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視点:神の視点
「あー……洋榎、この後どうする。時間も時間だけど……」
末原恭子と愛宕絹恵が小瀬川白望の腕を掴みながら寝ている事に対し、なんの違和感も感じていなかった小瀬川白望が愛宕洋榎にそう言う。すると愛宕洋榎は心の中で(なんでシロちゃんは恭子と絹に腕を抱かれながら寝られとんのにあんな平然といられんのや……慣れとるんやろか)と疑問に思った後、小瀬川白望にこう言った。
「せやな……結構時間経ったからな、そろそろ解散するか?」
「じゃあそうしようか……私は動けそうにないけど」
そう聞いた愛宕洋榎は「あっ、せやったな……」と思い出したかのように言い、末原恭子と愛宕絹恵の事を見る。彼女らを起こすというのも可能ではあるが、気持ちよさそうに寝ている二人を無理矢理起こすというのは二人の気持ちを理解している愛宕洋榎にできることではなかった。二人を小瀬川白望から引き剥がすという行為が二人にとってどれだけ寂しい事かを予測できるからだ。実際は半分ほどは揶揄いたいという理由から来たものだったが。
「うーん……でもここで寝かしとくのもあれやしな……」
愛宕洋榎はそう言って悩んでいると、雷鳴が愛宕洋榎の脳内に走ったかのように突然何かを閃き、「そうや!」と言って小瀬川白望の方を見る。
「シロちゃん。ちょっと待っとれ」
そう小瀬川白望に言った愛宕洋榎は、携帯電話を取り出すと誰かに電話をかけた。小瀬川白望ら三人はぽかんとした表情で愛宕洋榎の事を見ていたが、愛宕洋榎が電話を切ると、三人に向かってこう言った。
「よし、お前ら……今日はウチの家に泊まってけ」
「え、いいんですか先輩!?」
「うるさいアホッ!二人が起きたらどうすんねん!」
上重漫は叱咤する愛宕洋榎の事を見ながら、(先輩の方がうるさいやないですか……)と涙目になりながらも、勢いに乗る愛宕洋榎を止める事ができないのは百も承知なので黙りこくっていた。
「でも……結局この二人が起きるまで待たなきゃ……」
「結局変わってないのよー」
しかし小瀬川白望と真瀬由子は結局愛宕絹恵と末原恭子が起きないと事は進まないと反論するが、愛宕洋榎はチッチッチと舌を鳴らすと、携帯電話を取り出してこう言った。
「確かに二人をおぶったまま帰るのは不可能や。特に、ウチらのようなか弱い乙女にはできっこあらへん」
「自分で言っちゃダメですよ先輩……」
そうボソッとツッコミを入れる上重漫に対して、愛宕洋榎は「よし、漫はウチの家に来たらまずミーティングやな」と笑顔で言った。
「えっ、今のそう言う流れやないんですか!?」
「とにかく、話を進めて欲しいのよー」
そんなコントのようなやり取りをバッサリと切った真瀬由子に対し、愛宕洋榎は若干悲しそうな表情で「あ、はい……」と言い、改めて三人にどうするのかを話し始めた。
「つーことで、二人を寝かしたまま家に連れてくためにオカンを呼んである。だから泊まってけって言ったのはそいつのついでやな」
「なるほどね……車まではどうするの」
「シロちゃんの腕を掴んどるとはいえ、抜くことは出来るやろ。抜いたら二人くらいで抱えれば車までは大丈夫やろ」
「あれ?洋榎のお母さんは部活ないのよー?」
真瀬由子がそう聞くと、愛宕洋榎は「今日は休みとか言うとったからな。どうせ一日中家でゴロゴロしよーとか思ってたんやろ、一日に一回は外に出さんとな」と返した。
「よくそう思てたのに受け入れてくれましたね……」
「シロちゃんの名前出せば一発や。あのオカン、まーだ千里山に来るように狙っとるからな」
「私は行く気ないけど……」
小瀬川白望が言うと、「まあせやろな。でないと大変なことになるわ」と愛宕洋榎が返す。そうこうしている内に、愛宕洋榎の携帯が鳴ったので、まず小瀬川白望から二人を引き剥がすところから始めた。
「まず絹の方からやな……シロちゃん、手を抜いてみ。慎重にな」
「んっ……」
小瀬川白望が最低限の力を入れて腕を愛宕絹恵から引き抜く。その時に漏れた声が上重漫のハートを刺激していたようで、もはや小瀬川白望の事を(うわあ……声エッロいわ)といった友達や知り合いを見る感じではない、如何わしい目で見ていた。
「よし……漫、お前は先行って車のドア開けるんや。絹はウチとゆーこが持つ」
「でっ、でも先輩。末原先輩を担ぐのが小瀬川さん一人になりますけど……」
そう言う上重漫だが、次に返ってきた愛宕洋榎の「恭子なら大丈夫や、シロちゃんや絹や漫とは違って胸が無い分より軽いからな……ハハハ、畜生が!」という返答に納得すると、小瀬川白望の「恭子は私に任せて、漫」と言われると、名前で呼ばれて一瞬ドキっとしたが、すぐに愛宕洋榎と真瀬由子を抜かして車へとかけていった。
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「まー大人数やな。この人数は初めてやないか? 洋榎」
結局無事全員が車に乗れ、愛宕雅枝が車を運転しながら愛宕洋榎にそう言うと、愛宕洋榎は「せやな……バカみたいに金使って広くした車が役に立つ日が来て良かったな!」と返すと、「お前だけこっから徒歩にしとくか?」と言って若干圧力をかける。
「冗談や冗談。かわいい娘のジョークやんけ」
「高校生にもなって親に自分の事をかわいいと言うアホがおるか」
「まあそれはそうと、シロちゃん、久しぶりやな」
「お久しぶりです……」
愛宕雅枝に呼ばれて、小瀬川白望はそう返すと「相変わらずで何よりや。……あれから三年、アンタの身にも色々あったと思う。どうや、千里山に来るって気持ちにはなったか?」とまたもや小瀬川白望はスカウトされるが、小瀬川白望はきっぱりとノーと返した。
「ハハハ。ダメもとで言ってみたけどやっぱ無理やったな」
「まあ、インターハイに出るとしたら宮守で出る気なんで……」
「そうかー……まあせやろな。人数、集まるとええな。千里山女子の監督としてのウチからしてみればたまったもんやないけど、一雀士としてのウチは楽しみにしとるで」
全国2位の実力を誇る超名門千里山女子からのスカウトをあっさりと断る小瀬川白望の事を横で見ていた上重漫は、小瀬川白望のカッコよさに痺れていた。
(千里山女子の監督直々からのスカウトを躊躇うことなく断るって……カッコよすぎやん……!)
そんな会話を続けながら車で愛宕家に向かうのであったが、それでもまだ末原恭子と愛宕絹恵は幸せそうな表情で眠っていた。
次回に続きます。