宮守の神域   作:銀一色

258 / 473
長野編です。
今回若干蛇足っぽいかも?


第246話 長野編 ⑤ 一面

-------------------------------

視点:神の視点

 

 

「ふー……ダルくない……」

 

「そ、そうですか?それなら良かったです……」

 

 須賀京太郎の上に乗る小瀬川白望が竹井久を上に乗せて須賀京太郎に向かってそう言う。竹井久を上に乗せてはいるものの、重さは殆ど感じなく、小瀬川白望はちょっと竹井久の体重の軽さに対して心配になっていたが、それ以上に須賀京太郎が二人の軽さを心配していた。

 一方の竹井久はというと、先ほどから小瀬川白望に横から手を出されて人形のように抱かれてしまっていてもはや『充電』どころではなくなっていた。小瀬川白望と須賀京太郎からは見えることは無かったが、竹井久は今顔を熟したリンゴのように赤く染めていた。小瀬川白望の香りやら何やらを、直で感じる事ができるこの特等席を堪能しながら、竹井久はドキドキを抑えられずにいた。

 そうして心の高揚が臨界点を突破し、とうとう抑えきれなくなった竹井久は小瀬川白望のホールドから脱出するように立ち上がった。確かにあのままいるのも悪くはない……というかむしろいつまでもそこに座っていたかったくらいなのだが、いかんせんあのままだと暴走しかねなかったので、理性による行動の結果であった。

 そうして竹井久が上から退けたのを見て、小瀬川白望も須賀京太郎に「ありがと……悪く無かったよ。むしろ良い方……」と言って立ち上がる。

 

(……色々と危なかった……)

 

 しかし須賀京太郎はこの残念だと思うべきのこの場面で安堵していた。まあ理由は竹井久と同じく、自分のリビドーをさっきから必死に押さえつけていたからだ。ちょっと手を動かせば豊満な胸を弄る事の出来るという、巨乳好きを自称する須賀京太郎にとっては興奮せざるをえない状況であった。中学一年生の男子にとってはあまりにも刺激的すぎる状況。しかしそこはやはり竹井久と同じく理性が勝ったようで、結果的にその『危ない事』は免れたのだが。

 

(でも……やろうとしたらできるんだよな、多分……)

 

 さっきの小瀬川白望の軽さからして、いくら小瀬川白望の方が年上だからと言っても体格の差は大きい。やろうと思えばおそらく呆気なく事に及べるのだろうが、そこまで考えて須賀京太郎は自身の両頬をパンッ!と両手で叩く。危なく欲望に負けそうになった須賀京太郎は心の中で自分に戒める。

 

(俺はアホか……たかが俺のエゴを突き通しただけなのに、それをわざわざ服まで買ってくれるような優しい人で何ていう妄想を……)

 

 須賀京太郎は罪悪感を感じらながら小瀬川白望の事を見るが、小瀬川白望は「どうしたの……」と問いかける。須賀京太郎は「いえ。何の心配もいりませんよ」と小瀬川白望にとってはクエスチョンマークが浮かぶような答えであったが、ともかく正気に戻る事ができた。

 

「そういえば、白望さんと竹井さんって何年生なんですか?年上だろうとは思ってましたけど……」

 

 そうして理性を取り戻した須賀京太郎は小瀬川白望と竹井久に向かってこんな事を聞いてきた。小瀬川白望と竹井久は口を合わせて「中学三年生」と答える。それを聞いた須賀京太郎は申し訳なさそうにして「もしかして受験勉強の邪魔してるんじゃ……?」と言うが、小瀬川白望は「私は大丈夫……久も大丈夫なんだっけ?」と竹井久に聞き、彼女は「え?ああ……まあね」と答える。あまり成績が芳しくない須賀京太郎からしてみれば二人の余裕そうな表情はまさに羨ましいものであった。そんな憧れの眼差しで二人の事を見ていると、それに気づいたのか「もしかして須賀くんは勉強苦手な方?」と聞くと、須賀京太郎は「まあ……恥ずかしながら……」と答える。それを聞いた小瀬川白望は、少し程考えたが結局テーブルに倒れかかるような姿勢になって須賀京太郎にこう言う。

 

「うーん……まあどうにかなるよ……私もどうになったんだし」

 

「あ、逃げたわね。白望さん……っていうか、それでどうにかなるのはあなたくらいしかいないわよ」

 

「勉強はまた別の話でしょ……」

 

 竹井久が「まあそれもそうね」と答えると、小瀬川白望の携帯がいきなり鳴る。小瀬川白望は大儀そうにポケットから携帯を取り出すと、椅子から立ち上がって「電話かかってきたから、ちょっと席外すね……」と言ってリビングから出て行った。

 そうして須賀京太郎と竹井久が二人きりになると、竹井久は須賀京太郎にこんな事を聞いた。

 

「ねえ、須賀くん?」

 

「はっ、はい?」

 

「どう思った?……白望さんの事。まあ、ちょっと変わってるでしょ。いっつもダルそうにしてるし……それなのに人には気配りできるし……」

 

「まあ、少し変わった人だなとは思ってましたけど……」

 

 そう須賀京太郎が答えると、竹井久は須賀京太郎に向かってこう言った。先程までの半ば脅しのようでありおふざけのようである声色とはまた違った、真剣な声で言葉を発した。

 

「『少し』なんかじゃないわ」

 

「え?」

 

「白望さんは少し変わってるなんてものじゃない……というかむしろ人間じゃないわね。もはや人間っていう枠組みを超えているわ」

 

「……それを、どうして俺に?」

 

「……何でかしらね。よく分からないけど、須賀くんが誤解してちゃダメかなって……」

 

「誤解……ですか」

 

「まあ、優しい部分ももちろん彼女の一面な事には変わりないわよ。……だけど、それが全てじゃないのも事実。彼女のその人間じゃない一面を見れてこそ、彼女という人間を……いや、彼女という存在をやっと認識できる段階に行けるわ」

 

「なるほど……分かりました」

 

 「まあ、だからと言って須賀くんにどうしろって言うわけじゃないんだけどね」と竹井久は付け足す。そして小瀬川白望が電話を終えて戻ってくる。須賀京太郎は先ほど言われた『人間じゃない一面』という言葉を思い出しながら、注意深く小瀬川白望の事を見ていた。

 

(あの白望さんにはどんな一面が……)

 

 しかしこの時点では須賀京太郎は気づくことができず、須賀京太郎がそれを知ることができたのは須賀京太郎が高校生になってからと、相当後の話になるのだがそれはここでは割愛する。




次回も長野編。

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。