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視点:神の視点
「……ロン。これで片岡さんのトビだね」
「じぇ、じぇえ!?裏の裏をかいたはずなのに……」
結局、小瀬川白望の親を誰も蹴る事なく対局は進み、果てには小瀬川白望以外の三人に一度も賽を振らせる事なく連荘で東一局で終わらせてしまった。片岡優希は卓に突っ伏しながら「ほ……本当に誰にも賽を振らせずに終わらせちゃったじぇ」と、二局前に小瀬川白望が突然言い出した宣言を的中させた事を言う。
「な、なんてすばらなお手前……失礼ですが、御年齢は幾つなのでしょう?」
「……16」
「高校一年生……この実力で二つしか年齢が違わないんですか……」
「で、でも……インターハイではおねーさんみたいな人はいなかったじぇ!」
「確かにそうですね……」
花田煌と片岡優希がそう言うと、小瀬川白望は「ああ……インターハイとかには出てないよ。出ようとは思ってないし」と答える。すると原村和が「そんなに強いのに……勿体無いですよ」と小瀬川白望に向かって言うが、小瀬川白望は真っ直ぐな目でこう返した。
「……強いていうなら、私の目標はそこにはないから……かな。私の目標はインターハイよりももっと……遠くの方にある」
そう小瀬川白望が答えると、花田煌が立ち上がって叫ぶようにして「ッ〜!すばらです!」と言った。小瀬川白望含む三人は少し驚いたが、花田煌は構わずこう続ける。
「それほどの実力を有して尚、さらなる高みを目指すその姿勢!まさにすばらです!」
「あ、ありがとう……?」
小瀬川白望は花田煌に若干押されながらも、花田煌と握手を交わす。そうしてその最中、小瀬川白望は対局中に感じた違和感を思い出した。
(そういえば花田さん、追い込まれてから人が変わったように何度も私の待ちを避けてたおかげで、当初計画してた花田さんをトバせなかったけど……追い込まれてから燃えるタイプなのか、それともなんらかの能力のせいなのか……)
そう、小瀬川白望はあの対局中で片岡優希を飛ばすまで何回か花田煌を先にトバして終わらせようとしていたのだが、花田煌の点棒がギリギリの状態になった頃から急に小瀬川白望に振らなくなったのだ。それならツモでと思っていた小瀬川白望だったが、何度ツモってもツモる事ができなかったのである。確実に引く流れであるというのに、引く事ができなかったのだ。
実のところ花田煌は自分の点棒がマイナスにならない……つまり、トバない能力を持っているのだが、花田煌はその事に気づいておらず、小瀬川白望も能力なのか、そういう人なのか判別する事ができないのでその事が明かされる事はなかった。……その能力があったが故に花田煌は二年後に強豪校の先鋒を任される事になるのだが、それはまた後の話である。
「さて……そろそろお暇させてもらうかな」
「も、もう行ってしまうんですか?もっとゆっくりしても……」
そして小瀬川白望が立ち上がるが、原村和がそれを引き止めるようにして言う。小瀬川白望はそれを聞いて少しほど考える素振りを見せたが、「ゆっくりしたい気持ちは山々だけど……用事があるから」と返した。それを聞いた原村和は少し悲しそうな顔をしたが、直ぐに「じゃ、じゃあ!メールアドレスとか教えてもらっても……いいでしょうか!?」と聞いた。
「別にいいよ」
「わ、私もおねーさんのメールアドレス、交換したいじぇ!」
「私も同じくです!」
すると花田煌と片岡優希も自身の携帯電話を持って小瀬川白望のところへ駆け寄る。小瀬川白望にとってはもはや慣れてしまったメールアドレスの交換。小瀬川白望は慣れた手つきで交換を完了すると、三人に向かって「じゃあ……またどこかで会えたら」と言い残し、その場を去っていった。
「……行ってしまったじぇ」
「そうですね……ゆーき」
そうして小瀬川白望が去った部室内で片岡優希と原村和がそう言っている隣で、花田煌は自身の携帯を握りしめてこんな事を考えていた。
(小瀬川さんの目指すすばらなもの……それは一体なんなのでしょうか)
(……多分、私には分からないでしょうね。私はあそこまで強く、すばらな人間ではない)
(でも……小瀬川さんのように、ああして旅をする事で何かを見つける事が私にも出来るのでしょうか……?)
そんな事を考えながら、花田煌は自分のバックに入っていた進路希望調査書を見る。本当なら部活が終わった後、担任の教師に渡すつもりであったのだが、花田煌はもう少し考えてもいいかな、と思っていた。
そして一方、その隣にいる原村和は、小瀬川白望が去っていったドアを見つめながら、心の中で呟く。
(白望さん……私の頑固な考えを真っ向から否定したどころか、私の考えを曲げさせ、覆したりして……!)
(……責任、取ってもらいますからね。白望さん)
その目は別れを惜しむ気持ちと、恋に燃える乙女の気持ち、両方が複雑に混ざり合った気持ちが映し出されていた。ただ、わかる事といえば、小瀬川白望に想いを寄せる人物がまた一人、増えてしまったという事だけである。
次回は久回です。