宮守の神域   作:銀一色

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長野編最終回です。
全155話。小学生編の1.5倍以上の話数をかけた中学生編が終了します。


第255話 長野編最終回 鼻血

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視点:神の視点

 

 

「……ッ!?」

 

 あれから数時間が経ち、闇に包まれていた空はすっかり太陽の祝福を受けて蒼く輝いていた。そんな蒼い空の下、とあるホテルの一室で福路美穂子は目を覚ました……はずであった。

 本来なら、福路美穂子が目を開けてまず最初に見えるのは小瀬川白望の後ろ姿か、もしくは天井かのどれかであろう。それが普通だ。しかし、福路美穂子の視界に広がるのは真っ暗な闇であった。目を閉じても、目を開けてもそこは暗黒。福路美穂子は驚いて動こうとするが、身動きが取れずにいた。

 

(な、何が……)

 

 福路美穂子はいきなりの暗闇に戸惑いながら、どうにかして身体を動かそうとしたところ、福路美穂子の鼻にムニュっとしたものが当たった。福路美穂子はその感触が何なのかと色々モゾモゾと動いていると、寝ていたはずの小瀬川白望が声を放った。

 

「……んん、ん……」

 

 恐らく、小瀬川白望が反応を示しているという事は福路美穂子が感じている柔らかい感触のものは小瀬川白望の体の一部である事は間違いない。そして、身体の中でも最も弾力があり、柔らかい感触を持つ部位は一つしかないであろう。そして何よりも、その感触には身に覚えがあった。……そう、昨日浴室で福路美穂子が弄った、小瀬川白望の胸であった。

 

(な、なんで……!?)

 

 そうであると確信した福路美穂子は、驚きと羞恥が彼女の心に現れる。それもそうで、福路美穂子は寝る前に小瀬川白望に抱きつきはしたものの、それはあくまでも背中から抱きついたため、どう考えても胸に当たるような体勢ではなかったはずだ。どうしたらそうなったのか分からない福路美穂子にとっては、動揺するべきの事であった。まあそれも全て福路美穂子が寝ている間に抱きつかせていた手を緩め、その間に小瀬川白望が寝返りを打てるくらいの隙間ができていた事が原因なのだが。

 しかし寝ている間のことなど知るわけもない福路美穂子にとっては驚きのことであるのだが。

 

(白望さんの胸……当たって……//)

 

 そうして福路美穂子は顔を真っ赤にしながら、小瀬川白望の胸の感触と温もりを感じていた。自分は今、小瀬川白望の胸に抱かれている。そう考えると、心が昂り、興奮してくる。そうしてその興奮が絶頂を迎えると、その証として福路美穂子は血を吹き出した。無論、怪我などではない。福路美穂子は、鼻から血を吹き出したのだ。

 自分が鼻血を出していることも分からずに、福路美穂子は小瀬川白望の胸に顔を押し付けていた。そうして自分が鼻血を出していた事に気付くのは、小瀬川白望が起きて福路美穂子の事を解放した時であり、福路美穂子は胸だけが血に濡れた小瀬川白望を見て、驚きと瞬時に自分が鼻血を出していた事に対しての恥ずかしさのあまり、叫び声をあげてしまったことは言うまでもない。

 

 

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「……すみませんでした」

 

「いや、いいよ……別に……」

 

 小瀬川白望と福路美穂子は、朝食を済ませてチェックアウトしてホテルの外にいた。福路美穂子は朝に起こった鼻血の件について謝罪していたが、福路美穂子が鼻血を出したという事実だけしか知らないため、何のことかは分からなかったが、取り敢えず気にしていないということを伝えた。

 

「あ、あと……」

 

 別れる寸前、福路美穂子は小瀬川白望に向かって携帯電話を差し出した。小瀬川白望はクエスチョンマークを浮かべていたが、すぐに福路美穂子は小瀬川白望にこういった。

 

「連絡先……交換したいんですけど、やりかたが分からないので……」

 

「ああ、成る程ね……」

 

 そう言って小瀬川白望は福路美穂子の携帯を受け取り、連絡先を交換する。そうして福路美穂子に返すと、小瀬川白望は手を振って福路美穂子とは反対の方向へと歩き始めた。

 

(……白望さん)

 

 福路美穂子は閉じている右目を開け、小瀬川白望の事を両面でしっかりと見た。

 

 

(ッ!?……)

 

 しかし、そこにいたのは小瀬川白望ではなく、小瀬川白望と同じ髪の色をした青年であった。福路美穂子は驚いてもう一度よく見るが、そこにはしっかりと小瀬川白望がいた。福路美穂子の右目が映し出した謎の青年。福路美穂子は最初はただの見間違いかと思ったが、どうにもその青年が何か関係がある。そうとしか思えなかった。

 

 

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『……今回もありがとうね。智葉』

 

 

「あ、ああ……」

 

 後日、辻垣内智葉は小瀬川白望から感謝の意を込めた電話を受けていた。しかし、今もなお小瀬川白望の事を殴った事に対しての後悔しているため、少しほど遠慮がちであったが。

 

『そういえばさ』

 

「なっ、なんだ……?」

 

『長野のホテルで泊まった日、智葉が夢に出てきたんだよね」

 

「そ、そうなのか?」

 

『それで……何か知らないけど、いきなり殴られたんだよね。夢の中で』

 

「えっ!?ああ……それはすまなかったな。は……はは……」

 

 そう言って辻垣内智葉は無理に堪えて笑う。そうして電話での会話が終了した後、辻垣内智葉はベッドの中で再びあの時の後悔をしていた。

 

 




次回から高校編。

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