宮守の神域   作:銀一色

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祝、300回という事で前回に引き続きです。


第300回 高校二年編 ⑯ 救急

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視点:神の視点

 

 

「……怜?」

 

 園城寺怜が自分が咳き込んだ事に対して大丈夫と発言して立ち上がったまではよかった。しかし、園城寺怜が元気そうに立ち上がってから数秒後、彼女の異変にいち早く気付いたのは一番近くにいた清水谷竜華だった。何かがおかしい、そう思って園城寺怜に声を掛けるが、園城寺怜からの返答はない。一向に立ち尽くすだけであった。

 

「どうかしましたか?園城寺先輩」

 

 流石に清水谷竜華の呼びかけにも対応せず、ただ無視を貫いて立ったままの園城寺怜に船久保浩子も不審に思う。最初は船久保浩子も何か考え事でもしていたのかと思っていたのであった。が、園城寺怜にとっての小学校からのパートナー的存在である清水谷竜華にあそこまで無視を決め込む事など、園城寺怜に限ってあるわけがない。そういった二人の絆に対して熱く信頼していた船久保浩子は直ぐに先ほどの前提を覆し、こちらも園城寺怜に声を掛けるものの、やはり返答はない。

 

「怜、どうしたん……」

 

 ここまで来ると流石に皆にも今の園城寺怜が何かおかしいという事に気付き、江口セーラが園城寺怜にそう言って園城寺怜の肩に手を掛けようと、手を伸ばしながら近寄る。が、江口セーラがその腕を伸ばしきり、園城寺怜の肩に乗らんとしたまさにその時であった。立ったまま地面に固定されていたかに見えた園城寺怜の身体が、緊張している細い糸がプツンと切れたかの如く軸を失う。そしてそのまま、力無く園城寺怜の身体が横に倒れたのであった。

 

「……と、怜?」

 

 江口セーラは右手を伸ばしたまま、視線だけを下に移す。目の前で園城寺怜が倒れたというのに、江口セーラの脳が『園城寺怜が倒れた』という事実を確認した時間と園城寺怜が倒れた時間との間には数秒のラグがあった。

 いや、恐らく江口セーラは『園城寺怜が倒れた』と直ぐに理解できていたのだろう。ただ、それを江口セーラ自身が否定したかったために、事実を認めるのには若干の遅延があっただけで、江口セーラの容態は好調の健康体である。

 

「う、うそや……」

 

 江口セーラが目の前で起こった事実を認めたのとほぼ同時に、清水谷竜華がそう呟く。江口セーラと同じく、まだ現実に起こった事が事実であると脳は理解しているのだが、清水谷竜華という人間はそれを肯定できなかった。

 

「うそやろ……なあ、せやろ……?怜?だって……大丈夫って……」

 

「先……輩」

 

「怜!……嫌っ、嫌あああああああああああ!!!」

 

 清水谷竜華が絶叫に近い声を出しながら園城寺怜に駆け寄るが、園城寺怜から返事など帰ってくるわけもなく、ただ倒れているだけである。船久保浩子もようやく我に返ったのか、一番近くにいる清水谷竜華ではなく、江口セーラに向かって「江口先輩!今直ぐ園城寺先輩の気道を確保した後、呼吸と脈を確認してください!呼吸が無いようなら人口呼吸、そしてAEDを持ってくるように私に言って下さい!」と叫ぶ。この状況下ではまだ現実を受け止めきれていない清水谷竜華よりも江口セーラの方が働くとの判断だろう。江口セーラは「わ、わかった!」と言って園城寺怜に駆け寄り、呼吸の有無と脈の状態を確認し始める。

 

「おばさんは救急車呼んで下さい!ウチは園城寺先輩の方を見てるんで!」

 

「了解や。怜に何かあったら直ぐにジェスチャーで知らせるんやで!」

 

 愛宕雅枝はそう言うと、携帯電話を胸ポケットから取り出して119番に電話をかける。その時番号を押す時の愛宕雅枝の右腕は震えていたが、(……落ち着けや自分。教え子の緊急時に師が無能でどないすんねん!)と自分に叱咤し、震える手を強引に動かして救急車を要請する。

 

「……呼吸はあるみたいやな。脈はどうや」

 

「こっちも正常です……一体何が原因で……まさか熱中症?」

 

 一方では江口セーラと船久保浩子が応急処置を園城寺怜に施していた。船久保浩が園城寺怜が倒れた原因について考えていると、部室のドアが開く音がした。船久保浩子はもう救急車が到着したのかと自身の予想何倍も早い時間帯である事に対して驚いていたが、振り返ってみるとそこには救急隊員ではなく、白髪の少女が立っていた。

 

 

「……怜!」

 

「なっ!?し、シロ!?」

 

 江口セーラは突然の小瀬川白望の登場に驚き名前を呼ぶ。すると船久保浩子が小瀬川白望に向かって「小瀬川さんですね!?そこのドア、全開にしといて下さいわ!」と叫ぶ。そう言われた小瀬川白望はスッと部室のドアを開け、江口セーラの元までやってくる。

 

 

「……怜の容態は?」

 

「今んとこは怜が倒れただけで、他はなんも異常なしや……」

 

「今監督が救急車呼んで下さったんで、後7分程度で来ると思います」

 

 船久保浩子がそう小瀬川白望に対して答えると、小瀬川白望は「取り敢えず何も異常が無くてよかった……」と言って胸をなで下ろす。

 そして江口セーラはこの事態に何故小瀬川白望が気付いたのかと聞くと、小瀬川白望は先ほど清水谷竜華の悲鳴が聞こえてきたから、急いで部室にやってきたと明かした。先ほどは突然の余り乱心状態であった清水谷竜華も若干は落ち着いたのか、目尻に涙を溜めながら「怜……」と呟いて鼻をすすっていた。

 

 そしてその後は園城寺怜の身体に何の異常も現れる事なく、救急隊員が到着し、園城寺怜の痩せている身体を担架の上に乗せると、そのまま救急車の中まで運んだ。小瀬川白望達は園城寺怜の付き添いとして救急車に乗り、そのまま近くの病院まで運ばれた。

 

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視点:神の視点

 

 

 

「それで、ウチの怜は大丈夫なんですか。先生」

 

 園城寺怜が運ばれていった部屋とは違った部屋で、愛宕雅枝は医者に園城寺怜の容態について尋ねる。どうやら意識は回復したようで、小瀬川白望達は今頃園城寺怜のいる病室で園城寺怜と面会でもしている頃だろう。

 

「それなんだがね……」

 

 そして医者は口を開き、そう前置きする。それを聞いた愛宕雅枝は緊張で胸がドクドクと波打っていたが、次の瞬間呆気に取られたような声を上げる事となった。

 

「……どこにも異常が見られないんだよ」

 

「……はあ?」

 

 驚きのあまり情けない声を出してしまった愛宕雅枝を見て、医者は「あ、いや。それでは語弊があるね」と言って訂正する。

 

「というと……?」

 

「確かに意識を失っていた時は異常なまでの極度の身体の疲労が見られた。元々病弱な体質な彼女から見た話ではなく、常人からでも考えられないほどのね?」

 

「疲労……ですか?」

 

 愛宕雅枝が医者に向かってそう質問すると、医者は「……疲労って言ってもひとえに疲れてるだとか、そういう話じゃないよ。力が削られていたんだ」と付け加える。

 

「ところがどうしたものか……意識を回復した途端、一気に通常の容態に戻ったんだよ。力も元通り。私も長い事この病院で勤めてきたけど、この事例は初めてだね」

 

「そ、そうなんですか……?」

 

「そうだよ。病気を患っている……とは回復してしまった以上言い難いし、言うなれば……オカルト的な何かかね」

 

 

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「……皆、ウチ、皆に言わなきゃならん事あるねん」

 

 そして所変わって病室では、意識を取り戻した園城寺怜が自身の無事を喜んでいた小瀬川白望達に対し、そう切り出した。その瞬間一気に場の空気がピリッとするが、小瀬川白望は「いいよ……何」と園城寺怜を促す。

 

「実は……ウチ」

 

 

 

「未来……見えるようになったかもしれん」

 

 




怜が覚醒しましたね……
因みに医者は優しそうなおじいさんをイメージしてセリフを書きました。はい、どうでもいいですね。

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