宮守の神域   作:銀一色

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高校一年編です。
さあ、次の土日まで頑張りましょうか……


第263話 高校一年編 ⑦ 天よりも遠い一歩

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視点:神の視点

 

東三局 親:弘世菫 ドラ{発}

 

小瀬川白望 29000

宮永照   18800

弘世菫   32500

戒能良子  19700

 

 

(クソッ、何故だ……何故撃ち抜けない!?)

 

 東三局も始まって捨て牌が二列目から三列目に縺れ込みそうな状況となりかけている事を意識し始めた弘世菫は、なかなか小瀬川白望から直撃が取れずに歯がゆい思いをしていた。『連続和了』を最もスピードの速い初期段階で発動させている宮永照、圧倒的な雀力を誇る神域に最も近い小瀬川白望、多彩な能力を持つ戒能良子がいるこの卓で、ここまで縺れ込むことには少々違和感を感じるが、こういった状況を作り出したのも戒能良子の能力のせいである。相手の配牌を強制的に六向聴にするという半荘一回きりではあるが恐ろしい能力を行使していたのだ。元の配牌が酷すぎるため、どんなにツモ運が良くてもなかなか手を進める事が困難ではあるが、三人はようやく聴牌に漕ぎ付ける。しかしここからがこの状況を作り出した戒能良子でさえも予期せぬ事が起こり、彼女はかなり序盤に聴牌してリーチをかけたのだが、なかなか和了ることができなかった。

 そして話は戻り、弘世菫は当然の如く弓で小瀬川白望を狙い撃ちしようと小瀬川白望よりも先に聴牌した時点から試みているのだが、一向に直撃を奪える気配が無い。それもそのはずで、相手の溢れ牌から直撃を狙える能力といっても、小瀬川白望の意思を強制する能力というわけではない。最終的には小瀬川白望が何を捨てるかを決める以上、余程の事……それこそリーチをかけている状態か、もしくは手牌全てが和了牌であるかの状態では起こるわけがなかった。

 そうして対する小瀬川白望も、弘世菫から狙われているという事に気付いていた。しかし小瀬川白望は狙われていると知った上で攻めに出て、ようやく弘世菫と同じ立場、聴牌という状態へと持ち込めた。

 

「リーチ」

 

小瀬川白望

打{横六}

 

(何度射っても、間一髪で躱される……なんなんだこいつは!?何度こっちが聴牌し直したと思ってるんだ!)

 

 そうして二度も聴牌をし直したのにその都度躱してきて、その挙句リーチまでかけてきた小瀬川白望に対して弘世菫は、ようやく小瀬川白望のアブノーマル、異常さに気付いた。決して偶然などではないと。意図的に、弘世菫が何を狙っているかを察して躱しているのだと。

 

(とんでもないやつだ……牌でも透けて見えているとでも言うのか!?)

 

 そうして宮永照も、弘世菫も、果てには最初にリーチをかけたはずの戒能良子ですらも和了れずに、ただただ小瀬川白望のツモ番へと移ってしまう。もはや、先手を取ったはずの戒能良子でさえ、今自分が小瀬川白望に競り勝てるなどと思ってはいなかった。自分はツモれず、小瀬川白望がツモ和了るであろうと、心の奥底でそう思っていた。

 そして皮肉なことに、戒能良子の予想は見事にも的中してしまった。ゆっくりと小瀬川白望はツモ牌を置くと、手牌を一気に倒した。

 

「ツモ」

 

 

小瀬川白望:和了形

{一二三三四五赤⑤⑥⑦78北北}

ツモ{9}

 

裏ドラ表示牌

{二}

 

 

「リーチ一発平和……ドラ3。3000-6000」

 

 小瀬川白望はきっちり裏ドラも乗せて跳満とする。配牌だけで見れば戒能良子の圧勝と思われていたこの東三局も、終わってみれば小瀬川白望が他者を抜き去った結果であった。小瀬川白望がリーチをかけた後の一巡など、他の三人は小瀬川白望のツモ番になる前に小瀬川白望が一発で和了ってくると予想できてしまうほど、圧倒的追い上げであり、絶対的な雀力であった。

 

(……六向聴にしたのにも関わらず私がルーザーですか。相変わらずクレイジー。モンスターどころの騒ぎじゃないですね)

 

 そうして戒能良子は小瀬川白望に対して。恐怖や驚愕を通り越してもはや尊敬、賞賛していた。戒能良子も小さい頃から色々な雀士を見てきた。小鍛冶健夜らがインターハイで闘っている所など、現在大活躍しているトッププロの闘いを見ていたが、正直それよりも強いと感じるほどであった。

 どんな手を使っても勝てるどころか、どんな手を使っても小瀬川白望に一太刀入れる事すらできない。そんな絶望感を放つのは小瀬川白望だけであった。というより、戒能良子は小瀬川白望が誰かに負けている姿など想像できなかった。

 しかし、小瀬川白望は事実最強、無敵というわけではない。小瀬川白望の身近なところに、彼女の思う最強、赤木しげるが存在している。そうして赤木しげるにはいつも勝てず仕舞いである。小瀬川白望の強さの理由といえば、その赤木しげるに負け続けてきた、いわば負けの経験を積み重ねてきたからであろう。誰よりも負けを知っているから、誰よりも勝てなかったからこそ、小瀬川白望は強くなれたのであろう。

 

(……まだ、足りない)

 

 そうしてとうとう最強の座まで後一歩、そう言ってもいいレベルまで辿り着いた小瀬川白望は、まだ己が力に満足していなかった。確かに、小瀬川白望が目指すところは後一歩かもしれない。しかし、その一歩は常人では考えることの出来ないほど途方な一歩。天よりも遠い一歩であった。

 

 

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(速い……まだ初期の速度の私が、追いつけない……!?)

 

 そして次局、東四局では戒能良子の妨害も無くなり、いよいよ宮永照の連続和了が始まるであろうと思われていたが、その最速状態の宮永照でさえ小瀬川白望に追いつけずにいた。先ほどの和了でとうとう小瀬川白望に完全に主導権を握らせてしまった今、小瀬川白望を止める者は誰もいない。無論、弘世菫の弓も、小瀬川白望はきっちりと見極めてくる。というより、弘世菫が弓を放つ前に小瀬川白望が和了ってしまうのだが。

 戒能良子が降ろした神でさえも、小瀬川白望を止めるには至らないものであった。それこそ小瀬川白望を止めるには、神を超えた者でないと無理であろう。

 そうして速度でも追い抜かれた宮永照は、聴牌というところでとうとう小瀬川白望に振り込んでしまった。

 

「……ロン」

 

 




次回に続きます。

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