宮守の神域   作:銀一色

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前回に引き続きです。


第290話 高校二年編 ⑥ トリプル

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視点:神の視点

 

 

 

(……気迫が凄いのよー)

 

 真瀬由子は親番である小瀬川白望から異常な程の気迫、圧力を感じて若干怯む。真瀬由子も決して弱いというわけでもなく、精神が未熟だというわけではない。というよりむしろ部内でも上位の人間であるのだが、そんな真瀬由子でも小瀬川白望を前にすれば怯んでしまうのだ。前局では警戒していた上重漫を和了らせる事なく、その上で嶺上開花ドラ3という通常では有り得ないような和了を見せた小瀬川白望は、まさに絶好調と言っても良いほどの状態であり、その分気迫も物凄い事になっており、ビリビリと身体に伝わってくるような錯覚を受けてしまうほど、小瀬川白望の凄みは増していた。

 

(な、なんなんや……こんなん魔王とか呼ばれてもおかしくあらへんほどのプレッシャーやんけ……鳥肌立つとかそんなレベルちゃうわ……)

 

 末原恭子もまた真瀬由子と同じように小瀬川白望の圧力に押され、もはや小瀬川白望を自分の意中の人として……小瀬川白望として見ていなかった。彼女の小瀬川白望を見る目はさながら物の怪を見るような、蟻の群れの中にいる蛇……そんな明らかにいるべきではない異質、不適合な存在を見る目であった。

 

(……っ、洋榎)

 

 そういった風に小瀬川白望を見ていると、末原恭子は目の前にいる愛宕洋榎の手が若干震えている事に気づいた。口では自分を鼓舞していたが、やはり恐怖に抗える人間などいるわけもない。しかしそれは末原恭子にとって当然の事であった。それはそうだ。今の小瀬川白望に闘おうとするなど、まさに軍艦や要塞に自分一人で突っ込もうとしている事となんら大差ないことである。絶望や恐怖を感じてもおかしい話ではないのだ。

 しかし、愛宕洋榎は末原恭子が感じていたのとは少し違っていた。確かに圧倒的気迫を放つ小瀬川白望に対して気圧されていないという事ではなく、しっかりと恐怖している。が、愛宕洋榎はその恐怖さえも自らを鼓舞する材料としていた。

 

(このどうしようもない感じ……これや。これやウチが求めてたのは!)

 

 逆境に燃える、とでも言うのであろうか。愛宕洋榎は小瀬川白望に恐怖さえしたものの、それをバネとして闘志を燃やしていたのだ。どれだけ燃えていたとしても、実力には大きな溝があるのは明白であろう。だが、小瀬川白望に全力を持って立ち向かうということ、これだけでも勲章ものであることには間違いないだろう。

 

 

「……リーチ」

 

 場が変わって東四局、最初に仕掛けたのは小瀬川白望。小瀬川白望はリー棒を投げ捨てるように放つと、牌を横に曲げる。まだ捨て牌が二段目にすら到達していない六巡目でのリーチ。小瀬川白望ほどの雀士が和了れないと思いつつもリーチなどという迷いのある無謀な賭けなどするわけがなく、和了れるという予感を信じてのリーチだろう。無論予感といっても運否天賦にしか過ぎないのは明白なのだが、小瀬川白望に限ってその予感を外すわけはなく、何もしなければ九分九厘和了るだろう。無論ブラフを抜きの前提としての話だが。

 

(……よっしゃ!)

 

「追っかけリーチや!」

 

 しかし愛宕洋榎もリーチ一つで引き下がれない。追っかけリーチを放つが、愛宕洋榎はそれに留まらずに手牌を倒し、「オープンや……」と言って小瀬川白望の事を見据える。

 

(そこでオープンリーチかいや……幾ら何でも無謀すぎひんか?)

 

 末原恭子はこのオープンリーチに対して疑問を持つが、小瀬川白望は正確に愛宕洋榎の意図を汲み取った。

 

(なるほど……他二人から和了る気はさらさら無く、あくまでも私との一騎討ちってことか。私はリーチをかけてるから、オープンしたところで洋榎に損はない……)

 

 こうなってしまった以上、二人はどうすることも出来ない。和了牌を掴まされればそれで終わりで、逃げることも避けることも出来ず、振り込むしかない。真瀬由子と上重漫が和了るという事も考えられるが、今の流れは小瀬川白望と愛宕洋榎にある。二人の付け入る隙などまったくもってなかった。

 小瀬川白望と愛宕洋榎の正真正銘の一発勝負であったが、その勝負の行方はあっさりと次巡の七巡目で決まってしまった。発声したのは小瀬川白望。東三局には爆発寸前の上重漫を抑えるという一歩間違えば負けの可能性もあった瀬戸際の闘いを制した小瀬川白望が、この一騎討ちの勝者となった。

 

 

「ツモ」

 

 盲牌をした小瀬川白望が卓上にツモ牌{9}を叩きつけると、小瀬川白望は手牌を開く。その瞬間、誰かが驚きの声を漏らしたが、次の瞬間には沈黙が訪れた。

 そして愛宕洋榎の言葉によって、その数秒間の沈黙は破られる事となる。

 

「ち、清老頭四暗刻単騎待ち……」

 

小瀬川白望:和了形

{一一一九九九⑨⑨⑨1119}

ツモ{9}

 

 

 愛宕洋榎は自身では役満を和了った事はないが、愛宕洋榎の人生でも何度か役満を見てきた。それでも初めて見たという老頭牌の暗刻のみで構成される役満の清老頭と、四暗刻単騎待ちという脅威の複合役がそこにはあった。役満の複合はないので点数に変わりはないものの、そうだとしても愛宕洋榎は衝撃を受けていた。ただ運が良いというわけではない。それだけでは片付けることのできないものが小瀬川白望にはある。そう思いながら小瀬川白望の手牌を見ていると、小瀬川白望はふふっと笑って愛宕洋榎に向かってこう言った。

 

「……16000オール」

 

 そう小瀬川白望は言うが、実際問題上重漫がこの和了でトンでしまっているのでこの対局は小瀬川白望の勝利で終わっているので、わざわざ点棒を渡す意味はない。しかしそれを分かってて小瀬川白望は言っていると愛宕洋榎は理解した上で小瀬川白望にこう返す。

 

「リー棒もつけて17000やな、シロちゃん。……ええ勝負やったで、ありがとな」

 

「こちらこそ……最後の一局、凄かったよ」

 

 そう言って小瀬川白望と愛宕洋榎は抱擁し合うが、他の四人は複合が認められればトリプル役満という多分生涯でもう見ることのできないだろう手牌を見ながら、小瀬川白望という雀士の恐ろしさをきっちりと脳内に埋め込まれていた。

 

 

(しっかし……清老頭か。ウチも和了ってみたいわあ)

 

 この時愛宕洋榎はそんな感想を抱くが、一年後彼女が生涯で初めてインターハイでの役満を和了る事になるのだが、それが清老頭である事はまた別の話である。




次回に続きますー
ここでしっかりと「考慮しとらんフラグ」を設置するシロ……

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