宮守の神域   作:銀一色

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照&菫回は終わりです。


第269話 高校一年編 ⑬ 玉座を守れ

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視点:神の視点

 

 

「ふんだ……もういいよ……」

 

「だから誤解だと言ってるだろう……白望もこいつに何か言ってやれ」

 

 未だ先ほどの照の誤解が解けず、その誤解を解こうと躍起になっている弘世菫は小瀬川白望に向かってそう助けを求めようとする。しかしその肝心な小瀬川白望も別の方向で誤解してしまっているため、弘世菫の思惑とは正反対の事を言ってしまう。

 

「そうだよ……菫は悪くないよ。悪いのは私……」

 

「や、やっぱり……!」

 

「だ、か、ら、違う!違ああああう!どうして話をややこしくするんだ!?」

 

 弘世菫が悲鳴にも似た声を上げながら小瀬川白望に言うが、そう言われてもまだピンと来ていない小瀬川白望は首を傾げる。そうして再び小瀬川白望が口を開いて「いや……事実は事実だし」と言うが、それによって更に弘世菫の首が締まるという事には、普段なら勘のいい小瀬川白望であったが、どうしてもそれだけには気付く事ができなかったようだ。

 

「じゃあ一体何なの……菫」

 

「いや、だからな……?」

 

 そうして弘世菫にやっと誤解を解くチャンスを得た弘世菫は、ようやく弁明の時が来たかと言わんばかりに宮永照と、ついでに誤解している小瀬川白望の誤解を解く。それによってようやく宮永照と小瀬川白望の誤解が解かれたのだが、それでも尚宮永照は「でもさっきのは紛らわしいよ……菫」と言って少しばかり羨んだような目でそう言うと、実際完全な事故というわけではなく、少し意識していた節もある弘世菫は少し言葉に詰まりながらも、「いや……あれは仕方ないんだ!」と言って強引に否定した。

 

「それにしても……照、色々と大変だったんだな」

 

 弘世菫は神妙な表情で宮永照にそう言う。宮永照が麻雀はあまり好きでは無いと言った頃から、何らかの重い事情があったのであろうということは察していたのだが、よもや血が繋がっている妹と別居して離れ離れになるほどの壮絶な過去があったとは思ってもいなかった弘世菫は、少しばかり宮永照に謝罪の意を込めた。

 

「いや……あれは仕方ない。あの娘を止めれなかった……いや、今思えば、私が躍起になっていたのが悪かったんだ。……でも、私は麻雀は捨てれなかった。麻雀を通じて、私はかけがえのないものを一杯作る事ができたから」

 

「妹に申し訳ない、最初はそう思ってやってた。だから私は中学の頃やってなかった。だけど……捨て切れなかった。私が感じた麻雀の熱、覇気、感覚……それを捨てれなかった。だから私はインハイの舞台に立った。勝手な話かもしれないけど、私が活躍するところを見て、妹にももう一度、麻雀の熱を取り戻して欲しい……」

 

「そうか……」

 

 宮永照の思いを聞いた小瀬川白望は、そう言って宮永照の肩を叩くと、こう言った。

 

「なら後二年間、立ち続けなきゃね。インハイの……高校生の玉座で、さ」

 

 そう小瀬川白望が宮永照に向かって言うが、宮永照は少し笑ったような表情で「妹にとってはそうかもしれないけど……私にとっての玉座は、白望だけだから。ちゃんと私が獲るまで、待っててね」と言うと、小瀬川白望は「うん……いつでも待ってる」と言って宮永照と握手する。そんな光景を見ていた弘世菫は、心の中で(なんだこの怪物共……話のスケールが違いすぎる……)と、改めて二人が異常であるという事を思い知らされた弘世菫であった。

 

 

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「じゃあ。半日と少しだったけど、楽しかったよ」

 

「もっとゆっくりして行けばよかったのにな。急ぎの用でも無いんだろ?」

 

 小瀬川白望に向かって弘世菫がそう言うと、小瀬川白望は「うん……だけどここに来たのも照とインハイの件について聞きたいから来ただけだし、私もまだまだ成長させないといけないからね」と弘世菫に言う。

 

(……まるで白望より上の奴がいるようなそんな言い回しだな。小鍛冶プロの弟子とかしたりするのか?……流石にないか。小鍛冶プロの感じからして、弟子とか取らなさそうだしな……)

 

 弘世菫はそんな小瀬川白望の言葉を聞いてそう考察するが、実際は小鍛冶健夜プロよりも恐ろしい人物で、彼女よりも弟子を取らなさそうな者が小瀬川白望の師匠だったりするのだが。

 

 

「じゃあね。白望……」

 

 そして宮永照がそう小瀬川白望に言うと、小瀬川白望は手を振って、宮永照と弘世菫に背を向け、そのまま歩き始めた。二人はそんな小瀬川白望の後ろ姿を、ただただ見つめていた。

 

 

 

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「ねえ菫」

 

「うん?なんだ照」

 

 宮永照が小瀬川白望の事を見つめながら、隣の弘世菫の名を呼ぶ。弘世菫が聞き返すと、宮永照はこんな事を言った。

 

「白望は後二年……つまり高校生の間ずっとインハイの頂点で立ち続けろって言ってたよね」

 

「あ、ああ……確かにな」

 

「……多分無理かも」

 

 宮永照からの意外な言葉に、弘世菫は「へ?」と思わず聞き返してしまうが、宮永照は「あくまでも、今のままなら無理って事……」と付け加えた。

 

「……らしくないな。お前が麻雀の事で弱音を吐くなんて。もしかして、その妹に負けるとかそう思ってるのか?」

 

「ううん。違う」

 

「じゃあなんだ一体……」

 

 弘世菫がそう言うと、宮永照はようやく弘世菫の事を見てこう口を開いた。

 

「多分だけど……白望はいつかインターハイに出場してくる」

 

「あいつがか?あいつはインターハイには出ないと言ったんだろう?」

 

 そう反論する弘世菫。通常の人間なら気が変わったとかそういう理由で前言撤回するような事は起こっても何らおかしいことではないが、小瀬川白望はそんな自分の言ったことを曲げるような人間ではない。そう言った風に、ある意味弘世菫は小瀬川白望の事を評価していた。

 

「……分からない。分からないけど、多分白望は私たちの目の前に立ちはだかってくる。そんな気がする……」

 

「そうか……照がそう言うなら、もしかしたら現実になるかもしれないな」

 

「……少し、寄りたいところがある」

 

 宮永照がそう言うと、弘世菫は「ん、なんだ?」と言う。宮永照は弘世菫の腕を掴むと、「きっと、私たちの強力な味方になってくれる人のところだよ。……色々と因縁はあるけど」とそう言って、宮永照は方向音痴であるにもかかわらず、目的地へ真っ直ぐ向かって行った。

 

 

 

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「……くしゅん」

 

 小瀬川白望が電車に乗っている最中、小瀬川白望はくしゃみをして鼻をすする。小瀬川白望は(風邪でも引いたかな……夏風邪みたいなものかな?)と思っていると、赤木しげるは心の中でこんな事を呟いていた。

 

【(やれやれ……恐らくさっきの嬢ちゃん二人に噂でもされてるな。相変わらずの人気者だ)】

 

【(それにしても……インターハイ、ねえ。麻雀も随分綺麗になっちまったもんだ。それが良いか悪いかは別として……しかし、こいつがもしインターハイに出る事になりゃあ、それは嘸かし面白くなるだろうよ……)】

 

 そしてこの赤木しげるの願望は奇しくも二年後に現実となるのだが、それはまた後の話である。二年後、まさか自分がインターハイの場で麻雀を打つなどと思ってもいない小瀬川白望は、次なる目的地を目指していた。




次回はまだ未定です。

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