宮守の神域   作:銀一色

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東京編です。
そういえば何気に前話で通算250話目なんですね。


第239話 東京編 ㊷ ぶり返し

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視点:神の視点

 

 

「……さっきはごめん」

 

 あれから十数分が経ち、なんとも言えぬ気まずい微妙な空間が構築されてしまった宮永照の寝室。その部屋にある、先ほど小瀬川白望を押し倒して強引に接吻したベッドの上で、宮永照は小瀬川白望にそう言って謝罪する。

 

「いや、別に謝んなくてもいいよ……確かにさっき強引にやられたのはビックリしたけど、照にも思うところがあったんだし……」

 

 確かに小瀬川白望の言っている事は正しく、別に間違っている事でもないのだが、今宮永照の頭の中には感情に流されてしまったとはいえ、それに乗じてあんな事を小瀬川白望にしてしまったという自責の念を感じていた。

 そうして再び互いに声すら交わさないもどかしい空間が出来上がってしまった。やはりあの事件が起こってからでは気分転換に何かしようという空気ですらないのは明々白々であった。

 部屋は沈黙で満たされ、唯一何か聴こえるとしたらそれは体がベッドの布団と擦れる音であり、それ以外は何一つ聴こえる事はなかった。

 

(……この空気、どうしよう)

 

 宮永照は現状を打破しようと考えながら、なんでさっき自分はあんな事をしてしまったのであろうという再び後悔していた。対する小瀬川白望も、何も言わずただ黙ってどこかをぼーっと見つめている。ただでさえ何を考えているのか、麻雀でも普段でも分からない小瀬川白望の心情が、今の状況で分かるはずなどなかった。

 

「……」

 

 そうして宮永照が困り果てていると、小瀬川白望が黙ったまま立ち上がって、宮永照を背後からそっと抱きしめた。宮永照が必死に思考を働かせていたため、背後にいた事はおろか、小瀬川白望が立ち上がっていた事にすら気づいていなかった。宮永照にとってはいきなり抱きつかれた形となったため、驚いて声を挙げてしまう。

 

「……少し、このままでいさせて」

 

 宮永照は小瀬川白望が何故抱きついてきたのか分からなかったが、取り敢えず小瀬川白望のやりたいようにやらせる事にした。

 

(また、ぶり返してきたのかな……身体、寒い……)

 

 そして当人の小瀬川白望は、前日の風邪が少しぶり返してきたような事を感じていた。流石に熱が下がっていたとはいえ、昨日の今日で完全に治ってはいなかったのかもしれない。とはいえ、まだ身体の寒気だけで、そんなに辛そうな表情ではなかった。故にそんな冷える身体を温めるべく、宮永照の身体に自分の身体を当てて温めようとしていた。

 とはいえ、通常の思考回路であったならば小瀬川白望がそんな事をするとは思えない。先ほどの異常事件や急に風邪がぶり返してきた事によって小瀬川白望の思考回路はおかしくなりつつあった。

 

「……?白望?」

 

 宮永照は後ろを振り返って小瀬川白望の事を呼ぶが、その小瀬川白望は宮永照の背中に抱きついたまま瞳を閉じていた。宮永照はそんな小瀬川白望を見て、疲れているのだろうと推測する。

 小瀬川白望が眠ってしまったため、身動きが取れなくなってしまった宮永照だが、宮永照はそんな小瀬川白望をそっと倒し、小瀬川白望に抱きつかれたまま宮永照も同時に身体を倒す。そうして小瀬川白望の上に乗っかって寝るという体制になった。流石にこのままでは小瀬川白望が辛いであろうと考えて、宮永照は身体を振って横に倒れる。

 

(……白望、大好き)

 

 そして背後で抱きつく小瀬川白望に心の中でそんな言葉をかけながら、宮永照も瞼を閉じて眠りへ着いた。

 

 

 

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視点:神の視点

 

 

 

「……ん」

 

 小瀬川白望が目を覚ますと、最初に宮永照の後ろ頭が視線に入ってきた。小瀬川白望は一度寝た事により体調が良くなった事を確認すると、宮永照に抱きついていた自身の左手を使って、何を思ったのか宮永照の頭を優しく撫でた。

 もはや自分が座りながら宮永照に倒れかかるようにして寝ていたことなど覚えていないようで、自分が今ベッドの上で寝転がっている事には何の疑問も抱いてはいなかった。

 

「ん〜……おはよ、白望」

 

 すると宮永照も起きたようで、小瀬川白望に向かって前を向いたまま口を開く。小瀬川白望も「おはよう……」と時間帯的にありえない挨拶を交わしながら、2人はゆっくりと立ち上がる。

 

「……もうこんな時間」

 

 小瀬川白望が時刻を確認してそう呟く。ただいまの時刻は午後5時を回っており、冬のこの季節では既に空は暗闇に包まれていた。宮永照はそれをきいて少し恥ずかしそうにしながら「じゃあ……泊まっていけば?」と小瀬川白望に向かって言う。

 

「いいの?」

 

「うん……親も今日帰ってこないって言うし……」

 

「……ありがとう」

 

 小瀬川白望が笑顔を浮かべて宮永照にそう言う。滅多に笑顔を見せない小瀬川白望の笑顔は、どうやら宮永照には強烈な刺激となったようで、照れを隠すべく「と、取り敢えず夜ご飯どうしようか?」と話題を逸らした。

 

「うーん……どうしようね」

 

「……よし」

 

 すると、宮永照が何かを決心したようにそう呟いた。小瀬川白望は「どうしたの?」と聞く。宮永照は自信を持って小瀬川白望に向かってこう言った。

 

「……私が作る」

 

 小瀬川白望はそれを聞いて(あれ……照って料理とかするのかな)と疑問に思いつつ、宮永照に向かって質問してみるとあっさり宮永照からNOという答えが返ってきた。

 

「佐賀の白水さんだってできたんだから、私にもできるはず」

 

 小瀬川白望はそう意気込む宮永照を見て少し心配になりつつも、ここで新たな疑問が生じた。

 

「……あれ、なんで哩が料理作ったって知ってるの?」

 

「えっ」

 

 宮永照は一瞬動揺した素振りを見せたが、まさか小瀬川白望が何処か遠い所に行く度に開かれる会議でそんな事を聞いたなんて言えるわけもなく、「じゃ、じゃあ作ってくる」と言ってキッチンへと駆けて行った。

 無論、10分も経たぬうちに真っ黒な物体がキッチンで生産されたことは言うまでもなく、小瀬川白望が代わりに作ったものを食べる事となったのは言うまでもなかった。




次回も東京編。
そろそろお風呂回の予定。その後は長野編ですかねー?

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