宮守の神域   作:銀一色

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魔の金曜日からの脱却です。久々に金曜日に投稿できました。


第280話 高校一年編 ㉔ 無敵の要塞

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視点:神の視点

 

 

「よし、やろうか。小瀬川くん」

 

「お願いします……」

 

 

 藤田靖子がキセルを片手に小瀬川白望に向かって席に座るように促す。小瀬川白望は素直に卓につく。それに合わせて竹井久も席に座った。そしてもう一人適当な人物を卓に来たのを確認すると、藤田靖子は右手に何かを巻き付けて座り、賽を振った。

 

(最初の局は様子見と行きたい所なんだがな……やはりこいつは何かが違う)

 

 藤田靖子は配牌を取りながら小瀬川白望の事を見て思考を働かせる。捲りの女王と呼ばれている藤田靖子なのだが、小瀬川白望を目の前にして何やら不穏な空気を感じ取っていた。具体的に言えば、藤田靖子はこの時初めて捲れるビジョンが見えずにいた。今までどんな相手であろうと……それこそトッププロの中でも最上位のプロを相手にしようと、結果はどうであれ捲れるビジョンは見えていた。しかし、捲れる気がしないというのは初めての体験であった。まだ始まったばかりで捲るとかそういう話をする段階ではないのは確かなのだが、この時点で既に一度リードされたら藤田靖子では捲ることは不可能だというのを直感的に感じていた。

 

(攻めながら確かめるしかないな……)

 

 故に藤田靖子は最初から勝負を仕掛けに行こうとした。本来ならば相手の和了を見たりする事で何局か様子見に費やしたとしても最終的に捲る事で最初の失点を補うどころかプラスにできるため、個人戦ではいつも最初の局は見に回っていたのだが、捲れないと悟った藤田靖子に悠長に様子見をするという選択肢はなく、攻めて攻めまくるしか方法は無かった。

 

「ツモだ。 1300オール」

 

 そしてその甲斐あってか、藤田靖子は親の四十符二飜の1300オールをツモ和了、更に連荘と快調な滑り出しとなった。しかし藤田靖子の顔は浮かない。その理由は小瀬川白望の捨て牌にあった。藤田靖子は小瀬川白望の捨て牌を見ても、小瀬川白望が果たして張っているのかいないのか、それどころかどんな手を進めようとしていたのか。それすらも小瀬川白望の捨て牌からは分からなかった。改めて自分が様子見に回らなくて正解であったと藤田靖子はこの時思った。様子見に回った所で何も得れずじまいになる上に親まで流れると考えれば、攻めに回ったのは正に値千金の決意であった。

 

(……靖子、飛ばすわね。調子でもいいのかしら?)

 

(クソッ……ヤツが動いているのか、もしくはこっちの事を伺っているのか……それすら分からん!)

 

 このように竹井久からの視点と藤田靖子本人からの視点とではかなりのギャップが生じているが、正しいのはもちろん本人からの視点であり、未だ藤田靖子は小瀬川白望という雀士について何も情報を得られていない。そればかりかどんどん霧がかかるように全貌が見えなくなってきているようにも思えた。

 

(……なるほど、プロって言うほどあって確かにそこらの人とは違う。少なくとも久よりは数段格上。しかしその程度では私の想像を超えない……捲りの女王って言うくらいだし後半強いんだろうけど、リードをされないようにしてるのは逃げか……将又別の狙いか……)

 

 そして一方の小瀬川白望はというと、あらかた藤田靖子という雀士についてをたった一局で理解していた。あとは別名である『捲りの女王』としての一面だけである。確かに藤田靖子はリードされてからが本当の強さを誇るのだが、そこで問題なのは小瀬川白望の想像の域を超えるかどうかである。超えなければ当然の事ながら勝つ負けるよりも勝負にすらならないのは明白であり、小瀬川白望の想像の域を超えて初めて勝負になるのであった。そういった意味でも、藤田靖子の積極的な攻めは小瀬川白望の眉を動かせるものだった。リードされてから強いなら、わざわざ最初から攻める必要もない。しかし藤田靖子はこうして攻めに回っている。どうせなら自分の庭で闘えばいいのにと小瀬川白望は思いながら、それを今の所は逃げと断定せずに、藤田靖子の動向を探ろうとしていた。実際藤田靖子は自分の庭で闘ったとしても勝てる気がしなかったため攻めているので、逃げという意味でも正しいといえば正しいのかもしれないが。

 

「ロン、3900」

 

 そして一本場では小瀬川白望が竹井久から3900を取ってあっさり藤田靖子の親を蹴る。藤田靖子はあっさりと親を流されたという事よりも、小瀬川白望が和了まで聴牌の気配を読めなかった事に対して驚いていた。捨て牌と和了形を照らし合わせてでもしないと小瀬川白望が聴牌していたという事を理解する事ができないというのは実に恐ろしいものというのは容易に想像がつくだろう。

 

(……相手に聴牌を悟らせないオカルトでも持ってるのか……!?そう思えてしまうくらい今のは分からなかったぞ……)

 

 実際にはオカルトよりもタチが悪い小瀬川白望の迷彩に見事に藤田靖子はハマってしまっていた。今局は小瀬川白望に振ってはいなかったが、藤田靖子が振るのも時間の問題であった。

 

「ロンッ……!5200」

 

「なっ……地獄待ち……!?」

 

 そして次局の東二局で藤田靖子が四枚目の{8}を小瀬川白望の嵌張で刺される。捨て牌には見事に筋の{赤5}があり、直撃を取るべくして取った和了であった。それと同時にさっきと合わせた二回の和了で藤田靖子が作った僅かなリードを小瀬川白望はふき飛ばし、一気にトップに躍り出た。

 

(やっぱり白望さんに真っ向からやったら勝てないわよね……さあ靖子、次局の白望さんの親が正念場よ……)

 

 そして藤田靖子に向かって竹井久はエールを飛ばす。しかしこの卓は藤田靖子のためだけの卓というわけではなく、竹井久も挑戦者である。藤田靖子と竹井久、二人の挑戦者は小瀬川白望という無敵の要塞に向かって立ち向かう事となる。




次回で麻雀回は終わりです。
お題箱の方も宜しくお願いします。

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