宮守の神域   作:銀一色

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東京編です。
恒例のあの回


第240話 東京編 ㊸ 敗北、劣等

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視点:神の視点

 

「どうだった?照……美味しかった?」

 

 小瀬川白望は食器を洗いながら椅子に座る宮永照に向かって言う。宮永照は自分の料理の出来なさが想像以上であったことに対する呆れと、小瀬川白望の料理がとても美味しかったという事に対する幸福感が混じり合った微妙な心情であった。

 そして自分のあまりの料理の下手さが宮永照のプライドに火をつけたのか、小瀬川白望の質問に答える前に宮永照は椅子から立ち上がって小瀬川白望に詰め寄り、「……いつか料理、私に教えて」と言った。突然そう言われた小瀬川白望は驚きながらも「う、うん……その時はそんなに難しくないものから始めようね……」と返事する。

 

(……岩手に戻ったら塞から人に教え易そうな料理を教えてもらおう)

 

 そして小瀬川白望は決意する。かくいう小瀬川白望も、料理のセンスは人並みにはあるものの、どういった料理があるのかというのは全て臼沢塞から指導してもらっているのだった。今日小瀬川白望が振る舞ったのも臼沢塞から教えて貰ったもので、ダルがりで面倒くさがりの小瀬川白望でもちゃんと作れるように、という事らしい。

 宮永照のために教える小瀬川白望が教えるために臼沢塞に教えてもらうという、なかなか回りくどい方法ではあったが宮永照と臼沢塞とではあまり関係があるとはいえない程の仲なので、知らない人に教える、教えてもらうよりかは知っている自分が教えてもらう、教えるといった方が円滑に進むであろう。そして何よりも、小瀬川白望自信が臼沢塞に宮永照に教えるためとかそういうのを抜きにしても教えて欲しかったためというのもあるのだが。

 

(でも、照……ちゃんとできるかなあ。さっきだって何を作ってああなったのか分からないし……)

 

 しかし、小瀬川白望が料理スキルを習得できたのは人並み、もしくはそれ以上に料理の才能やセンスがあったからであり、さっきの惨状を引き起こした宮永照に料理の才能やセンスがあるとは言い難いものであった。無論何を作っていたかにもよりけりなのだが、だからと言って黒い灰の塊が生成されるのは少しどころではなくかなり問題がありそうである。見た感じ器用ではなさそうであるし、いつも教えてもらう側であった小瀬川白望が教えるということもあって、うまく出来そうな気がしなかった。

 

(まあ……そこは私が頑張るか……)

 

 そう小瀬川白望が考えながら食器を洗い終えると、宮永照が「あ……ちょうどお風呂沸いたよ」と良いタイミングで報告してくれた。小瀬川白望は「……どうする?」と宮永照に聞く。ここでのどうするとは、風呂に一緒に入るのか否か。入らなかったとしたらどちらが先に入るか、そのことを踏まえてどうする?と聞いたのだ。すると宮永照は少しほど顔を赤らめながら小瀬川白望の服を掴んで、「……一緒に入ろう」言った。小瀬川白望は「じゃあ、そうしようか」と言って2人で風呂場へと向かった。

 

 

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「……よいしょっと」

 

 風呂場に来た小瀬川白望と宮永照。小瀬川白望は脱衣所に入るなり服を脱ごうとするが、目の前でいきなり小瀬川白望が脱ぎ始めたので宮永照は驚きと喜び、そして羞恥が入り混じった複雑な表情で「し……白望」と声をかける。小瀬川白望は「……どうしたの」と言って服にかけた手を止める。

 宮永照はまさか小瀬川白望の裸を見れると思うと今からドキドキしている、なんて事言えるわけもなく、目線を逸らして「……なんでもない」と返した。

 

(……あんなに大きいんだ)

 

 そして宮永照は小瀬川白望の身体の一部分……山を作っている豊満な箇所を凝視しながら、自分の胸に手を当てる。どう考えても小瀬川白望にあって、自分にないもの。それの差別化がされていた。そして再び小瀬川白望の胸を見てから、自分の胸に目線を移してため息を一つ吐く。遺伝とかで変わるとはよく聞いたものではあるが、ここまでくっきり分かれるとこの世の不条理、残酷さを垣間見た気分になれる。

 そして小瀬川白望が宮永照の視線に気がついたのか、下の服にかかっていた手を止めてさっきから脱ごうとせず、小瀬川白望のことをしきりに見ていた宮永照に向かってこう言った。

 

「……脱がないの?」

 

「え、えっ?あ、うん……そうだね」

 

 そう言って宮永照は服を脱ぎ始めるが、正直な話小瀬川白望の胸を見てから、自分の胸を晒すという行為がとてつもなく恥ずかしかったのである。自分のDNAに毒づきながらも、宮永照は渋々服を脱ぐ。そして2人の全身が露わになったところで、2人は浴室へ入る。

 

「先に頭、洗ってあげようか?」

 

 小瀬川白望がそう言ってシャワーノズルを持つと、宮永照は風呂椅子に座って「お願い……」と言って下を向く。小瀬川白望はそうして宮永照の頭を洗い、今度は宮永照が小瀬川白望の頭を洗い、最後は2人で身体を洗うと、2人は仲良く風呂の中へと入った。

 

「……やっぱり2人一緒には狭いね」

 

「う、うん……」

 

 小瀬川白望は宮永照に向かってそう言うが、真正面から小瀬川白望の全てが視線に入ってきている宮永照は少しほど言葉に詰まりながらもそれに同調する。

 

「し、白望ってさ……胸、大きいよね」

 

 そして宮永照がさっきから気になっていた小瀬川白望の胸についてついに本人に向かって言ってしまう。小瀬川白望は「そうかな……あんまり大きいのもあれだけど……」と何気ないように言うが、胸の小さい宮永照にとってはそんな何気ない一言が突き刺さる凶器に等しかった。そうして宮永照は敗北感と劣等感を味わいながら、風呂を終えたにのであった。




次回で東京編は終わりですかね。

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