何故週末は信じられないほど忙しいのか……
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視点:神の視点
「ん……」
昼食を終え、各々が宮永照の部屋で寛いでいると携帯の着信音らしき音がどこからともなく聞こえてきた。宮永照はその着信音に聞き覚えがあったのか、自分の携帯電話が置いてある場所まで手を伸ばすと、携帯電話を掴んで小瀬川白望と弘世菫に向かってこう言った。
「ちょっと電話……」
それに対して小瀬川白望と弘世菫は「分かった」と答えると、宮永照は自分の部屋から出て行った。そんな後ろ姿を見た小瀬川白望は、宮永照がドアを閉めたのを確認してから「本当に照って携帯電話使えたんだ……」と呟いた。それを聞いた弘世菫は少し笑いながら「……随分前から知ってたんじゃなかったのか?」と小瀬川白望に向かって言う。
「いや……改めて本当に使えるんだって思ったから……」
「まあ、あんな料理の腕とあいつの性格を考えれば、機械音痴だと思われても何も言えないな」
そうして二人の間に沈黙が訪れる。何とも言えない空気が流れているが、弘世菫は小瀬川白望にこんな事を聞いた。
「なあ、白望」
「何?菫」
「……お前は一体、照の事をどこまで知ってるんだ?」
「どこまで、って……」
弘世菫の問いに対して、意外にも小瀬川白望が返答に詰まる。宮永照の事について確かに小瀬川白望は色々と知っているが、沢山知っているためどれを話していいか迷っていたのだ。弘世菫はそんな小瀬川白望の言いたい事を読んで「ああ、あいつの過去についてだ」と付け加えた。
「あいつ、前にこう言ったんだ。麻雀が好きじゃ無いってな。あの腕で好きじゃ無いってのもおかしな話だ。……何か知っているんだろう?」
(これは……言ってもいいのかな)
小瀬川白望は確かにその事については知っている。それどころか、当事者を除けば多分一番その件については詳しいであろう。しかし、それを弘世菫に話していいのか。そこが小瀬川白望を悩ませた。恐らくではあるが、宮永照のその事はまだ解決には至っていないだろう。解決には至っていないが、何らかの思いがあってインターハイにも出たのであろう。そこが際どいところであった。
そこで小瀬川白望はこの話を有耶無耶にしようと「さあ。どうだろうね……」と言って小瀬川白望も部屋から出ようとするが、弘世菫に腕を掴まれ、壁に追い込まれる。弘世菫が小瀬川白望に壁ドンしているような体勢になると、弘世菫は小瀬川白望に向かってこう言った。
「それは嘘だな。白望、お前が照と会った時何て言ったか覚えてるか?」
「え……あっ」
小瀬川白望が思い出したかのように声を上げると、弘世菫は小瀬川白望に向かって追求するようにこう言った。
「そうだ。お前は『びっくりしたよ。照がインハイに出るなんて』と言ったんだ。つまり、お前は照がインハイに出ないと思ってたんだ。……お前のその実力からして、照の実力を見抜けなかったわけもあるまい。そうなればあとはお前が照について何か知っていたということだ」
そう迫られた小瀬川白望は、ため息を一つ吐くと「仕方ないなあ……」と言って口を開いた。
「妹だよ」
「妹?あいつは自分で一人っ子だと言っていたはずだが?」
「それは照の嘘。妹との麻雀でのトラブルで照は一時期麻雀から離れた」
(そうか……照が言ってたプラマイゼロにする子ってのはもしや妹の事か……照の妹ならそれもできないわけはないな)
弘世菫が過去に宮永照から告げられた話を思い出し、それと今の話を照らし合わせることで核心にだんだんと近づいて行っていた。そして十分と思ったのか、弘世菫は「成る程……まあそれ以上は聞かないでおくよ。あいつにも色々とあるだろうからな」と小瀬川白望に言った。
「……もう一つ聞きたいことがある」
「何……」
小瀬川白望がそう聞き返すと、弘世菫は少し顔を赤くして「お、お前は……照とどんな関係まで行ったんだ?」と聞いた。小瀬川白望は頭の中でクエスチョンマークを浮かべながらも「どんな関係って……友達だよ」と返答する。
「と、友達……!?てっ、照とは遊びだって言ってるのか!?」
その返答に対して弘世菫はあらぬ誤解をしてしまうが、小瀬川白望が「どういうこと……」と言うと、すぐさま弘世菫の誤解も解かれた。
(な、なんだ……私の勘違いだったのか)
弘世菫は安心しながら小瀬川白望の事を見ると、(……それにしても、凄い美形なやつだな。照が惚れるのもおかしくないくら……ハッ!)と、そこまで考えると弘世菫はぶんぶんと頭を振って忘れようとする。
(こ、この私とあろうものが会って1日も経ってない奴のことを好きになるなど……ありえない!私はそんな軽い女じゃない!)
頭の中で弘世菫はそう言い聞かせ、雑念を振り払う。しかし、運が悪いことにちょうどそれと同タイミングで宮永照が部屋に戻ってきてしまった。今の弘世菫と小瀬川白望の体勢はちょうど弘世菫が小瀬川白望に俗に言う壁ドンをしているような体勢である。それを発見した宮永は、少し目を潤ませながら「……菫の馬鹿」と呟く。
「そ、そういうわけじゃないんだ!照!」
そう弘世菫は弁明するが、小瀬川白望は照が不機嫌そうなのは自分が弘世菫に宮永照の過去のことを勝手に話してしまったからだと誤解して、小瀬川白望は宮永照に「ごめん……守れなくて」と言うが、それによって宮永照の誤解は更に加速してしまうのは言うまでもなかった。
次回でとりあえず照&菫は終わりの予定です。