宮守の神域   作:銀一色

247 / 473
東京編です。


第235話 東京編 ㊳ お茶より譲れない

-------------------------------

視点:神の視点

 

 

 

「うわあ……風流だね……」

 

「いかにも『和』って感じ……」

 

 

 若干遠回りしたり通り過ぎたりなどと時間はかかったものの、無事たどり着く事ができた三人が店へと入ると、そこにはいかにも和風のような感じの店内であった。宮永照と小瀬川白望はその内装に思わず声を出して周りを見渡す。小瀬川白望はもちろん、宮永照も実はそういう店があるということだけは知っていて、実際は行ったことはないのであった。確かに凄いところだと宮永照は聞いていたのだが、その宮永照の予想の一回り、ふた回りも上をいっていた。一方の渋谷尭深はというと、自分の目的の場所へと来れて言葉も出ないほど感動していたのか、それともこの和の感じを静かに感じたいのかは分からなかったが、黙ったまま店内を見ていた。

 そして店員によって三人は和室の一室へと案内されると、そこもまあ見事なまでの『和』であった。三人の心が更に高揚する。そして三人はメニューを確認すると、ずらりと並んだ『和』のメニュー。こういう機会でなければ多分今後一切食べることのないであろうものもあり、三人の気分はまさに絶頂を迎えていた。

 

「凄いね……心が落ち着く……」

 

 小瀬川白望がそう言うと、宮永照と渋谷尭深は黙ってコクリと頷く。そうして三人がメニューを決め終え、店員を呼び出してメニューを取ってもらった。

 そして注文したものが届く。頼んだのはまずはもちろん日本茶。これのためのきたようなものだ。あとは思い思いのメニューをオーダーし、あらかた揃うと三人はまず日本茶を飲もうとした。

 

 

「熱……」

 

「ちゃんち冷まさなきゃ……熱っ」

 

 熱がる小瀬川白望を嗜める宮永照が即座に小瀬川白望と同じことをするというコントのようなやり取りを見ながら、渋谷尭深は慣れた感じで日本茶を飲む。2人はそんな渋谷尭深を見て「熱くないの?」と問いかけるが、渋谷尭深は「慣れてますので……」と言って再び日本茶を口にする。

 

「あ、このお菓子美味しい……」

 

 そして宮永照は自分が注文した和菓子を食べながら若干猫舌の宮永照が飲めるほど冷めた日本茶を飲む。流石甘党というべきか、小瀬川白望からみてかなりの量の和菓子を注文していたはずなのだは、宮永照は物ともせず次々と口へと運ぶ。

 

「……甘いもの、お好きなんでしょうか?えっと……」

 

「宮永照。宮永でも照でもどっちでもいいよ。そして隣にいるのが……」

 

「白望さん、ですよね」

 

「あれ……知ってたんだ?白望の事」

 

 宮永照がそう言うと、渋谷尭深が少し戸惑ったような表情をしながら「いえ……宮永さんが何度も言っていたものでしたから……」と答える。宮永照は「ああ、そうか」と言った天然ボケも披露しながら、どんどん和菓子を食べていく。そして少し経って、自分に向けられた質問にまだ答えてなかったと思い出した宮永照は「まあ……かなり大好きな方。甘いものがないとやってられない……渋谷さんは?」と渋谷尭深に向かって聞く。

 

「私はお茶にあうものだったら基本なんでも好きですね……」

 

「ふーん……」

 

 渋谷尭深の返答を聞きながら内心で(この人とは気が合いそうだな……)と考えながら和菓子を食べる。そして食べ終えると、三人は立ち上がって会計する事にした。

 

 

 

 

-------------------------------

 

 

 

「ふう……本当にありがとうございました」

 

 そして店から出た渋谷尭深は、ここまで導いてくれた宮永照と小瀬川白望にお礼を言う。宮永照は「困った時はお互い様だから……」と返す。

 

「渋谷さんはこれから何か用事でもあるの?」

 

 そして小瀬川白望が渋谷尭深にそう聞くと、隣にいる宮永照の表情が一気にムッとした表情になる。前の亦野誠子は『そういう空気』をうまく察知する事ができたが、渋谷尭深は察知する事はできなかったようだ。

 

「いえ……何もありませんけど」

 

「じゃあそれならこれから私たちと一緒に来る?」

 

「……でも、そちらにまた迷惑をかけるのも……」

 

 渋谷尭深がそう言った瞬間宮永照の表情が元に戻り、目を輝かせるが小瀬川白望の放った「全然。私たちもそんな用事があるわけでもないし……」という言葉によってまたも顔がムッとした。

 

「そうですか。そうでしたら、ご一緒させて頂きます」

 

 渋谷尭深はそう言ってお辞儀をする。宮永照はそんな渋谷尭深を見てこう思ったそう。

 

(……前言撤回。この人とは仲良くやっていけないみたい)

 

 そうして小瀬川白望に聞こえないように宮永照はそっと渋谷尭深の眼前まで近寄り、小さな声でこう囁いた。

 

「……譲る気はないからね」

 

「?……なんの事です?」

 

 渋谷尭深はそう聞き返すが、宮永照には聞こえていなかったらしくその時には宮永照は渋谷尭深にわざと見えるように小瀬川白望の腕にしがみついた。そしてようやく宮永照の言っていた事を渋谷尭深は理解した。

 

(……なるほど、そういう事でしたか。宮永さん……残念です。せっかく仲良くなれると思っていたんですけど……)

 

 なんと悲しい事であろうか。渋谷尭深はそんな事を考えながら宮永照の事を見る。渋谷尭深がそう心の中で呟いた訳は、もはや言うまでもあるまい。そう、この瞬間から宮永照と渋谷尭深は敵同士。恋敵同士となったのであった。

 

 

(確かに時間は宮永さんより浅いんでしょうけど、関係はないです……私も初めてお茶より譲れないものができたんですから……)

 

 

 そう心の中でつぶやき、小瀬川白望の近くをついていく。確かに渋谷尭深のは一目惚れに近いようなものである。しかし、渋谷尭深がこういう感情になったのは初めてなのであったのだ。いくら宮永照の愛情が本物であろうとも、渋谷尭深のそれも劣るほど薄っぺらいものではない。と彼女は思っていたん。そしてなるべく、離れないようにして近くをついていった。いつもは寡黙気味でクールな渋谷尭深であったが、この時ばかりは内に秘める焔を灯していた。

 

 

 




次回も東京編。
まさかの修羅場ターイム。

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。