宮守の神域   作:銀一色

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東京編です。
若干過激……かも?


第238話 東京編 ㊶ 防波堤

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視点:神の視点

 

 

「私の家はここ……」

 

「ここが照の家か……何気に初めてかな、照の家に来るのは……」

 

 宮永照が指さした家を見て小瀬川白望はそう呟く。そもそも照と会うこと自体そんなに回数があったわけでもないので、小瀬川白望が宮永照の家に来るのは初めてなのもなんら不思議なことではない。

 小瀬川白望はそんな宮永照の家を外からまじまじと見る。流石に辻垣内智葉の家のような豪邸ではなかったが、随分と立派な家であるのは確かである。

 

(まあ……智葉の家みたいに広かったらそれこそ問題だけど……)

 

 よく辻垣内智葉の家が比較対象として出される場合が多いが、あくまで辻垣内智葉のところの家柄は『普通ではない』のだ。それもちょっとやそっとの問題ではなく、常軌を逸したものである。そんな家と他の人の家の大きさが同じであったらそれこそ恐ろしいものだ。

 

「……ようこそ」

 

 そんな事を考えながら宮永照の家の玄関の前までやってくると、宮永照が玄関の扉を開けて、小瀬川白望に向かってそういった。小瀬川白望は「おじゃまします……」と言って小さく会釈して中に入っていく。

 

(……尭深の家と同じくらい綺麗だな)

 

 小瀬川白望が入ってまず思ったのはそこである。宮永照は小瀬川白望から見て結構ポンコツなイメージがあったのだが、中は意外と綺麗であった。見た目によらず几帳面なのかと小瀬川白望が考えているところを見て、宮永照は少し不安になった。

 

(どうしたんだろ、白望……もしかして部屋、白望から見て綺麗じゃないのかな……結構掃除頑張ったつもりだったんだけど……)

 

 実際小瀬川白望は綺麗だと思っているので、これは宮永照の単なる過剰な心配だけなのだが、ともかく今の宮永照はネガティヴな状態であった。ただでさえ渋谷尭深との一件で少しナーバスな状態になっている宮永照に、小瀬川白望に無言でいられるとそれが心配になってしまうのであった。

 そして宮永照は心の中にモヤモヤを抱えながらも、小瀬川白望をリビングまで連れて行って、もてなしの飲み物をとりあえず差し出す。

 

「ん、ありがと」

 

 小瀬川白望がそう言うので、宮永照も若干嬉しくなるが、そう簡単にネガティヴからは脱却できず、暫しの間沈黙が訪れてしまった。宮永照もこの空気から脱却したいのは山々なのだが、いかんせんどう話しかけていいのか分からず、困り果てていたのである。

 

「ねえ、照」

 

「っ!?な、何……白望?」

 

 すると突然、小瀬川白望が宮永照に向かって声をかける。宮永照は客観的に見ても過剰な反応を見せて小瀬川白望に聞き返すと、小瀬川白望はそんな宮永照を見てこう言った。

 

「やっぱり尭深とは仲が悪いの?」

 

「……別に、そういうわけじゃ……」

 

 宮永照は顔を逸らし、少し声のトーンを落としてそう言う。まただ、そう宮永照は頭の中で思った。また自分ではなく他の人、他の人、他の人の話……確かに、小瀬川白望は優しい。それは揺るぎないものだ。かくいう宮永照も、その優しさに惹かれたものだ。が、それと同時に小瀬川白望は誰にでも優しすぎたのであった。故に、自分だけという事はいかないのである。自分はこれほどまでにも小瀬川白望の事を欲している、愛している。そうだというのに、小瀬川白望はそれに気付かず、誰にでも差別なき優しさを与えるのだ。正直言って、嫉妬という枠組みをもはや超えてしまっていたのであった。

 渋谷尭深など度重なる嫉妬のオンパレードによって、宮永照の心は荒みきっていた。嫉妬、と漢字二文字で簡単に表しているが、宮永照が抱える心のドロドロとしたものはもはや漢字二文字では形容することのできないほどまでに成長しきっていた。

 

「でも、なんか『尭深』と仲が良くなさそうだったし……私もああいう空気だと、ちょっとダルい……」

 

「……ッ!!」

 

 そしてこの小瀬川白望の言葉、それによって宮永照が必死に押さえつけていた防波堤が決壊した。あらゆる感情を堰き止める防波堤はもはや存在せず、感情と欲望だけが彼女を構築していた。

 

「白望……ちょっとついてきて」

 

 宮永照はすっと立ち上がって、小瀬川白望に向かってそう言う。小瀬川白望は疑問そうな表情をしていたが、まんまと宮永照についてきてくれた。こういう疑問に思っていながらも何も聞く事なく、しっかりとついていっている辺り小瀬川白望の優しさがうかがえる。……しかし今回はその優しさが仇となってしまったのだが。

 宮永照は小瀬川白望を引き連れてある一室へと連れてきた。そう、そこは寝室であった。無機質なベッドと、教材が並べられている学習机が存在しており、まさに生活感溢れる部屋であった。

 

「……ここ、照の部屋?」

 

 小瀬川白望は首を傾げながら部屋を見渡してそう言うが、宮永照はその問いに答えず、静かに戸を閉め……そしてガチャリと鍵を閉めた。

 

「……照?」

 

 流石の小瀬川白望も問いてしまうほど怪しすぎる行動をとった宮永照だが、小瀬川白望の問いかけを無視してそのまま小瀬川白望をベッドへ押し倒し、そのまま接吻した。

 小瀬川白望は目を見開いて驚きの表情を浮かべる。何が起こっているのか理解した頃には、既に宮永照の唇が離れた後であった。

 

「……ッ、て、照!?」

 

 小瀬川白望は驚愕しながら宮永照の事を叫ぶが、宮永照はそれに応じない。小瀬川白望は抵抗しようにも、宮永照が両手を押さえつけているため、足でしかもがく事ができなかったが、万が一宮永照に怪我を負わせたらと考えていたのだろうか、小瀬川白望の抵抗は宮永照を払い退けるには勢いが足りなかった。

 

(なんで……なんで抵抗しないの……?)

 

 そして宮永照はそんな小瀬川白望を見て、半ば放心状態になりながら心の中で呟く。どうして、あんな事をいきなりした自分の事まで配慮しているのであろうか。それが謎で仕方なかった。どこまで寛容なんだ、どこまで優しいんだ。……宮永照は何もかもが分からなくなっていた。

 

(どうして……どうして!)

 

 

「……白望、抵抗しなよ。このままだと、どうなっても知らないよ」

 

 宮永照はそんな小瀬川白望に対し、一種の苛立ちにも似た何か変な感情にどっぷりと浸かりながらも、わざわざ小瀬川白望に忠告する。しかし、小瀬川白望はそれを聞いた上でも抵抗しなかった。

 

「……な、んで……」

 

 気がつけば、宮永照が小瀬川白望の手を押さえていた手は緩み、押さえつけている状態からただ単に馬乗りになっている状態となってしまった。しかしそれでも尚、小瀬川白望は振り払う事はしない。むしろ逆、小瀬川白望は上体を起こして宮永照をそっと抱きしめた。

 

「……ごめん、照」

 

 そして一言、宮永照に向かって言う。その一言が引き金となって、宮永照はポロポロと涙を流してしまった。抱きしめながら謝る小瀬川白望に向かって、宮永照は泣きながらこう言う。

 

「ううん……違う、違うんだよ……」

 

 そう言って宮永照は抱きしめられた状態から、今度は小瀬川白望の腹部に抱きついて、頭を埋める。小瀬川白望は何も言わずに、宮永照の話を聞いていた。

 

「怖かった……白望が私の事、どうでもいいと思ってたらって考えると……怖くて」

 

「……そんな事ない。照は私の大切な人」

 

 そう小瀬川白望は宮永照に向かって言うと、宮永照は嬉し涙なのかもはや分からぬ涙に顔を濡らしながら、小瀬川白望に再び強く抱きしめる。

 そうして宮永照が落ち着きを取り戻すまで、2人はずっと抱き合っていた。




次回も東京編。
いや〜素晴らしいですね(殴

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