久の次はあの方。
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視点:神の視点
「ふう……次は何処に行こうかな」
【クク……随分と気合が入ってるじゃねえか。若えってのはいい事だ】
雀荘から出てきた小瀬川白望がそう呟くと、赤木しげるが小瀬川白望に向かってそう言う。小瀬川白望はそんな赤木しげるに対して「赤木さんもそんなに長生きしてたわけじゃないでしょ……今の平均寿命だってアイピーエス……?だったかのお陰でかなり伸びたって聞くし……」と返すと、赤木しげるはフフフと笑って【まあお前も五十を過ぎりゃあ分かるさ。案外長えもんだ。今思えば、俺がアルツハイマーになったのも俺が生きすぎた証ってわけだ】と返す。
「ふーん……まあ私には興味の無い話だけど」
【まあ、自分の生きたいように生きろ。あったかい人間はどんな死に方であれあったかく死ねるもんだ……】
赤木しげるがそう言うと、小瀬川白望は「……赤木さんに勝つまでは死なないけどね」と言う。すると赤木はそんな小瀬川白望を挑発するように【お前が死ぬか、お前が生きてる間に俺に勝つか……面白い。賭けてみるか?】と提案する。小瀬川白望はふふっと笑って「いいよ」と返す。この時点でも間違いなく小瀬川白望は赤木しげるに近づいて行っているのだろう。しかし、今この時点で確かめるといった事を言わないのは、まだ力量差がある。そう感じているからであろう。
だが、赤木しげる自身小瀬川白望の成長には目を瞠るものがある。生まれつき持った狂気ではなく、赤木しげるに教えられてのものであったが、それでもこの約三年間で相当赤木しげるに近づいてきていた。後数年もすれば、小瀬川白望はいずれ己を抜いてくるかもしれない。そういった危機感ではない、期待感を抱きながら赤木しげるは笑っていた。
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視点:神の視点
(もうこんな時間……早く帰らないと行けないわね)
所変わって、学習塾の入り口から出てきた片目を閉じている少女、福路美穂子は少し早く家に帰らないと行けないという意識を持ちながら帰宅し始める。本来なら二時間ほど前に授業は終わっていたはずなのだが、彼女は塾に遅くまで残って勉強を続けていたのだ。小瀬川白望だったらそんな事は絶対にしないであろう。というか、学習塾に通わないであろうし、彼女の頭脳なら通う必要性も無いのだが。そんな学習面においての小瀬川白望を怠惰とするならば、彼女はその対義語にあたる勤勉と呼ぶに相応しい人間であろう。
(……それにしてもやっぱり、受験勉強は辛いわね……たまには息抜きしないと駄目になっちゃいそうだわ……)
福路美穂子が勉強に対しての弱音とまではいかない苦悩を心の中で漏らしながらも、福路美穂子は家に向かって真っ直ぐ歩く。福路美穂子が目指している高校は長野県の中でも有数の麻雀の名門校であり、福路美穂子は麻雀をそこでするために受験するのであった。麻雀をするために行くならばあまり勉強は必要とはしないのであろうが、生憎彼女が行こうとしている風越女子女子高校は私立高校という事もあってか、結構偏差値が高く、受験倍率もかなり高い高校なのであった。
勿論、彼女も勤勉故に風越女子高校程度のレベルなら問題なく合格できるほどの学力はあったのだが、彼女は油断せずに熱心に勉強に励んでいた。
そうしている今も、彼女は頭の中で今日やった授業の振り返りをしながら歩いていた。しかし、前方を注意深く見ていなかった故か、福路美穂子は目の前にいた人間とぶつかってしまった。
「あっ……」
福路美穂子はぶつかった衝撃で尻餅をついてしまう。持っていたバッグも落ちてしまい、中身はさほど散乱はしていなかったものの、福路美穂子にとってはそんな事よりも、ぶつかってしまった人に対する罪悪感を感じていた。しかし、ぶつかってしまった人は尻餅をつく福路美穂子に向かって手を差し伸べた。
「……大丈夫?」
「あ、ありがとう……ございます」
言うまでもなく福路美穂子にぶつかった人は、そして福路美穂子に手を差し伸べた人は小瀬川白望である。小瀬川白望は福路美穂子を右手で立たせ、落ちてしまった福路美穂子のバッグを拾い上げる。そうして福路美穂子に拾ったバッグを渡した。
「はい、どうぞ」
「ありがとうございます……そ、それと、すみませんでした……」
「ん?ぶつかったこと?」
「はい……前を見てなかったもので……」
しかし、小瀬川白望はそんな福路美穂子に向かってこう返答する。
「別にいいよ……私は別にケガとかしてないし……それに、あなたはの方は大丈夫?」
そう言って小瀬川白望は福路美穂子がついた尻の辺りを手で払った。福路美穂子は「な、なっ!?」と言って少し驚きながらも、顔を少し赤く染めていた。
次回も長野編。
キャプテン登場。