宮守の神域   作:銀一色

255 / 473
長野編です。
アイツが登場。
登場させたかっただけです。


第243話 長野編 ② 飛び込み

-------------------------------

視点:神の視点

 

 

「うーん……見つかんないなあ。そんなに遠く飛んだっけ……」

 

「そうね……こんな開けた河川敷で見えない場所に行くってことは無いはずだけど」

 

 小瀬川白望と上埜久は先ほど上埜久があらぬ方向へ向かって飛ばしたボールを探すが、なかなか見つからない。いくら遠くへ飛んだとはいえ、深い茂みがあるわけでもないこの河川敷で何処にあるか分からなくなるとは考えられないのだが、現実で起こってしまっているのだからその考えは甘かったようである。

 

「そんなに強かったかしらね……私の肩」

 

 冗談混じりに上埜久がそう言って小瀬川白望の方を向く。小瀬川白望は半ば呆れたようにして上埜久のことを見ていると、上埜久の視線が小瀬川白望とはかけ離れた方向を向いているのがわかった。そうして小瀬川白望が後ろを振り向くと、そこには綺麗な川が存在している。しかし、そんな川の景観をぶち壊すような不純物が混じっていた。

 まあそれは言わずもがな上埜久が放ったボールであり、小瀬川白望と上埜久が感じた絶望とは裏腹に、ボールは川の中央を悠々と浮いていた。

 

「……どうする、あれ」

 

「……どうしようね」

 

 小瀬川白望と上埜久はボールを見ながら横目にそう言い合う。野球ボールは水に浮くという事も初めて知った2人であったが、こういう形で知りたくはなかったであろう。

 これが夏ならば、2人は川に飛び込もうという気になれたであろう。2人とも泳げないというわけではないので、服が濡れるという点さえどうにかできれば川を泳いで取ろうとしたであろう。しかし、今は夏ではない。むしろその逆。極寒とまではいかずとも十分寒い日である。水温も分からぬこの状況で川に飛び込もうなどという自殺行為は、上埜久にはできなかった。上埜久は半ば諦めかけており、小瀬川白望に諦めようという旨を伝えようと横を振り向くと、そこには川の水に手を入れて水温を計っている小瀬川白望がいた。

 

「ちょ、ちょっと?白望さん?」

 

 上埜久が小瀬川白望に向かって声をかけるが、小瀬川白望の腕は既に自分の上半身の服を掴んでいたところだった。小瀬川白望はそんな上埜久に向かってきょとんとした表情でこういった。

 

「何?久」

 

「何って……こっちのセリフよ。まさか、飛び込む気?」

 

 そう上埜久が聞き返すと、小瀬川白望は真剣な表情で「そうだけど……?今触ってみたけどそんなに冷たくなかったし」と答える。しかし引き退るわけにもいかない上埜久は「止めて、風邪でもひいたらどうするの?」と小瀬川白望に向かって聞く。そうして小瀬川白望が返答する前に、第三者からの声がかかった。

 

「良かったら、俺が取ってきましょうか?」

 

 小瀬川白望と上埜久がその声の主の方向を振り向くと、そこには小瀬川白望と同じか、もしくはそれ以上の背丈の少年が立っていた。しかし背丈は確かに小瀬川白望よりも高いのだが、どこか幼い感じがする少年であった。少年は上着を脱いで少し身震いしながらも小瀬川白望に向かってこう言った。

 

「こんな寒い日に川に飛び込むなんて、それこそ命を捨てるような行為ですよ。こういうのは男子に任せて下さい」

 

「いや……むしろそれだった……ん……!?」

 

 小瀬川白望が何かを言いかける前に、上埜久は小瀬川白望の口を押さえて強引に止める。今の感じからして、『命賭けならそれこそ本望』とでも言いそうだったのだが、すんでのところで上埜久がファインプレーをする。こうでもしないと小瀬川白望は止まらないであろうから、まさに英断であろう。

 そうして小瀬川白望を押さえつけているうちに、少年は川へ飛び込む。少年の運動神経はどうやら良いらしく、パッと飛び込んでパッと戻ってきた。そういう印象であった。そうして水浸しになりながらも、少年は上埜久に向かってボールを渡す。

 

「あ、ありがとうね。えーっと……名前は」

 

「あ、須賀京太郎です」

 

 須賀京太郎。そう名乗る少年は嚔をしながら上着を着る。しかし下半身が濡れているため、寒いという現状は変わらなさそうではあるが。そんな須賀京太郎を見て小瀬川白望は彼にこう言った。

 

「……久、この子を久の家に連れてって」

 

「ど、どういう事?白望さん」

 

「いや……寒そうにしてるからこのまま帰すのもアレかなって……もともと私が行けば良かった話だし」

 

 須賀京太郎は「全然大丈夫です。それに、そんな事ないですよ」と返そうとしたが、一瞬だけ小瀬川白望に威圧されたような気がして心ごと怯み、言葉を発せなかった。

 

「白望さんはどうするの?」

 

「私はこの子のズボンを買ってくる。お金はちゃんとあるから大丈夫。買ったら直ぐに久の家に行くから」

 

「いやいや、悪いですよ!」

 

 そう須賀京太郎は小瀬川白望に向かって言うが、小瀬川白望は聞く耳を持たずしてそのまま向こうへと行ってしまった。そしてその場に取り残された上埜久と須賀京太郎は、ぽかんとした表情で互いの事を見ていた。そうして、上埜久は溜息をついて須賀京太郎に向かってこんな事を呟いた。

 

「……またあのお節介病が始まったわね」

 

「お節介病?」

 

「ええ。いっつもあの子は誰かのヒーローになってる。どこかで必ず、誰かのためにその身を犠牲……とまではいかなくても、他人に尽くしてるのよ」

 

「それって、良い事じゃないんですか?」

 

「良い事なんだけどね……敵が増えるから嫌なのよね、正直な話。……ただでさえ敵が何人いるのか分かったもんじゃない。そういうシチュエーションでそうなったっていう人を私は何人も聞いているわ」

 

「……もしかして、あなたも?」

 

 須賀京太郎がそう言うと、上埜久は少し顔を赤くしながら「ま、まあ……そう言う事になるのかしらね」と返答する。須賀京太郎はそんな上埜久を見て、小瀬川白望の事をもう一度脳内で思い出してみた。

 

 

(うん……確かにっていうかわざわざ確認するまでもなく可愛い。それに加えて気怠そうなあの表情で、この人の言ってる事がそのまま正しいとしたら……ギャップ萌えというヤツか。……最高だ)

 

「ねえ、須賀くん」

 

「は、はい!?」

 

 

 須賀京太郎がそんな妄想をしていると気付いたのか、上埜久は少しドスを効かせた声で、半ば脅迫のようにこう言った。

 

「あなたは大丈夫よねえ?確かに、男の子と女の子っていう関係が一番世間一般的に正しいんでしょうけど……だからってねえ?」

 

「は……はは。大丈夫ですよ……」

 

 そうして更に上埜久が付け加えるようにして須賀京太郎に向かって囁いた。

 

「中には本当にヤバい家柄の娘さんも狙ってるって話だから、気をつけた方がいいわよ。諏訪湖に埋められたくなければ、慎む事ね」

 

 須賀京太郎は冗談だと思いたかったが、少し奥の方を見ると何やら黒服の男がわざわざ此方から見えるように出てきて存在を須賀京太郎に確認させた。そうしてやっと上埜久の言ってる事が本当であるという事を悟った。最も、上埜久は若干冗談で言ったものであったが。

 

「さ、須賀くん。行きましょう。白望さんを待たせちゃ悪いわよ!」

 

「は、はい……」

 

 

 

-------------------------------

 

 

(男の子のズボンって、どんなのがいいんだろう……赤木さんに聞いてもあんまりアテにならないだろうしなあ……)

 

 そうして一方では、須賀京太郎がどういう好みをしているのか知らないため、意外なところで服選びに迷っていた。サイズなどはさっき見ただけでもだいたい推測はできたのだが、いかんせんどういう趣味なのか分からず四苦八苦していた。無論赤木しげるという一応男としてのアドバイザーはいるのだが、どこからどう考えても赤木しげるがいわゆる今時の少年の趣味と合致するわけがなかった。

 

(まあ……考えるだけ無駄か……)

 

 そうして小瀬川白望は直感で選んだズボンを取ろうとするが、ここで新たな選択肢が浮上する。

 

(そういえば……下着ってどうなんだろ。買うべきなのかな……あんまりそういう事はしたくないけど……)

 

 そうして悩みに悩み続ける小瀬川白望であった。

 

 




次回も長野編。
お前ノンケかよ!?って声が聞こえてきそうですが気にしません。
シロの前では京太郎でさえも攻略対象。流石ハーレム王。

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。