言い放つ。それに対して園城寺怜が何かを言おうとしたが、先に声の主がこう続ける。

 

『いいか、時間というものは万物、森羅万象において絶対に他者から侵されることのない絶対的概念。ここまでは分かるな?』

 

『それを……何だ?ただの偶然で、時間を超越した未来など見えるか?凡人には紛れだろうと越えることのできない時間という枠組みから、貴様は飛び出したのだ。という事は、貴様はその時間を越える才があるに違いないは確定的じゃろて……!そもそもそんな凡人に、儂は声をかけんわ……!』

 

 

(そんなん言われても……実際見えへんし)

 

 園城寺怜がそう言って気落ちするが、声の主はあっさりと『当然だ』と答えた。園城寺怜は先ほどまでの話とは百八十度違う発言に驚くが、声の主はこう付け足した。

 

『そんな心構えで見れるわけがなかろう……時間を超越できる者、言うなれば森羅万象、万物を統べる者……その者であると自覚を持て……!王……神……それすらも超えた者である事の自覚……もっと傲慢に、もっと貪欲に……全てを掴め……!』

 

(自覚……か)

 

『そうだ……!恐れるな!勝つ……仕留める……捻じ伏せる……神が選びし者は自分だ……!他がどうであれ、貴様には関係のない些末なこと……出来ぬことなど無いッ……!()()()()()を叩き潰すんじゃ!』

 

 そう園城寺怜に熱弁すると、園城寺怜はふふっと笑ってその声の主に対して(ありがとな)と礼を言う。そう言ってから声が止まり、完全にいなくなったのを確認した後、園城寺怜は目を開ける。

 

(……全てを、視る……!)

 

 その瞬間、キュイイイイインという音と共に園城寺怜が見ている世界が静止して、緑色に世界が染まる。あの時倒れたのと同じ現象が再び起こった。そして世界は緑色のまま進む。漸くこの時園城寺怜は未来が見えているという事に気付いた。

 

(うわっ、凄いなこれ……色んな視点から見えるんや)

 

 園城寺怜は未来を見ている内に、自分からの目線以外にも、様々なところか見ることができる事に気付いた。相手からの視点からも見えるお陰で、次に相手が引く牌も見る事ができる。その発見に園城寺怜が凄いなと感心していると、園城寺怜はあることに気づく。

 

(っちゅう事はこれ……イケメンさんのパンツとか見れんちゃうんか!?)

 

 そう思って神経を集中させるが、一向に見える気配はしなかった。どうやら未来を見て、その未来の中で何らかの変化もない物を見るための視点は見えないらしい。しかしそれが分かっただけでも十分と言わんばかりに園城寺怜は息を呑んだ。

 

(という事はあれやな……着替えシーンやお風呂シーンも覗けるな。まあ一緒に入れば万事解決なんやけど)

 

 そんな無駄なことを考えている内に、園城寺怜はそろそろ疲れてきたようで、未来を見ることを中断する。時間にして場が一巡と何秒分かの時間であったが、無事に見る事ができた。

 未来を見終えた園城寺怜は一瞬フラつくが、すぐに身体を固定して皆の方を見る。少し息切れはしていたものの、右手でグーサインを出すと、皆が明るい表情になった。愛宕雅枝も園城寺怜に近づいて共に喜ぶ。

 

「できたんやな!怜!」

 

「ああ……親切な爺さんと、みんなのお陰や」

 

「爺さん?」

 

 清水谷竜華がそう言うと、園城寺怜は「まあ、親切なんかどうなんかは分からんけど……」と付け加える。その会話を見ていた小瀬川白望が、誰も聞こえないほど小さな声で赤木しげるにこう聞いた。

 

「……何かやった?」

 

【さあな……俺は何もしてねえよ】




次回に続きます。

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