宮守の神域   作:銀一色

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前回に引き続きです。


第298話 高校二年編 ⑭ 絶対にまた来い

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視点:神の視点

 

 

「はあ……死にたい……」

 

 

 『小瀬川白望とポッキーゲーム』という罰ゲームを執行され、それを半ば強制的に完遂させられた末原恭子は興奮が過ぎ去った後に来る反動、二言で言って仕舞えば羞恥と後悔に身を焼かれていた。部屋の隅っこに身を縮こませ、ため息を混じらせて後悔の念を口から吐き出す。

 

(でも……唇柔かったなあ……)

 

 しかしいくら後悔していると言っても、やはりあの時の感触が忘れられないのか末原恭子は自分の唇に指を当ててほんの数分前に起きた小瀬川白望との一瞬の接吻を想起し、その時の幸せな感覚に酔い痴れていた。

 

(ってちゃうやん……キス魔でもあるまいし、何より最低や……)

 

 そして我に返った末原恭子は再び自責の念に駆られる。感情が昂ぶったり落ち込んだりと起伏に富んでいた末原恭子の心であったが、後ろから小瀬川白望に声をかけられて今まで考えていた一切合切を消し飛ばされてしまう。

 

 

「ねえ、恭子」

 

「……っ!?な、なんや……」

 

 今の今まで小瀬川白望の事で心を揺れ動かしていたので、突然その本人に声をかけられて、驚きたじろぐ末原恭子であったが、小瀬川白望がそんな忖度などできるはずもなく、平然とした表情で何の特別な意味を持たずに末原恭子に話しかける。

 

「ごめん、恭子」

 

「い、いや……って、はあ?」

 

 藪から棒に小瀬川白望に頭を下げられて、先ほどとはまた違った驚きと困惑が頭の中を駆け巡った末原恭子だったが、小瀬川白望はそれを無視して「……恭子が落ち込んでたから、私とポッキーゲームやったのがそんなに嫌だったのかと……」と言う。

 

「そっ……そんなわけないやん!」

 

 それを聞いた末原恭子は条件反射的に小瀬川白望の肩を掴んでそう叫ぶ。いきなり叫んだ末原恭子に、小瀬川白望だけでなく周りの愛宕洋榎達も驚くが、末原恭子はこう続けた。

 

「……むしろ、ありがとうな。ウチの罰ゲームに付き合ってくれて」

 

「別に……まさか成功するとは思わなかったけど」

 

 小瀬川白望は末原恭子にそう言うと、少しだけ視線を逸らす。それを見た末原恭子は小瀬川白望にも羞恥という感情があるのかという驚きと、自分相手に羞じらいを感じているという事に対しての若干の嬉しさを感じつつも、末原恭子は「ま、まあ……あれは事故やしな!しゃあないわ!」とその喜びを隠すように誤魔化す。

 

「うん……って、あれ。じゃあなんでさっきまで落ち込んでたの」

 

 しかし小瀬川白望が思い出したかのように末原恭子に質問するが、末原恭子は「い、いや?そもそも気のせいだと思うで?」と言って強引に押し通す。普通なら嘘である事が一瞬でバレてしまうような拙い言い訳だが、小瀬川白望は末原恭子がそう言うならという事であっさりと受け入れてしまう。末原恭子はそんな小瀬川白望のお人好しなのかそれとも天然なだけなのか分からないが、そういう人を信用し過ぎな点に対して心配していた。

 

(いつか誰かに騙されるんちゃうか……逆に怖くなってくるわ)

 

 

 

 

(末原先輩と小瀬川さんとのキスシーン……あんなん見る方もキッツイわ……)

 

 そしてそんな二人を少し離れていたところから見ていた上重漫はというと、生まれてこの方見たこともないキスシーンを、よもや目の前で見てしまったという事で顔を真っ赤にし、初めての光景という事もあってか、それを頭の中で何度も何度もリフレクトさせていた。

 

「……顔真っ赤だけど、大丈夫?」

 

「わっ!!」

 

 小瀬川白望がそんな上重漫の視界に入って声をかけると、上重漫は叫び声をあげて思わず立ち上がり直立した。頭の中が真っ白になる上重漫だったが、小瀬川白望は上重漫に畳み掛けるように立ち上がって右手を上重漫の額にくっつける。額を触られた上重漫は声も出ないほどの驚きと戸惑いを見せたが、小瀬川白望は暫くすると右手を離し、「……熱はないのか。でも顔、すごい赤いよ」と上重漫に言う。

 

「あ……だ、大丈夫なんで!ホンマに、はい!」

 

「漫がそう言うなら……いいけど……」

 

 小瀬川白望はそう言って愛宕洋榎の元へ行くが、上重漫は直立したまま額を摩り、(……小瀬川さんに触ってもろた)と充足したような表情を見せ、口元を緩ませる。

 しかしそんな幸せ気分の上重漫を嫉妬に塗れた愛宕絹恵は音も無く上重漫に忍び寄って羽交い締めにする。上重漫は「な、何するんや!?」と叫ぶが、愛宕絹恵は聞く耳を持たずに「随分と幸せそうやったなあ……?漫ちゃん」と言い、上重漫ごと末原恭子の方を向く。すると末原恭子はいつの間にか水性ペンを右手に所持し、キャップを既に外していた。

 

「漫ちゃん……良かったやん、デコ触られてなあ?そんなに良かったんなら……ウチが触ってもええよなあ?」

 

「ちょ……待って下さ……」

 

「問答無用や!覚悟しい!」

 

 そう言って末原恭子は上重漫に向かって飛びつくように襲いかかった。そんな光景を側から見ていた小瀬川白望と愛宕洋榎は、「……何やってんの、あれ」「ああ、あれは恭子と漫のスキンシップみたいなもんや」といったやり取りをしていた。

 

 

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「……じゃあ、私はこれで」

 

「じゃあな、シロちゃん。元気でな」

 

「また会えるのを楽しみにしてるのよー」

 

 あれから時間が経ち、とうとう小瀬川白望の出発する時が来た。愛宕家から数歩離れたところで、小瀬川白望と愛宕洋榎と真瀬由子は別れの言葉を交わす。

 

「……他の三人は?」

 

 小瀬川白望がここにいない三人の事について触れると、愛宕洋榎は「別れが辛いから立ち会いたくないんやて。だからシロちゃん、絶対にまた来るんやで!」と答える。小瀬川白望は「うん……また来るよ」と言うと、二人に手を振ってその場を後にした。

 

 

 




次回からは千里山編の予定です。

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