宮守の神域   作:銀一色

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東京編です。
至福の土日。


第234話 東京編 ㊲ 迷子

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視点:神の視点

 

 

「あ、し……白望」

 

 宮永照がやはり慣れない呼び捨てで小瀬川白望の事を呼んで遠くの方を指差すと、小瀬川白望は「……どうしたの?」と返して宮永照が指差す方向を見る。が、そこにはかなりの人や物、店があったので、どれを指して言っているのか分からずに小瀬川白望が再び「……何かあったの?」と聞き返すと、宮永照は小瀬川白望に説明を付け加えた。

 

「……いや、あの人。何か困ってそうだから……」

 

 宮永照がそう言って初めて、小瀬川白望はようやく宮永照が指していた対象の人を発見する。確かに、よく見てみると何か困ったような表情をしていた。小瀬川白望は宮永照に「……ちょっと声、かけてみようか」と言うと、宮永照は「うん……人助けだね」と言って、その人のところへと向かい、近くまで行くと、小瀬川白望はその人に向かって声をかけた。

 

「ねえ、そこの人」

 

「えっ?わ、私ですか……?」

 

「うん。まあ……」

 

 声をかけられた当人は少しばかりびっくりして小瀬川白望と宮永照の事を見る。そして2人に向かって「……何か用ですか?」と聞く。少しばかり警戒しているような雰囲気であったが、何か悩んでいたところに見知らぬ2人に話しかけられたら驚いたり警戒したりするのも無理はないであろう。

 とりあえず小瀬川白望は「いや……困ってそうだったから、つい」とその人に向かって言う。隣にいる宮永照はそれに付け加える形で「何かあったの?」とその人に聞いた。

 

「いや……少し道に迷ってしまって……こういうところに来るのはあまりないので、つい……」

 

 『迷った』。それを聞いた小瀬川白望は咄嗟に方向音痴ですぐに迷いそうな宮永照の方を見る。すると視線を感じた宮永照は少しジロリと小瀬川白望の事を見ると、「私は方向音痴じゃない」と呟いた。小瀬川白望は心の中で(……どう考えても方向音痴以外の何者でもないんだけどなあ)と思いながらも、迷っているという人に向かってこう言う。

 

「そっか。何処に行こうとしてたの?」

 

「○○という店で……」

 

 東京の地形や店などの情報に疎い小瀬川白望が聞いたところで、何処にあるのかも分かるはずがないのだが、とりあえず聞いてみた。もしかしたら、宮永照が奇跡的に知っている可能性もあり得る。まあ、仮に知っていたとしても宮永照がそこまでの道をちゃんと覚えておいて、尚且つそこまでたどり着くことが出来るかと言われれば話はまた変わるが。

 そうして小瀬川白望は一か八かで宮永照に「うーん……照、知ってる?」と聞いてみると、意外にも「うん、知ってるよ。……白望」と答えが返ってきた。それをきいた迷っているという人は表情が明るくなり、宮永照に向かって「そこまでの道、教えていただけますか?」と聞いた。

 

「うん……分かった。ついてきて」

 

 宮永照はそう言うが、小瀬川白望は内心心配で仕方がなかった。あの超絶方向音痴の宮永照が、本来道を聞く側であるはずの宮永照がまさか人に道を教える事になろうとは。空から槍が降ってくるのではないかという心配と、果たして本当にそこまで行けるのかという心配の二つの意味で心配になりながらも、小瀬川白望は宮永照に向かってついていった。

 

 

 

 

 

 

 

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「そういえば、名前は?」

 

 

 歩くこと20分。果たして道があっているのか間違っているのか、それすらも分からないまま歩き続ける小瀬川白望であったが、ふとここで迷子の人の名前を聞いていないという事を思い出した。

 

「渋谷尭深です」

 

 すると迷子の人は渋谷尭深と名乗った。それをきいた小瀬川白望は「へえ……良い名前だね」と返すと、今度は逆に渋谷尭深が小瀬川白望と宮永照に向かって「あの、あなた方のお名前は?」と聞いてきた。

 

「私は宮永照」

 

「小瀬川白望……」

 

 2人はそう答えると、渋谷尭深は「成る程……記憶しました」と言った。そうして小瀬川白望は続けて「渋谷さんはその店に何か用でもあるの?」と渋谷尭深に向かってきいた。

 

「ちょっと日本茶を飲みに……」

 

「へえ……お茶、好きなんだ?」

 

「はい。まあ、お茶と言ったら静岡ですけど。都内でも有名な日本茶のカフェがあると聞いたので、居ても立っても居られなかったんですけど……そのお店が何処にあるのかをしっかり調べてませんでした」

 

「ふーん……」

 

「良かったら、お二人も一緒に飲みませんか?日本茶」

 

「そうだね……照、そうしようか?」

 

「うん……そうしよう」

 

 そして小瀬川白望は再び歩きながら、ここである疑問が浮かんできた。それは何故宮永照がその日本茶のカフェを知っているのかということであった。それを宮永照に聞いてみると宮永照は「いや……カフェっていったら甘いものとかありそうだから、そういうカフェとかは知識豊富なんだ」と返してきた。成る程、それなら合点が行くと小瀬川白望は納得すると、宮永照が急に止まった。

 そして店らしき建物を指差すと「着いたよ。渋谷さん、白望」と2人に向かって言う。

 

 

「あ、ありがとうございます」

 

 渋谷尭深は宮永照にお礼を言う。小瀬川白望も感心して宮永照の事を賞賛しようとしたが、ここで小瀬川白望はあることに気づいてしまう。実はこの場所、先ほど一回通った道なのであった。ということは通り越して尚且つ遠回りしてここまでやってきたということで、やはり宮永照の方向音痴は治ってはいなかったということになる。

 

(もし、ここにまた戻ってこれなかったらって考えると……すごくダルいな)

 

 まあ、何はともあれ無事に着いた事には変わりない。時間は本来かける時間以上かかったが、無事にたどり着けたことが僥倖である。そう思いながら、小瀬川白望は渋谷尭深と宮永照と一緒に、その店へ足を踏み入れた。

 




次回も東京編。
照&たかみー編です。

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