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視点:神の視点
東一局 親:小瀬川白望 ドラ{五}
小瀬川白望 25000
宮永照 25000
弘世菫 25000
戒能良子 25000
(……私が親か)
対局が始まって東一局、最初の親番は小瀬川白望となった。小瀬川白望はサイコロを振って出た目を確認すると、対応した牌から四牌を取っていく。それに続くようにして宮永照も牌を取っていく。小瀬川白望は、他の三人のことをチラリと見ると、久し振りにシビれる対局ができそうだと感じて少しほどワクワクしていた。
(……東一局、宮永はこの局に限り仕掛けてこない……ならば私が小瀬川を狙い撃つまで。戒能とかいう異質な存在はいるが、簡単な話、誰よりも早く聴牌すれば良いだろう……)
そして一方の弘世菫は、東一局には宮永照が和了ってこないという事を踏まえて、ここが最初にして大きな攻め時であると感じた彼女は自身を鼓舞する。無論、宮永照に直接勝負で勝った戒能良子と、宮永照曰く自分よりも強いと言っていた小瀬川白望相手にそんなに上手く行くとは弘世菫自身思ってはいない。しかし、だとしてもそれで折れるほど弘世菫は弱い人間ではなかった。この時弘世菫はまだ気付いていないが、弘世菫は正真正銘の人外の更に人外、悪魔よりも恐ろしい何かに挑もうとしていた。
(インハイの時のようにテスカトリポカをユーズしても良いんですが……正直なところそれで私も一局を何もできずに潰してしまうのはバッド……あまりにもバッドです)
対面に座る殺気と嫉妬が入り混じった宮永照を余裕そうに戒能良子は見ながら、宮永照の『照魔鏡』に対して対策を講じるべきか否かについて考えていた。テスカトリポカを使用する事によって、宮永照の『照魔鏡』に映らないようにする事ができるのだが、そこで戒能良子は迷っていた。もちろん、相手が宮永照なのだから使ったほうが良いのであろう。しかし、テスカトリポカを使用してしまえばこの局は何もする事はできない。もちろん、能力無しで手を進める事はできるのだが、それで天性の感覚と超運を持つ小瀬川白望を上回るスピードが出せるかといえばノーであろう。流れや状況によっても変わりはするが、それを考慮した上でもノーである。
そうなれば、戒能良子も『照魔鏡』で見抜かれる事を前提として仕掛けに行くしかない。そう思い戒能良子はテスカトリポカでなく、別の異能の力を行使する事とした。
(む……戒能、何か仕掛けてくる気か……?)
(戒能さん……やはり初っ端から仕掛けてくるね)
そうして戒能良子が攻めに転じようとした時、小瀬川白望と弘世菫がそれを察知する。とはいっても小瀬川白望はほぼ確信、弘世菫は疑問に思っている程度と若干の気づきの精度の差は出ていたものの、弘世菫は警戒を小瀬川白望だけでなく、戒能良子にも向ける事とした。基本的に宮永照からのアドバイスによって疑わしいものがあったら絶対に警戒しろという事は弘世菫は身についていたため、今回の場合でもしっかり対応する事ができた。
(……これで聴牌、だな)
弘世菫:手牌
{一一二二三三⑥⑥⑧5789}
ツモ{⑦}
8巡目、弘世菫は{⑦}をツモって聴牌する。打{5}で典型的な{⑥⑨}待ちとなるこの手。何らかの能力を行使している戒能良子よりも何とか早く聴牌する事ができ、先手を取る事ができた弘世菫だが、弘世菫は
(確かにここは小瀬川を狙いにいってもいいが……出る杭は打たねばならんな。それに、小瀬川からは全くといっていいほど情報が入ってこない。強者相手になるとそう珍しい事でもないんだが、少々不気味だ……)
そうして弘世菫は競技用のアーチェリーの弓を構える。無論現実でではなく想像上のものであったが、これが後に白糸台のシャープシューターと言われる所以であった。そうして、背後に何かを従えながら歩く戒能良子に向けて狙いを付ける。
(……外しは、しない……!)
戒能良子がツモ牌を掴んで自分の手牌に置いたと同時に、弘世菫は矢を戒能良子に向けて発射する。そうして戒能良子が河に牌を置き、弘世菫が倒そうとする。完全にいつもの自分のパターンであった。これで何人もの強敵を撃ち抜いてきた。後は矢が戒能良子を貫くだけ、そう思っていた矢先に、戒能良子の体が突如横に折れ曲がる。
(なっ……!?)
戒能良子が横に吹き飛んでしまったため、弘世菫が放った矢は何も貫く事もなくただ空気を掻っ切って行っただけで終わってしまった。どういう事かと弘世菫が横を振り向くと、そこには煙が出ている拳銃を構えていた小瀬川白望が立っていた。
「……ロン」
小瀬川白望:手牌
{八八八④④④46999北北}
(こ、こいつ……!)
弘世菫は小瀬川白望の事を見て少しほど歯を食い縛る。小瀬川白望が最後に切っていた牌は{4}。つまり小瀬川白望は四暗刻を聴牌していたということになる。それを放棄して{5}待ちに構えたという事は、小瀬川白望はこうなるであるという事を予見していた。そう考えることができてもおかしくない話であったが、少なくともそれはないと弘世菫はそれを否定する。
(いや、幾ら何でも私の能力は知らないはず……だとすればまさか、狙っていたというのか……?虎視眈々と、私の首を……)
弘世菫にとってはある意味屈辱的な話であった。本来狙い撃つはずの自分が狙われていた事に気付いていなかった事はおろか、自分の獲物を横取りされてしまったのだ。弘世菫は悔しさを感情に滲ませると、小瀬川白望はそれを知ってか知らずか、積み棒を投げつけるようにして置き、「一本場……」と宣言する。
(さあ、ここからが本番……)
小瀬川白望がそのような事を呟くと、小瀬川白望の背後に巨大な鏡のようなものが出現した。無論小瀬川白望だけでなく、戒能良子と弘世菫の背後にも小瀬川白望と同じような鏡が出現していた。そしてただ一人、鏡が背後に存在していないこの現象の元凶である宮永照は、スーッと息を吐くと、更にプレッシャーを卓全体にかける。約三年の歳月を跨いで、再び全国でその名を轟かせたチャンピオン宮永照が、ようやく小瀬川白望の目の前に現れた。
次回に続きます。
明日はプレミアムフライデーらしいですね(他人事)
はは……(白い目)