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視点:神の視点
東四局 親:戒能良子 ドラ{東}
小瀬川白望 41000
宮永照 15800
弘世菫 26500
戒能良子 16700
「ロン……」
(くっ……!?)
宮永照は絶句して小瀬川白望の事を見る。四年前の全国大会の時もそうだった。実際宮永照が闘っていた時は接戦ではあったのだが、それよりも前の試合……準決勝や一回戦の時がこれと同じ状態であった。どんな術を用いても小瀬川白望に傷一つ、一太刀も入れることのできないいわば『無双』。どう立ち回ろうとも、どう思考しても果てには小瀬川白望に煮え湯を飲まされる。これがずっと続くのだ。
それが今起こっているという事は、それほど差がついてしまっていたのだ。もともと小瀬川白望と宮永照との間には大きな溝ができていた。しかし、まだ向こう岸は見えていたはずであった。どう考えても向こう岸に行く方法というものは無いように感じられるが、向こう岸という目標ははっきりと見えていたのだ。しかし、今はもう違う。もはや向こう岸など見えず、宮永照の目の前にあるのはただの闇ばかりであった。
「……2600」
小瀬川白望が申告するが、宮永照にはもはや聞こえていなかった。いや、聞こえてはいた。ただ、宮永照はそれを聞いてしまえば聞くほど自分と小瀬川白望の間に隔たりができてしまう。そんな気がしてならなかった。
(ダメだ……このまま負けていたらダメだ……!ここで逃すと、白望は手の届くところからいなくなってしまう……!)
そしてその事に対して宮永照は非常に危機感を抱いていた。もし宮永照がこのまま小瀬川白望に何もする事ができずに負けてしまえば、もう二度と手の届くところへは戻ってはこないであろう。宮永照が追いかけるしか無い。ここを逃せば、二度と追いつけない。そんな感じがしていた。
(ば、化け物……)
(ソー、クレイジー……)
一方で、弘世菫と戒能良子は小瀬川白望の一方的な虐殺に対してなす術もなく、半分戦意喪失していた。戦意喪失とはいっても、むしろここまで戦意が保てたのは賞賛に値するものであろう。何しろ本気で殺しにきている小瀬川白望を相手に、南入まで保ったのだ。そんじゃそこらの一般人なら最初の一局で心が完全に折れるを通り越して消し飛ばされるであろう。それを四局も保ったのだ。その時点で彼女らは十分頑丈であると言えるであろう。
(さあ……照はどうするか。弘世さんや、戒能さんと同じ道を辿るか……それとも)
そして小瀬川白望は改めて宮永照を見定めるかのようにして、宮永照から頂戴した点棒を収納する。恐らく、次の一局が最後であろうと小瀬川白望は直感的に感じていた。それはあくまでもこの半荘が、というわけでは無い。この勝負の意義が、次の一局で最後となるという事だ。次の一局、宮永照がどう動くか。その上で小瀬川白望を一度でも上回る事ができるか。それが南一局でわかる。ただそれだけの事であった。
(……もう一度だけ、力を使わせてもらうよ)
一方の宮永照は、何かを決心したように心の中でそう呼びかけた。多分、返事は返ってこないであろうが、それでも何故か宮永照は言わなければならない。そんな気がしてならなかった。そうして、宮永照は力を得る。それを見た小瀬川白望は、四年前の全国大会決勝戦を思い出していた。同じ光景であった。後半戦南四局、宮永照は明らかに従来の打ち方ではなく、何者からの力を受け取っていた。そしてその人物の正体を、小瀬川白望は言われなくとも予想はできていた。そんな宮永照を見て、フフッと笑って心の中でそう呟く。
(なんだ……やっぱり繋がってるじゃん。どんな状況になろうとも、心はしっかり繋がってるよ、照)
(二体一……そんな野暮な事は言わないさ。あくまで私が闘っているのは照個人……そもそも、何人いようが関係無い。そういった事と無関係のところに……強者は存在するーー!)
小瀬川白望という名の強者と、妹の力を得た宮永照は四年振りに激突する事となる。誰もがこれが最終局面であると思い込み、まだこれが南一局であるという事には気づいていなかった。
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次回で終わるように努力します。
こんなんだから話数がどんどん多くなってしまうんですけどね……インハイに突入するのはまだまだ先かもしれませんが、気長に待って欲しいです……