宮守の神域   作:銀一色

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遂に始まった高校編……という事で原作に準えたこの回。
まずはシャープシューターさんから。


第4章 激動の序章 (高校一年生編)
第257話 高校一年編 ① "親切な人"


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視点:弘世菫

 

 

「……」

 

「どうしたの?親切な人」

 

 宮永が私を視認するとまず第一声にそう声をかけてくる。私は少しため息をつきながらも「良い加減その言い方、止めたらどうだ……」と言い返すと、宮永は「ごめん……つい癖で、菫」と言う。高校生活が始まってからーーこいつと出会ってから結構月日は経ったと思ったが、未だに私はその名称でこいつに呼ばれ続けている。

 

「全く……最初の頃はまだしも、もう4ヶ月は経ったんだから、良い加減に私の名前を覚えてくれ……」

 

「そうか……もう4ヶ月も経ったんだね……」

 

 そう宮永が呟くと、宮永と私はついこの間にあったインターハイの事を思い出す。思えば夢のような時間であった。並み居る強豪校と相対し、そして勝ち進んできた。麻雀をやる者なら誰もが憧れを抱くであろうあの場所で、私たち白糸台のチーム虎姫は全国の頂点に辿り着いた。年上相手に想像以上の闘いができたのも、チームが一丸となって栄光に輝けたのも全て宮永のお陰だった。頭が上がらないといえばそうであるのだが、どうしても麻雀の時以外のポンコツのこいつには言いたくはないものだ。

 

「……今失礼な事考えてたでしょ。菫」

 

 そんな事を考えていると宮永に見抜かれてしまったのか、指摘を受けてしまうが私は「さあ……どうだろうな」と言って誤魔化す。宮永照は相変わらずこちらをムッとした顔で見続けるが、真相にたどりつく事は無いであろう。

 

「っていうか、その『親切な人』ってのは一体どっから来たんだ?」

 

 話題を強引に変えて、私は宮永にこんな質問を投げかける。宮永と出会った時から今までずっと呼ばれてきたこの『親切な人』というフレーズ。恐らく本名よりも呼ばれたであろうこのフレーズが一体どこから来たのか、私はずっと気になって仕方なかった。こいつには全然真相などは不明ではあるが、色々と暗い過去を持っているのは明らかなのだ。前にも聞き出そうとしたが、結局あやふやのままである。繋がりが全くもって感じられない『親切な人』というこのワード。もしかしたら過去にもそう言った事と関係があったりするかもしれないという藁にも縋るつもりで聞いてみたが、宮永は少し顔を逸らして「いや……小さい頃あった人が、凄く親切な人で……菫もその人と優しいっていう点では同じだったから……」と答える。

 私はやはり関係は無さそうだと思いながら諦めると、宮永の携帯電話が通知音を立てて振動していた。宮永はこれまでに見せた事の無い俊敏な動きを見せ、携帯電話を起動して確認すると、なんかこう……あいつの顔が乙女の顔になった。えらく抽象的な表現ではあるが、本当にどこかちんちくりんのポンコツから、女の顔になったのである。私は先ほどの話の繋がりから「もしかして、その『親切な人』からか?」とおちょくってみると、宮永は驚いた表情で「なんで分かったの……?」と顔を赤らめて聞いてきた。

 

 

(なっ……嘘だろ?)

 

 

 冗談のつもりで言ってみたら、まさかまさかの大当たり。私は若干その『親切な人』に嫉妬心を抱いていたのか、それを本気で否定してくれと願っていた。こいつをああいう表情にさせるやつが、よもやあの『親切な人』だとは……私は驚愕していたが、更に驚愕するべきものが宮永の口から告げられる。

 

「……明日から、来るって」

 

「……!?あ、明日!?」

 

 私は動揺しながらも水を飲んで落ち着きを取り戻すが、未だに現状についていけてない。一度に得る情報量が多すぎる。

 

(いや……待て。もしかしたらその『親切な人』がこいつの過去について知っているかもしれんな)

 

 しかし私はこのピンチ(?)を上手く視点を変えてチャンスにする。これからあと最低でも二年は付き合う事になるこの宮永。こいつの過去を知れずして、こいつをサポートしたり、されたりするパートナーにはなれない。そういう理由があって私はこいつの過去を知りたがっていたのだ。それを解明できるという点では、ある意味チャンスであろう。

 

(それに……そいつがどんな人間か見定めたいしな)

 

 ここまでくると嫉妬以外の何物でも無い感情が露わになるが、それはもう気にせずに「おい、宮永」と宮永に声をかける。

 

「何?し……菫」

 

「そいつは一体どんな奴なんだ?あー……親切以外で」

 

 

「……何だろう。私もあの人に会ってから相当の年月が経ったけど……未だに謎の多い人だよ」

 

(それはお前も何だがな……)

 

 心の中でそんな事を思いながらツッコミを入れると、宮永はさっきまでとは数段目付きが鋭くなっていた。思わず私も息を飲んでしまうほど、宮永の表情は真剣であった。……食べかけのお菓子を手に持っている以外は完璧に真剣なのだが、逆に言えばそんな不真面目な要素を押さえつけるほど、彼女は真剣なのであると解釈できるであろう。

 

 

「……でも。確実に言えることとしては、その人は私には届かないところにいる……それは確かだよ」

 

「届かないって……麻雀でか?」

 

 俄かに信じがたい話であった。あれほど強く、底がしれない宮永が。団体戦ではもちろん、個人戦でもあの戒能だか言う三年以外の敵は全然完封していたはずだ。そんな宮永が、届かないと称するなど私には信じられなかったのだ。

 

「……全国でそんな奴がいたか?」

 

「いや。そもそもあの人はもう大会には出ないよ……そう明言してた。……本来なら私も出るつもりはなかったし」

 

「"もう"?ってことは前に出てた事があったのか?」

 

「……菫は小学六年生の頃って、覚えてる?」

 

「……確か、お前も出ていたんだっけか?」

 

「そう。その時に私が負けた相手……それがその『親切な人』……」

 

 記憶には薄っすらとしか残ってはいないが、確かにあの頃、馬鹿げた強さの奴がいたという事は覚えている。しかし、それ以降そいつの情報は全くと言っていいほど入ってこなくなり、尚且つインターネットを駆使しても影すら情報は掴めなかったことは覚えている。そしてついには時間という波がその記憶を綺麗さっぱり流してしまっいた。

 

「……小瀬川白望」

 

 宮永は小さくそう呟く。小瀬川白望。聞いた事があったかもしれないし、なかったかもしれない。あの時話題になっていた名前も言われてみればそんな奴だったかもしれないが、別の名前を言われても同じ結果であっただろう。

 

「……そいつが、明日ここに来るのか」

 

「そうだよ……それともし、白望と打つ事になったら菫の"シャープシューター"は使わない方がいい」

 

「何故だ?強いんだから使っていかないとダメだろう。大会に出る気がないなら、手の内を見せても構わないはずだ」

 

「そういう問題じゃない。もし……仮にもし白望に向かって放っても、絶対に当たらない。絶対に……」

 

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視点:小瀬川白望

 

 

【なんだ……今度は宮永の嬢ちゃんのとこに行くのか?】

 

 

「うん……なんたって照をインハイで見る事になるなんて思ってもいなかったし、話を聞きたかったから……」

 

 私は赤木さんの問いにそう答える。本当に照の事を見る事になるとは思っておらず、テレビで照の事を見た時は目を疑ったものだ。戒能さんや智葉など、私の知り合いは何人か見るとは思っていたが、照がいるとは思ってもいなかった。

 

(……白糸台、だったっけ。照みたいに迷わないようにしないと……)

 

 

 そんな事を考えながら、私は明日の支度を始めるのであった。

 

 




次回に続きます。

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