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視点:神の視点
「んん……どこや、ここ」
小瀬川白望一行を乗せ、愛宕家へと向かっている車の中で末原恭子はようやく目覚める事となる。寝る前は明るい部室で小瀬川白望の腕を抱きながら寝ていたというのに、気がついたら車に乗せられていた末原恭子は戸惑うが、彼女の前の座席に座っていた小瀬川白望を見てホッとする。が、直後にどうして車に乗せられているのだろうという疑問が生まれたところで、小瀬川白望の隣に座っていた上重漫が末原恭子の起床に気付き、声を上げる。
「あ、末原先輩。目が覚めましたか」
そう上重漫が言うと、前の座席に乗っていた小瀬川白望と真瀬由子、助手席に座っていた愛宕洋榎が末原恭子の事を見る。愛宕雅枝もバックミラー越しに末原恭子の事を見て「久しぶりやな、恭子。ご無沙汰やで」と声をかける。
「ご、ご無沙汰してます……っていうかなんでウチらは洋榎んとこの車に乗っとるんや……?」
「泊まるんや、恭子」
「……は?」
末原恭子が心の底からでてきた言葉を愛宕洋榎に投げ返すと、愛宕洋榎は末原恭子に向かって「『は?』やない。これから全員でウチの家に泊まるんや」と返す。
「いやでも、ちょい待ちや。服はどないするねん!?」
「安心せえ。さっきまで漫とゆーこの家に行って服は調達してある。今はこれからお前の家に寄ろうとしてる最中や。嫌ならすっぽんぽんでええで?」
「だから大丈夫なのよー」
そう愛宕洋榎と真瀬由子に言われるが、起きたばかりの末原恭子はまだ現状を処理できずにいた。頭の中を色々なものが駆け巡るが、何より大きかったことが小瀬川白望と一緒に泊まるという事であった。
(嘘やろ……ウチと白望が泊まるって……ちゅうことはアレか?パジャマ姿の白望とかも見れるんか!?……ヤバすぎやろ)
「あ、ああ……分かったわ」
末原恭子は渋々納得したように返事をするが、愛宕洋榎と真瀬由子には末原恭子の口元が緩んでいるのが見え、それが上辺だけの態度である事に気付いていながらも、それをニヤニヤしながら見るだけで、末原恭子に何も言う事は無かった。
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「ほれ、ついたで皆さん」
愛宕雅枝がそう言ってシートベルトを外すと、愛宕洋榎が小瀬川白望に向かって「シロちゃん、絹起こしてや!」と声をかける。が、それに対し末原恭子が「なんでわざわざ白望にやらせんのや」と異を唱えた。
「なんや恭子。お前がシロちゃんに起こされなかったからってそう言うなや」
「ちっ……ちちちち違うわどアホ!」
末原恭子が顔を真っ赤にしてそう反論するが、前方にいる小瀬川白望が末原恭子の方を振り向いて「……私に起こして欲しかったの?」と聞く。小瀬川白望が自身の想いに気付いているわけでは無いというのを末原恭子は分かってはいるのだが、「な、なんでも……ない」と言って顔を隠すようにしてそっぽを向いた。小瀬川白望はハテナマークを浮かべながらも、愛宕絹恵の事を起こそうとする。
「絹恵、起きて」
そう言って小瀬川白望は座席から乗り出さんとばかりに身体を倒して愛宕絹恵の事を揺らすが、愛宕絹恵は一個に起きる気配はない。いくら問い掛けても起きる気配はなさそうなので、小瀬川白望は今度は頬を触ると、小瀬川白望が声を出す前に愛宕絹恵の目がパチっと開き、驚きの声を上げる。
「ひ、ひゃああ!?」
「あ、起きた」
小瀬川白望はそう言って愛宕絹恵の頬から手を引く。愛宕絹恵は先ほどの末原恭子のように何故自分の家に停めてある車の中にいるのか、そして何故小瀬川白望達も乗っているのかと一瞬の内に沢山の量の疑問が愛宕絹恵の頭を埋め尽くすが、それよりもなによりも小瀬川白望が自分の頬を触っていたという事実が一番驚いていた。
「おはよう……ってこの時間だからおかしいか。まあなんでもいいや。おはよう、絹恵」
「お、おはよう……ございます……」
動揺して敬語になってしまっている愛宕絹恵に、愛宕洋榎が更に動揺する燃料を投下していく。
「起きたか、絹。今日みんなでウチの家に泊まる事になったから、そこんところよろしくなー」
「は……ハア!?そんな急な話あるか!?」
「大丈夫や。もう決定事項やし、もう家に着いたからな。異論は認めへんで」
そう言い残して車から降りる愛宕洋榎。そしてそれに続くように小瀬川白望ら三人も車から降りていった。そして取り残された愛宕絹恵と末原恭子であったが、ここで末原恭子が愛宕絹恵にこんな一言を言った。
「……なんでこうなったんやろな」
「さあ……多分お姉ちゃんの所為だとは思いますけど……」
互いに互いの事を同情しながら、二人も車から降りて先に降りた四人に向かって歩き出す。その光景を見ていた愛宕雅枝は(天然なところも相変わらずやな……ホンマに)と思いながら車の鍵を閉め、六人の後を追うようにして家の中へと入った。
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「ウチと旦那は夕食作るから、あんたらは部屋で適当に時間潰しといてなー」
家に入って愛宕雅枝はまずそう言うと、五人の返答を待たずしてキッチンへ向かった。その道中で愛宕雅枝の旦那の首根っこを掴むと、「お客様四人来場や。大至急夕食を作るで、アンタ」と言うと、旦那は「分かったから首根っこを掴むのはやめてや雅枝さん!!」と苦痛な表情を浮かべながらも、愛宕雅枝に引っ張られていた。
「とりあえず荷物とか纏めとくかー」
愛宕洋榎がそう言うと、荷物を持っていた四人は首を縦に振り、愛宕洋榎と愛宕絹恵の部屋へと向かっていった。
前に小瀬川白望が愛宕家にやってきた時は愛宕絹恵が部屋を掃除していなかったため、大変な様を小瀬川白望に見せてしまったため愛宕絹恵にとっては苦い思い出のある話である。しかし、今回は違う。あれ以降しっかり部屋の掃除をしているため、愛宕絹恵に焦りの表情は無く、習慣付けてて良かったといった安堵の表情を浮かべていた。
そうして部屋の扉を開けると、そこには綺麗に片付いている部屋が広がっていた。それを見た小瀬川白望は感心しながらも、こんな事を呟いてしまう。
「おお……散らかってない」
「前に来たことあるんか?白望」
末原恭子が驚いて小瀬川白望に向かって聞くと、小瀬川白望は「前に来たことがあるんだけど、その時は結構散らかってたから……」と嘘偽りなく喋った。それに対して愛宕絹恵は羞恥の表情を浮かべながら「言わんといて下さい白望さん!!」と言う。が、結局それが墓穴を掘る事になってしまった。
「えっ、それって絹ちゃんの方の話だったんか!?」
「あ、いや……その……」
「てっきり洋榎の方だと思ってたのよー」
「意外な話やな……」
そう三人に言われた愛宕絹恵は顔を真っ赤にしながら「もう言わんといてや……」と言う。恥ずかしさのあまり言葉も大きく出せず、そのまま縮こまってしまった。そして一方では愛宕洋榎が真瀬由子に対して「私のイメージはどないなっとるねん……」と語っていた。
「まあ……昔の話だし、今は綺麗だからそれで良いと思うよ……」
「……シロさん……」
小瀬川白望が愛宕絹恵の肩に手を置いてそう言うと、愛宕絹恵は目を輝かせて小瀬川白望と目を合わせる。そんなあからさまに感情が変化した愛宕絹恵を見て、上重漫はこう思ったそう。
(幾ら何でも絹ちゃん、チョロ過ぎるやろ……)
「お前もやで、漫」
「漫ちゃんもなのよー」
「だから何で心が読めるんですか!?」
次回に続きます。
久々の3000文字。