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視点:神の視点
「あー……あと30分でくるやん……」
「なんやー?絹、嬉しくないんか?」
翌日の朝、夏休みだというのに早起きしてちゃんと着替えた万全の状態で小瀬川白望を待っていた。そして愛宕洋榎が愛宕絹恵に冗談っぽくそう言うと、愛宕絹恵は「そんなわけないやろ!」と若干食い気味に返した。愛宕洋榎は若干引きながらも「ま、まあそりゃあそうやろうな……」と言う。
「もう……どうして乙女の気持ちを分かってくれないねんお姉ちゃん……」
「自分で乙女っていうなや……っていうか、そんならこんな早くから来なければ良かったんちゃう?」
「違うねん……気持ちの整理をする大事な時間やねん、お姉ちゃん」
(どうせシロちゃん前にしたらタジタジになるのになあ……ホンマかわええやっちゃな、絹は)
愛宕姉妹がそんなやり取りをしているうちに、約束の時間になり、遠くの方から小瀬川白望がやってくるのが確認できた。愛宕洋榎は小瀬川白望を見つけるやいなや手を振り「シロちゃーん!」と叫ぶ。隣にいた愛宕絹恵は小瀬川白望の事を直視できず、視線を逸らすようにして顔を赤くしていた。まさに先ほど愛宕洋榎が心の中で思っていた事が的中していた。
「おはよ……洋榎、絹恵」
小瀬川白望が眠そうにあくびをしながら愛宕姉妹に向かって挨拶すると、愛宕洋榎は「おはよ、シロちゃん!」と元気よく返したが、愛宕絹恵は恥ずかしがりながら「お、おはようです……シロさん」と小さな声で返した。
「……絹恵、どうしたの?」
「ふぁ、ふぁい!?」
小瀬川白望はそんな愛宕絹恵の様子が気になったのか、愛宕絹恵の方に寄ってそう質問するが、急に小瀬川白望に迫られた愛宕絹恵は驚きのあまり情けない声をあげながら後ずさる。遠くの状態で既にもう目すら合わせる事ができないのに、急接近されてしまった時には、おそらく愛宕絹恵は興奮と羞恥のあまりその場に倒れてしまうだろう。
「だ、大丈夫や、シロさん……はは」
「……ならいいけど」
愛宕絹恵がそう答えると、小瀬川白望は渋々納得したようにそう言う。そして久々の再会となった小瀬川白望と愛宕洋榎が仲良く話しているのを、それを近くで顔を赤くしながら愛宕絹恵が見ていた。
「あれ、そういえばさ……」
「んー?どうしたん?」
愛宕洋榎が小瀬川白望に向かって聞くと、小瀬川白望は愛宕絹恵の事を指差して「絹恵って高校でサッカーやってないの?」と聞いた。愛宕絹恵は驚いて体が跳ねるが、平常心を保つべく心の中で念仏のようなものを唱えていた。
「ああー、絹はな……ウチやシロちゃんと同じ道を歩む事に決めたんや。絹も前々からウチとかシロちゃんに対して憧れを抱いとったらしいからな」
「ちょ、お姉ちゃん!?」
愛宕絹恵がとうとう我慢が出来なくなったのか、愛宕洋榎の事を止めようとするが愛宕洋榎は「いやー……今回もシロちゃんが来ると聞いてから今日まで、ずっと待ち望んでたんやでー?」と言う。更に顔を赤くした愛宕絹恵は愛宕洋榎の肩を掴んで「ちょっとお姉ちゃん!何言うてんの!?」とちょうど小瀬川白望に聞こえない声量で言うと、愛宕洋榎は「意気地なしの絹のために、話すきっかけを作っとるんや。ほら、頑張ってきいや」と反論して、愛宕絹恵の背中を押して小瀬川白望の前に立たせる。
「絹恵……」
小瀬川白望が愛宕絹恵に向かって名前を呼ぶと、愛宕絹恵は返答する前に頭がショートしたようで、口をパクパクさせながら立ったまま硬直してしまった。それを見た愛宕洋榎は頭を抱えながら、「しゃーないなあ……シロちゃん、絹連れて行こか」と言い、愛宕絹恵を抱きかかえると、小瀬川白望は「どこに行くの……?」と質問する。
「そら……ウチと絹の高校、姫松高校や。全国常連校で鍛えたウチの実力、見せてやるで」
そう言って小瀬川白望に向かって笑みを浮かべるが、内心では(多分まともにやったら100パー負けるけどなあ……まあ、シロちゃんと打てればそれでええわ)と言い、愛宕絹恵を抱えて姫松高校に向かっていった。
次回に続きます。
今日は後頭部を2回も強く打ってかなり頭が痛いです。