宮守の神域   作:銀一色

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前回に引き続きです。
そういえば前回で番外編を含めて300話に到達した模様。
そろそろ一年が経つという事ですね。早いものです。


第289話 高校二年編 ⑤ 爆発

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視点:神の視点

 

 

 

「ツモォ!自摸チャンタで3200オールや!」

 

 

愛宕洋榎:和了形

{一三七八九①①①⑨⑨⑨東東}

 

 

(はっや……流石にこれは対応しきれへんわ)

 

 前局は愛宕洋榎の推測を上回って小瀬川白望が上重漫から直撃を奪ったが、愛宕洋榎が親であるこの東二局はしっかり愛宕洋榎が和了って連荘に漕ぎ着ける。点数もそうなのだが、愛宕洋榎にとって何よりも大きかったのが小瀬川白望の猛攻から逃げ切れたこと。これが大きかったのだ。しかし、だからと言って今の和了が完璧かと言われればそれはまた違う話である。愛宕洋榎は少し勿体無そうな表情をしながら、自分の和了牌である{二}を見ていた。

 

(……惜しいなあ。ここで東を持ってきたら、三暗刻とダブ東もついてリーチ自摸で倍満だったのになあ……まだウチに流れが来てない証拠か……)

 

 そんな事を思いながら愛宕洋榎は小瀬川白望の捨て牌に視点を移す。さっきは勘が冴えていたのか、小瀬川白望の待ちを半分ほど当てることができたのだが、今度の捨て牌は全くもってわかりそうもない。相変わらずめちゃくちゃな麻雀をしているのだろうが、それこそが小瀬川白望の思う最適解なのだと愛宕洋榎は考え、積み棒を置き、声高らかにこう言った。

 

「さあ、連荘やで〜!」

 

 

 

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「……」

 

 

小瀬川白望

打{中}

 

 

「ロン、一本場を入れて1600なのよー」

 

「なっ……」

 

 先ほどは自分を鼓舞していた愛宕洋榎だが、あっさりと小瀬川白望が真瀬由子に振り込んで東二局が終了してしまう。末原恭子は内心惜しいなと思っていたが、となりにいる愛宕絹恵と愛宕洋榎はそうは考えていなかった。あれはどう見ても差し込みであり、意図的な振り込みであった。せっかく調子が上がってきたところで呆気なく逸らされてしまった愛宕洋榎であったが、小瀬川白望は愛宕洋榎よりも気になっている存在がいた。

 

(……次の親の子、なんだろ……逆境に強いのかなんなのか、変な感じがする……)

 

 それは上重漫であった。一年生ながらにして、副将を務めるという確かな実力を有している期待の新人。彼女の最大の強みが彼女の『爆発』である。未だ何がトリガーになっているのかは分からないが、稀にとんでもない爆発力を発揮する事があるのだ。その爆発力は並大抵の雀士はおろか、瞬間的な攻撃力では化け物クラスにも引けを取らないほどの、まさに爆弾のような少女であった。愛宕洋榎はそのトリガーは上重漫よりも格段に強い相手と闘った時だと思っていたのだが、どうやらそれ以外にも何かが必要であり、結局全貌は分からぬままである。

 

(気がかりになることといえば、漫が『爆発』する時はやたらとチャンタを和了っとったような気がしたけど……それ以外はわからんなあ)

 

(こういう時浩子がおったらええんやけど……あいつ、セーラのおる千里山行ったからなあ。なんか腹たつわ……)

 

 実は愛宕洋榎のこの気がかりになることは的を得ていて、上重漫が『爆発』する数局前から「789」の数牌が彼女に集まりやすくなり、それが予兆となって三倍満や役満などの鬼手を引いてくるのであった。それを上重漫が自分で気づいているのかは不明であったが、持続する事ができればそれこそ化け物クラスを凌ぐことのできる恐ろしい能力であることには間違いない。もっとも、この卓では『爆発』する前に消し飛ばされそうなのだが。

 

(……こういう時、和了られたら面倒な事になるのは目に見えてる。赤木さんが良い例……何万点差だろうと一気に詰められる)

 

 そして巡り合わせが良いのやら悪いのやら、次の局は上重漫の親番。連荘されて上重漫が『爆発』し、挙句親役満連発などそれこそ追いつこうと前にトビで負けてしまう。それは避けなければならないと思った小瀬川白望は、上重漫に対していち早く脅しを仕掛ける。

 

 

「ポン」

 

小瀬川白望:手牌

{二三三五六②⑦39東西} {横一一一}

 

(も、もう鳴くんかいな……)

 

 {一一二二三三}の一盃口が見えていたのにもかかわらず、小瀬川白望は上重漫が切った{一}を早々に鳴く。

 これに対して、自分の好調の兆しが見えていない上重漫は小瀬川白望の早々の鳴きに若干怖気付く。それを対面から見ていた愛宕洋榎は怪しみながらも、それがブラフか早和了なのかは判断がつかなかったのでとりあえず自分の手を進める。

 

(とにかく、ここで和了らんと話しにならへん……)

 

 しかし上重漫も親番であるが故に、そう簡単には折れずに手を進めようと試みる。が、真瀬由子が切った{三}に対して小瀬川白望は二度目の鳴きを行った。しかもそれに飽き足らず、次巡の上重漫の{四}に対しても小瀬川白望は鳴いてきた。

 

(萬子の清一色……悪くても混一色。こちとらチャンタ三色に邪魔な六萬抱えとるちゅうのに……これで切ったら確実に振るやん……)

 

 {六七八九}の状態で{六}を保持してしまった自分の判断に対しやってしまったと後悔する上重漫であったが、小瀬川白望の現在の手牌は{二⑦89}と、バラバラ過ぎる状態であった。

 そんな事など知る由もない上重漫は、引いてきた{八}を見て絶句する。小瀬川白望は{一と三}を明刻、そして{四五六}をチーで順子としているのだ。となれば{六七八九}辺りは危険牌中の危険牌であった。

 

(あかん、これはオリるしかないわ……)

 

 上重漫は散々迷った挙句オリを選択してしまうのだが、これを機に今度は小瀬川白望に風が吹いた。一発目に{⑦}を引いた小瀬川白望は{二}を落とす。上重漫はそれを見て(待ちを変えたんかな……)とあらぬ推測をしていたが、小瀬川白望は次巡に{8}を引いて{9}を切る。

 

(は……?きゅ、九索……?)

 

(あー……やってしもたな)

 

 上重漫が突然の{9}に困惑する。有り得ない、この状況で入れ替えての{9}打など、起こるはずがないのだ。上重漫の、小瀬川白望が和了っているという前提では起こるわけがないことだ。

 

(ま、まさか……ノーテンやったって事か!?)

 

(え、エグいわ……)

 

 上重漫と同時に末原恭子も驚愕、戦慄する。ブラフかバレるかどうかの瀬戸際であったはずなのにも関わらず、小瀬川白望は平然としていたのだ。その有り得ないほどの勝負師の姿に、愛宕洋榎は感服する。

 

(い、いや……でも、それやったら字牌暗刻でない限り役無しや)

 

「……カン」

 

 上重漫の期待を一瞬にして断ち切った小瀬川白望は、引いてきた最後の{一}を明刻にくっつけると、嶺上牌に手を伸ばし、そのまま卓に叩きつけた。

 

「ツモ、嶺上開花」

 

 上重漫は思わず二度見してしまうが、まだ終わりではない。小瀬川白望のこの手はまだ伸び得るのだ。今度は小瀬川白望は槓によって生まれた槓ドラを捲ると、そこには{二}。つまり、役無しの小瀬川白望の手が一気に嶺上開花ドラ3に化けたのだ。たった一度のブラフで、全てを変えた小瀬川白望。

 そしてこれも巡り合わせが良いのやら悪いのやら、今度は小瀬川白望の親番となる。愛宕洋榎は息を呑んで小瀬川白望の事を見据え、それと同時に心を昂らせていた。

 

(ええやんええやん……!この感じ、五年前を思い出すわ……!)




次回に続きます。

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