宮守の神域   作:銀一色

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今回からは臨海回です。
とは言っても、原作一年組は出ない予定ですが……


第270話 高校一年編 ⑭ スカウト

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視点:神の視点

 

 

「おはよ……智葉」

 

 宮永照と弘世菫から別れて、小瀬川白望が次に向かってのは辻垣内智葉のところであった。小瀬川白望も流石に辻垣内智葉の家の壮大さには慣れてしまったのか、先ほども何の驚きもせずに辻垣内智葉の家に上がっていた。

 そうして小瀬川白望が辻垣内智葉に向かって手を振ると、辻垣内智葉はぎこちない笑顔を見せて手を振り返す。辻垣内智葉は心の中で、高校生になってから小瀬川白望の色気も随分と増しているといった事を言いながら、それを表に出さずに押し殺して「ああ、おはよう……」と言う。すると辻垣内智葉の後ろからメガン・ダヴァンも飛び出してきて、小瀬川白望に「オハヨウゴザイマス、シロさん」と挨拶する。

 

「……あれ、ちょっと日本語下手になった?」

 

 小瀬川白望はメガン・ダヴァンの挨拶を聞いて率直にそう問いかけると、メガン・ダヴァンは笑いながら頭を掻いて「イヤア……チョットアメリカに戻っタラ、少しワスレちゃって……」と答える。それに付け加えるようにして辻垣内智葉が「こっちに戻ってからも、臨海女子だと日本語じゃなくても通じる奴が多いからな」と言う。

 

「ああそうか……確か留学生が多いんだったね。インハイでも殆ど留学生だったし」

 

「多いなんてものじゃないさ。むしろ私のような純粋な日本人が珍しいくらいさ」

 

 小瀬川白望が「ふーん……」と言うと、辻垣内智葉に向かって続けて「団体戦、智葉の実力なら出れると思ったけど……出なかったんだ?」とインハイを見てからの疑問をぶつける。小瀬川白望がインハイで団体戦の臨海女子を見て思ったのは、正直な話小瀬川白望が見る限りで、辻垣内智葉よりは断然格下の雀士だけであった。それはあくまでも辻垣内智葉と比較した場合であり、普通に見れば化け物軍団であることには変わりないのだが。

 

「……まあ、確かに私も出ようとすれば可能だったんだが、どうにもチームプレイというのに私は不向きのようでな。だから個人戦だけで充分だったんだ。……まあ、最終的に個人戦、団体戦共に宮永に負けたがな」

 

「ミヤナガってあのハリケーンガールの事ですカ」

 

「ああ……まさか新たな武器を提げて戻ってくるとは思ってなかった。宮永が出場しているという時点で驚いたのに、更にあいつは進化してやがった。……シロ、あいつと打ってきたんだろう?率直にどうだった」

 

 辻垣内智葉がそう小瀬川白望に尋ねると、小瀬川白望は少し悩んだような表情をする。そうして小瀬川白望は少しの間考えてから、彼女は口を開いた。

 

「……まだ、足りないかな。確かに照は成長したけど……まだ伸びる。もっと成長できる」

 

 そう小瀬川白望が辻垣内智葉に向かって言うと、辻垣内智葉とメガン・ダヴァンが居る位置からもっと奥の方から、「フフフ……噂に似合わず可愛いと思ってたけど……やっぱり噂は本物のようね。凄みを感じたよ」と言って若い外国人の女性が三人の方へ向かって歩いてきた。

 

「……智葉、誰?」

 

 小瀬川白望が辻垣内智葉に向かって聞くと、その女性は少しほどずっこけるようなリアクションをとって「ハハハ……インハイでも結構取り上げられてたと思うが……まあ私はこの子達、臨海女子麻雀部の監督をやってるアレクサンドラ・ヴィントハイムだ。よろしく。君の伝説めいた話はかねがねサトハから聞かせてもらってるよ」と言って小瀬川白望に握手を求める。しかしそれを辻垣内智葉は切るようにしてアレクサンドラに向かってこう言った。

 

「無駄ですよ、監督。シロを引き抜こうたってそんなの、シロが承諾しないに決まってる」

 

(ホントはサトハもシロサンに来て欲しいノニ……素直じゃナイデスね……)

 

「聞こえているぞ、メグ」

 

「……Why!?」

 

 そういったやりとりを横目に、小瀬川白望も「まあスカウトする気だとしても……私が行くことは無いんで。インハイも行くとしたら宮守で出ますし」と言ってアレクサンドラの手を握る。

 

「残念だな。キミが来ればサトハとキミの二枚看板で臨海女子の黄金時代が築けたと思ったんだが」

 

「まあ、そういう事です……まあでも、もし私との賭けに勝ったら考えますよ?それなりのもの(対価)は賭けてもらいますけど」

 

 小瀬川白望がそうアレクサンドラに言うと、辻垣内智葉は「シロ……」と心配そうな声色で小瀬川白望に言うが、アレクサンドラはハハハと笑って「流石にまだ人生を楽しみたいからね。折角だけどお断りしておくよ」と言って両手を振る。

 

「それで、何で監督さんが智葉の家に?」

 

「アア……カントクが新たにスカウトしてきたプレイヤーと会う日なんでスヨ」

 

 そうメガン・ダヴァンが言うと、アレクサンドラが「まあ、サトハとメグは将来部内の主軸になってもらうからね。サトハは団体戦は出ないっていうけど。上の二年と合わせても、すぐに引退してしまうし……一年の二人ならちょうどいいなと思ったんだ」と付け足すようにして口を挟んだ。

 

「っていう事は、その人はここにいるの?」

 

 小瀬川白望がそう言うと、辻垣内智葉は「ああ。さっき見てきたがまあ、特徴的な奴だったぞ。確か欧州で結構な成績を残したんだっけか?」

 

「へえ……」

 

「まあね。世界ランカーであり、欧州選手権では風神(ヴァントール)って呼ばれるほど大暴れしていたようだ」

 

「風神……ねえ」

 

 そう小瀬川白望が言うと、アレクサンドラは小瀬川白望に「なら少し彼女と会ってみるかい?」と提案する。小瀬川白望は「うん。世界ランカーが果たしてどれほどなのか見てみたいからね」と言って、アレクサンドラについていった。そしてそのスカウトした風神のところまで行く最中、アレクサンドラは小瀬川白望と会う前に事前に辻垣内智葉の言葉を元に下調べをした内容を思い出していた。

 

(……小瀬川、白望。サトハの噂が全部本当なら、架空の人物とまで言われた日本麻雀界のレジェンド中のレジェンド、アカギシゲルそっくりのプレイヤーって事になるけど……命を賭けてでも獲るべきだったかしら。勝てるかどうかは別として)

 

 アレクサンドラは心の中で若干後悔しながらも、すぐに(まあ……挑んだとしても100パーセント私が負けただろうね……彼女も100パーセント勝てるとまでは分かっていなかっただろうけど、それでもあの流れじゃ私に勝ち目はなかったわね。命拾いしたわ)と言って、辻垣内智葉の家の中にある庭に生えている木の上に向かって、「明華。君に会わせたい人がいるんだが」と言った。

 

「分かりました。カントク」

 

 そう木の上から返事が返ってくると、明華と呼ばれた少女は日傘をさしたまま、木から飛び降りる。しかし、明華は風を操っているのか、重力がかかっているとは思えないほど彼女はゆっくりと地面に降りた。飛んだというよりは、浮いたに近いであろう。そして彼女は小瀬川白望に向かって礼をする。

 

「初めまして。明華です」

 

「初めまして……小瀬川白望。……文字通り風神さんだね」

 

 そう小瀬川白望が言うと、明華は「ありがとうございます」と言って日傘をクルクルと回す。風神と神域を継ぐ者、同じ神という言葉がつく者同士似ているように見えて、中身は全くと言っていいほど違う二人が会合した瞬間であった。

 

 




次回に続きます。

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