しかも今日もそんな書けていないという……
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視点:神の視点
「ツモ、4000オール」
藤田靖子と竹井久にとっては地獄のような時間である小瀬川白望の親番、まずは小瀬川白望が親満貫を和了って100点棒を卓に置く。竹井久はもちろん、藤田靖子も小瀬川白望を止めるはおろか、追いかける事すら無理であった。
(マズイな……とてもじゃないが追いつけない……)
藤田靖子は歯を食いしばりながら手牌と山を崩す。聴牌にすらならなかった未完成な手に対して『この手を生かせなかったのはもったいない』という感想すら抱く事ができる前に小瀬川白望に潰されてしまった。小瀬川白望の圧倒的速度に対して藤田靖子はもはや驚く事もできず、ただただ小瀬川白望の恐ろしさを感じる事しかできなかった。
(捲るとかそういうのよりも……勝負にすらならない……!)
そこまで藤田靖子が考えたところで、初めて藤田靖子は気づいたのであった。藤田靖子の目の前にいる人物はプロでもなんでもない、ただの高校生のはずだ。しかしここでようやく藤田靖子は理解する。こいつは只者ではないと。数十分前の藤田靖子はまさかその無名の高校生相手に完膚なきまでに叩きのめされるなど思いもしなかったが、今ようやくそれが甘い考え出会ったと悟る。確実に自分より、プロ雀士よりも格上の雀士である。
(一応これでもプロ雀士を名乗っているつもりなんだが……そんな肩書きが吹っ飛んでしまうほど格上にこんなところで遭遇できるとは……)
藤田靖子は一度深く息を吐き、指導者という立場から挑戦者であるという立場へと切り替える。もはや強者の驕りなどは捨て去り、完全に藤田靖子は小瀬川白望に対して敬意と敵意を放つ。
(……面白い。やってやろうじゃないか)
(ん……やっと『捲りの女王』の本領ってやつか)
こうして、捲りの女王と神域の弟子がいよいよ全力でぶつかる事になる。決して対等な立場ではなく、そこには圧倒的差がある。しかあい、藤田靖子は気負けせずに全力で立ち向かい、小瀬川白望は全力をもって叩き潰しにかかった。
無論結果は小瀬川白望の圧勝で終わったのだが、藤田靖子は小瀬川白望との闘いを経てどんな強者にも立ち向かうという決意の重みを知った。たったそれだけではあるが、藤田靖子にとっては今後のプロ人生に大きく影響を与える大きな一歩である事には違いなかった。
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「……恐ろしいな。まさかインターハイに出ていない雀士の中でも、これだけの力を持ってる……というより、確実にプロで通用する化け物みたいな雀士がいるとは……」
「どうだった?白望さん。靖子の実力は」
対局が終わって、竹井久が小瀬川白望に向かって尋ねる。藤田靖子はその時初めて「やっぱり私が見るんじゃなくて、私が見てもらう側だったか……」と苦笑いしながら竹井久に向かって言う。
するとそれを聞いた小瀬川白望は「……簡単に言うと」と前置きしながら口を開く。藤田靖子は息を呑んで小瀬川白望の言葉を聞こうとする。
「やっぱりまだ自分自身に対して自信が持ててないと思う……今までさっきみたいな事はなかったんだろうけど……本物の強者と相対した時にそれは致命傷……それだけで勝負にすらならない重大な欠陥だよ」
「なるほど……自分自身に対しての自信……か。一度もそういった事を考えたわけじゃなかったけど……それだけを最重視した事はなかった。参考になるよ」
藤田靖子は素直に小瀬川白望の言葉を受け入れ、礼を言ってキセルを口に咥える。すると小瀬川白望は「……プロ雀士の中で、藤田さんはどれ位の強さなの」と急に藤田靖子に聞いた。
「そうだな……まあ中の上、良くて上の下じゃないかな、総合的に見て。本当に強いプロは私のように負けてからでなく、終始強いからな」
「ふーん……」
小瀬川白望はそう言って竹井久に向かって、「ありがとうね、久。いい機会だったよ」と告げる。竹井久は「靖子とは知り合いだからね……本来なら靖子の経験になればいいと思ったんだけど、白望さんのためにもなってよかったわ」と返した。
「因みに、小瀬川くん。君はインハイに出るつもりはないのか?君の実力なら今年のインハイで大暴れした宮永照にも十分勝てると思うが……」
「今のところはないです……目指す物はそこにはないので……」
そう小瀬川白望が答えると、藤田靖子はふふっと笑って、「なるほどな……やはり格が違うな」と小瀬川白望に言った。隣にいる竹井久はそんな話を聞いて心の中で(白望さんが宮永さんに一度勝ってるって事は後で教えてあげましょう……)と思いながら、二人の話を聞いていた。
次回に続きます。