宮守の神域   作:銀一色

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前回に引き続き東京編。


第258話 高校一年編 ② 握手

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視点:神の視点

 

 

「……!」

 

「何ソワソワしてるの、菫?」

 

「ッ!そ、そうか……?ハハ……」

 

「……変な菫」

 

 

 あれから1日経ち、弘世菫は自分もその『親切な人』に会いたいという理由で、宮永照の部屋でやってきていた。夏休みであるため、寮が閉寮となってしまったことによって初めて弘世菫は宮永照の家に来たのだが、それ以上に弘世菫は何やらソワソワしていて、気が落ち着かない様子であった。それもそのはず、宮永照が自分には少しも見せた事の無いあの乙女の表情。あれが頭の中から離れずにいた。

 宮永照はいつも無愛想ではあるが、確かにごく稀に弘世菫から見てハートを掴まれるような表情は見せられる。お菓子の話題になった時とかの無垢なあの表情などが挙げられる。しかし、宮永照がその逆……ハートを掴まれている表情は見た事がなかった。そして何よりも自分が見た事のない宮永照の表情を、その『親切な人』が知っているという事が弘世菫にとっては許すべからざる由々しき事なのである。

 

(一体どんな奴なんだ……ハッ、まさかもしかして宮永があんなに女っぽくなったのは……)

 

 弘世菫の疑念はあらゆる可能性を呼び、それはやがて妄想へと育っていった。そのまさかではあるが、弘世菫にはそれを否定する事は出来なかった。勿論そんな事は起こっているわけもなく、宮永照の方はどうだかわからないが、その『親切な人』こと小瀬川白望はそんな事は一切思っていない。宮永照からしてみれば残念な話ではあるが、小瀬川白望にそういう感情は一切ないという事だけは確かだ。しかしそんな小瀬川白望の『イレギュラー』さを弘世菫が知っているわけもなく、その妄想によって明らかな小瀬川白望に対しての敵対心が目覚めてしまっていた。

 そうして弘世菫は、宮永照の肩をガシッと掴むと、いきなり掴まれてビックリしている宮永照に向かってこう言った。

 

「安心しろ、宮永。お前を淫らな世界から解放してやる」

 

「……え、ええ……?」

 

 宮永照は困惑していたが、弘世菫はもはや何故宮永照が困惑しているかに対して何の疑問も持たずに、自分は宮永照の事を守るのだという大義名分のもと、自分を鼓舞していた。一方の宮永照はというと、心の中で(……親切な人って、ちょっとおかしいところもあるのかな……)と言いながらもうすぐで来るであろう小瀬川白望のことを胸で想いながら、隣で燃えている弘世菫とその時を待っていた。

 そうして宮永照の携帯電話が着信音を鳴らすと、二人は同時にその携帯電話の事を凝視すると、二人は家を出て最寄りの駅へと向かった。無論、弘世菫が先導して。

 

 

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「ふう……やっとついた」

 

 小瀬川白望が欠伸をしながら駅から出てくると、開口一番に言った言葉はそれであった。今回でかなりの回数となる東京だが、やはり距離的に長いものは長いのである。長距離移動と言っても過言ではない旅をしてきた小瀬川白望は既に疲れているような様子であったが、そんなところに宮永照と弘世菫がやってきた。

 

(あ、照だ……えーっと、隣の人は誰なんだろう?)

 

 小瀬川白望は宮永照の隣にいる弘世菫を見て率直にそう思った。宮永照の知り合いというのは見て分かるのだが、小瀬川白望にとっては赤の他人なのでどういった反応をすべきか少し困っていた。

 

 

(……え、あれ。あれだよな。……なんというか、拍子抜けというか……とにかくあんなのが宮永を倒したとでもいうのか?)

 

 そして一方の弘世菫も、自分が勝手に想像していた小瀬川白望と実際の小瀬川白望とではギャップが生じていたそうで、見た目上はそんなに凶悪とかそういう感じではなかった。

 

(というか……むしろどっちかというとイケメン、ボーイッシュな感じだが……宮永がどんな奴に惚れるかとかそういうのは無しにして、本当に宮永よりも実力が上なのか……?そうには見えないが)

 

 そんな事を思っていると、宮永照は小瀬川白望に抱きついて「久し振り……白望。ずっと待ってた」と言う。対する小瀬川白望も「びっくりしたよ……照がまさかインハイに出るなんて……」と返す。一見微笑ましい光景だが、弘世菫にとっては非常に面白くともなんともない状況であった。そうして弘世菫は一つ咳払いしてから、小瀬川白望に向かって「小瀬川白望さん……だったっけ。私は宮永の()()、弘世菫だ。よろしく」と言って手を差し出す。わざと親友であるという事を強調していって見せ、小瀬川白望がどう出るかを見定めようとしていたのだが小瀬川白望の性格上弘世菫が小瀬川白望に対して嫉妬していることなど察することができるはずもなく、また察せたとしても宮永照に対してそういう特別な感情は持っていないため、伝わったところで小瀬川白望に意図は伝わらないだろうが。

 

「うん……宜しく。私は白望でも、小瀬川でもどっちの呼び方でもいいよ。菫さん」

 

 

(……成る程。躱されたか)

 

 弘世菫と小瀬川白望が手を繋いでいる最中、弘世菫は自分の仕掛けたものが小瀬川白望に躱されたと感じていた。実際躱されたとかいう前に気付いてすらいなかったのだが、弘世菫にとってのシャープシュートはもう始まっていたのであった。




次回も東京編。

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