宮守の神域   作:銀一色

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前回に引き続きですー


第291話 高校二年編 ⑦ 肴

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視点:神の視点

 

 

「はあ……ダルかった」

 

 小瀬川白望と愛宕洋榎達との勝負から小一時間が経ち、小瀬川白望はそんな事を呟きながら疲れているような素振りを見せ、部室のソファーに腰を下ろしていた。

 

「やっと解放されたんか、シロちゃん」

 

「うん……」

 

 それを見ていた愛宕洋榎が少しほどニヤニヤしながら小瀬川白望に向かってそう言う。元気のない返事をした小瀬川白望が何から解放されたのかといえば、それは姫松高校の部員達からであった。あの一戦が終わった後、どうやらその一戦のおかげで他の部員達からも注目を集めていたらしく、対局が終わり小瀬川白望が立った瞬間に周りの部員達から何者なのか、どうやってこれを和了れたのか、何かオカルトを持っているのかなどと色々聞かれた挙句、大勢の人数に揉みくちゃにされていたのだ。

 勿論、その状況を見ていた愛宕絹恵と末原恭子は良く思うはずもなく、群がっていた部員を引き剥がすようにしてその集団に混ざり、更に場は混沌となってしまったため、小瀬川白望は必要以上の労力を使ってしまったのであった。

 

「し、白望……」

 

 

「ん……恭子」

 

 そしてようやく騒ぎも収拾がついたのか、こちらも疲れたような表情を浮かべた末原恭子が小瀬川白望の名前を呼びながら現れた。それを見た愛宕洋榎は「おー、恭子。満員電車からの出勤お疲れさんやで」とネタをかましたが、末原恭子はそれにツッコむ余裕もないのか、冷静にぴしゃりと返した。

 

「洋榎も手伝ってくれたら助かったのに……えらい騒ぎやったんやで」

 

「まあトリプル役満なんて和了ったらそりゃあしゃあないわな……っていうかそれは恭子が勝手に突っ込んだだけやろ!それと、ウチのネタになんか反応せい!」

 

「いや、そういう事やなくてな……」

 

 そう言った末原恭子に対し、愛宕洋榎は「ほーん……そういう事やないってどういう事なんやろうなあ?」と笑みを浮かべながら言うと、末原恭子は顔を赤くして「うるさいわホンマ!」と言うと、ドスッと勢い良くソファーに腰掛けた。が、末原恭子は小瀬川白望からできるだけ距離を離しているので、その勢いは建前だけというのが分かる。

 それを見た愛宕洋榎は更に顔をニヤつかせていたが、そろそろ本気で怒られそうな気がしたのでそれ以上言う事はなかった。しかし愛宕洋榎は小瀬川白望と末原恭子の人一人分はある隙間を面白そうに見ていると、真瀬由子がお茶を持って愛宕洋榎の目の前に置いた。

 

「洋榎、お疲れ様なのよー」

 

「おう、悪いな」

 

 そう言って愛宕洋榎がお茶を飲んでいると、真瀬由子は小瀬川白望と末原恭子にもソファー前のテーブルにお茶をわざと寄せて置くと、「二人ともお疲れ様なのよー」と言って末原恭子の事をニヤニヤして見ていた。お茶が寄せられて二つ置かれている今、お茶を取るためにはどうしても小瀬川白望との距離が近くなる。それを狙ってなのかは末原恭子には分からなかったが、貰ったのに飲まないのは悪いのではないかという正義心と葛藤していた。

 

「ゆーこ、お前は大丈夫なのか?」

 

「何がなのよー?」

 

「いや……絹や恭子みたいに惚れてへんのやろかと思て」

 

 愛宕洋榎がそう聞くと、真瀬由子は笑顔を浮かべて「それよりもあんな表情を浮かべる恭子の方が面白いのよー」と言う。末原恭子と小瀬川白望には聞こえていなかったが、近くで休んでいた上重漫は(エグい先輩や……)と心の中で呟いていた。

 

「漫ちゃんも例外じゃないのよー?」

 

「せやで、漫」

 

「な、なんで心を読めたんですか!?」

 

 上重漫は驚いて立ち上がるが、愛宕洋榎は「シロちゃん見とる時の顔が恭子と同じやねん。そのふやけとる顔が」と言うと、上重漫は末原恭子の事を見る。確かに見かけ上は冷静を保とうとしているのが分かるが、その表情は恥ずかしさと嬉しさでどこか緊張がほつれたようば表情をしていて、完全に小瀬川白望に夢中になっていた。そしてかくいう上重漫自身も、小瀬川白望にそういう気がないわけではなく、自分を末原恭子に重ねながら心の中で呟く。

 

(う、ウチも小瀬川さん見たときは末原先輩みたいな顔しとるんか……はっず……)

 

 そう心の中で呟いている上重漫を見て、愛宕洋榎は真瀬由子と「やっぱ漫っておもろいわ。カマかけたらまんまとハマるし」と言いながらニヤニヤした表情で見ていた。

 

「ふう……疲れた」

 

 そんな事を話していると、愛宕絹恵が遅れてやってきた。どうせ同年代の人に小瀬川白望の事を問い詰められたのだろうと予測しながらも、愛宕洋榎は「おう絹。何があったんや?」と聞いた。

 

「それがどうもシロさんと一度話したいとか言うド阿呆がいてな……追っ払うのに手間取ったわ」

 

「お、おう……せやったか。そら大変だったな」

 

(全員が全員絹と同じ感情を抱いていないとは言えへんけど……もしかしたらそいつはシロちゃん目当てじゃなくてシロちゃんの麻雀目当てっちゅう可能性もあったけど……ま、どちらにせよ絹の敵か)

 

 そう心の中で思っていると、愛宕絹恵は意外にも大胆にソファーに座る小瀬川白望の側まで行き「やっぱりシロさんカッコよかったで、流石やったで!」と言って体を寄せる。隣にいた末原恭子はお茶を噴き出しそうになりながらも愛宕絹恵の事を敵対視していた。

 

「あー……ゆーこ。デジカメ持ってへんか?アレ撮影したいんやけど」

 

「持ってたら既に撮ってるのよー。それにしても、絹恵ちゃんがあんなに積極的だったのは意外なのよー」

 

「……多分、恭子にそういう気があるの分かったから、闘争心燃やしとるんやろうな」

 

 愛宕洋榎がそう考察すると、真瀬由子は上重漫の方を見て「漫ちゃんも早めに仕掛けないと取られちゃうのよー?」と言う。それに畳み掛けるようにして愛宕洋榎は「そうやで漫、恭子はしらんけど、絹とは小学からの付き合いなんやで」と言う。

 

「なんで先輩らの肴にされないといけないんですか……」

 

「ちゃうわ漫、お前を酒の肴にするわけちゃう。そもそもこの歳で飲めへんし、いつになってもウチはコーラ一筋や。ええか?これはお前のためでもあるし、ウチらの飲むお茶を上手くするためでもあるんやで。行くんや、漫」

 

「ゴーなのよー」

 

「だからそれを肴にするって言うんですよ!?」




次回に続きます。

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