宮守の神域   作:銀一色

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こんばんは。
そろそろお題箱を消化しようと思いつつも文章に思うようにできないもどかしさ……


第288話 高校二年編 ④ ギリギリ

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視点:神の視点

 

 

 

「ここが部室や、小せ……白望」

 

「ふーん……部員多いね……」

 

 姫松高校麻雀部の部室に案内してもらった小瀬川白望はそんな事を呟きながら部室内を見渡す。小瀬川白望のいる宮守女子高校では恐らく……というか100パーセント見ることのできないであろう、大人数が一斉に卓につき、麻雀を打つという光景が広がっていた。ここまで大人数で麻雀を打っているという光景を見るのは小瀬川白望にとっても初めてであり、恐らく赤木しげるも見たことのないであろう光景であった。

 

(そのせいで何て言うんだろ……部活っぽさが出てる感じがするけど、そもそも部活だったか……)

 

 小瀬川白望は改めて麻雀というものがすっかり部活のような競技になってしまったという事を理解し、ちょっと寂しそうな表情をする。確かにここまで麻雀が普及し、圧倒的人気を誇ったのもこういう変化があったおかげなのだが、どこか赤木しげる達がいた世界の麻雀とは乖離してしまっている気がしてならなかった。しかし、小瀬川白望はただそれを寂しいと思うのではなく、(まあ……仕方ない気もするかな。廃れてるわけでもないし……オカルトだって赤木さんは例外として、やりようによっては私と対等に戦えるところまで成長できる……そういった意味では昔の麻雀の劣化とは言えないけど……幾分自分の成長の道を閉ざしてる人が多い……それは指導者の質によって変わるんだろうけど……)と推測する。

 そんな事を考えていると、愛宕洋榎は小瀬川白望の肩をポンと叩くと、「せっかく麻雀部の部室まで来て、卓も用意されてるんや……こんな状態で打たんと言ったら、麻雀に対して失礼や。そう思わんか?」と言って椅子に座る。それを聞いた小瀬川白望はふふっと笑って「いいよ。やろうか」と言って洋榎から見て対面にあたる位置に座った。すると愛宕洋榎に向かって、愛宕絹恵がこう質問した。

 

「お姉ちゃん?あと二人、誰が入ったほうがええかな?」

 

「そうやなあ……」

 

 口では誰にしようかと迷っているように振舞ってはいるが、実は愛宕洋榎は最初から誰を卓につかせるかを既に決めていたのだ。

 

(正直な話、恭子と絹は卓につかせられへん。二人がシロちゃんの事好きとかそういう理由じゃなく、な。恭子も絹も、この前のインハイの……というか宮永のお陰でかなりメンタルにきとる。そんな状態でシロちゃんと闘わせてもおもろないし、何よりトラウマになる。流石のウチでもそんな折られた心でシロちゃんとは戦いたくはないしな)

 

(そういった意味ではゆーこと漫は適役や。ゆーこはともかくとして、漫は強敵と当たるとたまに面白い結果を残したりするからな)

 

「ゆーこ、漫、お前ら卓につくんや」

 

「ウチらは見てろって事か、洋榎」

 

「まあそういう事になるなあ」

 

 そう言いながら愛宕洋榎は少し残念そうでもあり不服そうでもある愛宕絹恵と末原恭子に向かって「絹と恭子はシロちゃんの後ろで見るより、ウチ側から見とった方がためになるはずや。これだけは言える」と言って、サイコロを振った。そして回るサイコロを見ながら、小瀬川白望は昔の事を思い出したのか、愛宕洋榎にこう言った。

 

「……いつ振りだろうね、洋榎」

 

「中学の時は決着はついとらんかったけど、ウチにとっては二戦二敗や。ここで返させてもらうで、今までの借りをな」

 

 そう言って愛宕洋榎がニヤッと笑うと、小瀬川白望は「また借りが増えないといいね……」と半ば挑発気味に言いながら、配牌を取っていく。愛宕洋榎はそれに対しては何も返さなかったが、そのやり取りを後ろから見ていた末原恭子は驚いたような表情で小瀬川白望の事を見ていた。

 

(ウソやろ……たった二戦とはいえ、洋榎が二敗って……)

 

 末原恭子が驚くのも無理はない。末原恭子にとって愛宕洋榎という存在は絶対的強者であった。いつも自分の上にいて、遠く雲のような存在であったのだ。インターハイでも一つ上の三年生とも引けを取らないどころか圧倒していた。惜しくも愛宕洋榎は同年代の辻垣内に負けてしまったが、それを踏まえたとしてもあの中では五本の指には入るような強者だ。その愛宕洋榎が、二戦やって二戦とも負け。末原恭子は天地をひっくり返されたような衝撃を受けていたのは言うまでもないだろう。

 無論、同卓している上重漫もその事に対して動揺を隠せずにいた。真瀬由子は平然を装ってはいたものの、内心では(かなりヤバい人と当たっちゃったのよー)と呟いていた。

 

(しっかし……洋榎の言う事がイマイチ分かれへん。なんや洋榎の方から見た方がためになるって……洋榎のは牌譜とかでも死ぬほど見たし、普通気になる人の後ろで見た方がええんやないのか……?)

 

 末原恭子はそんな事を思いながら対局を見ていた。愛宕洋榎はなかなか良い配牌を引き当てたようで、快調な滑り出しを見せた。末原恭子も(ノってる時の配牌やな……典型的な好配牌)などと心の中で感想を言い、どんなに悪くても八巡以内には和了れるだろうと見ていたのだが、五巡後、小瀬川白望がリーチをかけて先手を取られてしまう。

 

(うわ……洋榎より速いんか……)

 

 やはり愛宕洋榎に対して二戦二勝をあげたのも満更偶然でもなさそうだと末原恭子は確信していると、愛宕洋榎はその小瀬川白望のリーチに対してあっさりとオリてしまった。流れが好調だというのにもかかわらず、勝負に行かずにあっさり足を返してオリ。それをみていた末原恭子はもったいないと思っていた。が、愛宕洋榎はむしろこのオリこそ値千金の判断だと感じていた。

 

(あっぶないなあ……多分ウチの読みやと、いずれ浮く牌がシロちゃんの和了牌。せやな……三索ってとこか?なんにせよ、手牌が狭まる前に避けれて良かったわ)

 

 そんな事を思っていたのだが、直後放たれた上重漫の{1}に対して小瀬川白望は「ロン」と発声する。愛宕洋榎は一瞬自分の読みが外れたかと思って驚いて小瀬川白望の手牌を見たが、小瀬川白望の待ちは{1222}の変則待ち{13}待ちであった。愛宕洋榎はそれを見て自分の読みが外れていなかったという喜びと、そこまで思考が及ばなかった事に対する悔しさを滲ませながら、小瀬川白望にこう言った。

 

「流石やな。今の漫が打ってなかったら多分ウチは打ってたわ。ええやん……やっぱこうじゃなくちゃな、シロちゃんと打つのは。こういうギリギリの闘いが一番おもろいわ」

 

 

「私もだよ……洋榎」

 

 

 二人はそう言い交わすと、すぐに東二局を開始する。しかし、後ろで見ていた末原恭子と愛宕絹恵はもちろん、振り込んだ上重漫と同卓する真瀬由子までもが、二人の話についていけずに置いてけぼりにされていた。

 

 




次回に続きます。

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