宮守の神域   作:銀一色

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東京編です。
勝負の途中ですがキングクリムゾンさせてもらいます。
終わりそうにないので……


第232話 東京編 ㉟ 理を捨てる事と思考放棄

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視点:神の視点

東三局一本場 親:亦野誠子 ドラ{⑤}

 

小瀬川白望 38600

宮永照   27900

亦野誠子  19500

 

場 4000

 

 

 東三局が流局によって終わり、亦野誠子の1人テンパイによって東三局一本場へと場は移行する。宮永照と小瀬川白望のノーテン罰符によって亦野誠子と2人の差も若干詰まり、宮永照に至っては8200しか差が無い。しかし、亦野誠子はその差は決して小さいものでは無いと感じていた。というより、ここまで来れば嫌でも気づかされるであろう。その8000ちょっとの点数を削る事が、どれほど難しいかという事を。そもそも和了ることすら困難な状況で、その上8000以上の差を詰めろというのが難しいのは言うまでも無い。

 

(……考えるな。感覚だけで判断するんだ……!)

 

 前局から雑念を振り払って感覚だけで打ってきている亦野誠子ではあるが、若干その精度に解れが生じてきていた。

 どういう事かといえば、考えないように意識しすぎているあまり、ただ単に全ツッパしているような感じとなってしまっていた。その証拠に、この東三局一本場は呆気ない幕切れとなってしまう。

 

 

「……リーチ!」

 

 

亦野誠子:手牌

{一一一②④⑦⑦34赤5678}

 

 

打{横①}

 

 

 

 十一巡目に亦野誠子はリーチを放つ。しかし、些か状況整理を怠ったか、その{①}は宮永照の和了牌となっていた。

 

「……ロン」

 

 

宮永照:和了形

{②③⑤⑤⑦⑧⑨566778}

 

「……平和ドラ2。4200」

 

 無論、宮永照が見逃すはずもなくロンと宣言して牌を倒す。それだけでも前へ前へと傾いていた亦野誠子の気持ちを失速させるには十分なダメージであったのだが、ここでさらなるダメージが亦野誠子の事を襲う事となる。

 

「……確かこの勝負はダブロンありってルールにしたんだったよね……」

 

 小瀬川白望が少しほど笑いながら亦野誠子に向かって聞く。亦野誠子は「あ、ああ……まさか」と思わず声に出してしまっていた。小瀬川白望はそんな亦野誠子の狼狽えるところを見て「悪いな。ダブロンだ……」と言って手牌を倒した。

 

小瀬川白望:和了形

{①②②⑥⑥⑧⑧東東中中北北}

 

「七対子混一色。満貫……8600」

 

 亦野誠子はそれを見て小瀬川白望と宮永照の捨て牌を改めてよく見てみた。宮永照も小瀬川白望も、よく捨て牌さえ見ていれば避けることのできていた振り込みであったのだ。亦野誠子はそれに対して悔やんでいたが、対する小瀬川白望はそんな亦野誠子を見て心の中でこう呟く。

 

(理を捨てるという事と、思考を放棄するのとではまた違う話……常に最大限の思考を働かせて、その上で判断を自分の直感に任せる。その程度を意識しないでできるようにならなきゃ私達には届くわけが無い……)

 

(……確かにさっきの発想は良かったけど……その有様じゃあただの投身自殺。ツメが甘いというか何というか……お粗末だね)

 

 まあ小瀬川白望からしてみればそう感じるのであるのだろうが、実際のところあれだけ追い詰められてああいう発想になるのは感心すべき点であろう。ただ、それがどちらかというとヤケクソになったような状態になってしまったというのが悪かっただけで、固定観念を捨てるという点では評価すべきであろう。

 しかし、まだまだ及第点にはほど遠い。その発想だけの策略で宮永照と小瀬川白望。この2人と闘えるわけがない。そういった意味ではお粗末であると言えるのであろう。

 

(ど、どうしても……どうあっても最終的には振り込んでしまうのか……!?)

 

 おまけにこのダブロンによって亦野誠子の気持ちは完全に折られたようで、何をしようとも振り込んでしまうのではないか、和了られてしまうのではないかという負の思考回路へと誘われていた。一度こうなってしまえば、通常の思考……前向きな思考になるのは余程のことがなければ起こることはない。

 結局、亦野誠子はこの東三局一本場のダブロンを境に失墜。どんどん点棒を減らしていき、最終的には南三局のオーラスでトバされてしまった。

 宮永照と小瀬川白望の闘いも、宮永照が十三飜分を和了りきるまえに小瀬川白望が宮永照を上回るスピードで聴牌して和了っていき、十三飜に達する前に小瀬川白望は亦野誠子をトバして終局。終わってみれば小瀬川白望の勝利で締めくくられた。

 

「……また勝てなかった」

 

 宮永照は少し呆けたような表情で小瀬川白望に向かって言う。2年という歳月は小瀬川白望と宮永照の元々あった力量の差をさらに広げていたようで、南場には入ってからは突き進む小瀬川白望、それを必死に追いかけようとする宮永照という構図が多かった。

 それを聞いた小瀬川白望は「2年もやってなかったのによくそこまで腕を保てたと思うよ」というお世辞ではない、率直な感想を述べる。確かに宮永照の腕は落ちたというわけではない。もしかすると全国大会の時よりも少しばかり強いかもしれない。ただ、それ以上に小瀬川白望が大きく成長していた。ただそれだけのことであった。

 そして小瀬川白望は俯いている亦野誠子に向かって「釣り人さん、まあ色々解れは見られたけど、中々楽しめたよ」と言う。すると亦野誠子は顔を上げて小瀬川白望と宮永照に向かってこう聞いた。

 

 

「……何者なんですか、あなたたちは。多分そこらのプロよりも何十倍も強い。はっきり言って異常ですよ」

 

 そう聞かれた小瀬川白望と宮永照はお互いの顔を見て首を傾げる。そんな事を聞かれたことなんてなかったため、少しほど返答に困ったが、小瀬川白望は亦野誠子に向かってこう答える。

 

「……何だろうね。強いて言うならギャンブラー、かな」

 

「ギャ、ギャンブラー?」

 

「そして照は何だろうね……?」

 

 小瀬川白望が宮永照にムカてそう言うと、宮永照は小瀬川白望の腕を掴んで滅多に笑わない宮永照がニコりと笑って「ギャンブラーのお嫁さん、かな?」と言い放った。

 

「えっ?」

 

「え……」

 

 小瀬川白望と亦野誠子は宮永照の事を驚きながら見る。宮永照は今ようやく自分が心の中で密かに思っていた爆弾発言が口から声として発しられていたということに気付き、顔を真っ赤にしながら「……今のは忘れて」と言って顔を隠した。

 

「そ、そうだ。釣り人さん、携帯持ってる?」

 

 そして宮永照は話題を変えるべく、亦野誠子に向かってそう聞く。亦野誠子は「あ、はい……」と言いながら携帯電話を取り出すと、宮永照は「メールアドレス……交換しよう」と亦野誠子に向かって言うと、小瀬川白望にも「ほら、白望さんも……」と言って、話題を強引に変更しようとしていた。

 

「まあ、いいけど……」

 

 そう言って小瀬川白望が携帯電話を取り出すと、宮永照は小瀬川白望に自分の携帯を渡して「やり方分からないから……やって」と言うと、小瀬川白望は「……そろそろ使い方くらいちゃんと覚えたら?」と言いつつも、宮永照の携帯電話を使って亦野誠子のメールアドレスを登録する。そうして宮永照に返す。そしてその後小瀬川白望が亦野誠子とメールアドレスを交換すると、亦野誠子は「よ、宜しくお願いします……白望さん、照さん」と改まって挨拶をする。

 

「宜しく。誠子さん」

 

「宜しく……」

 

 宮永照と小瀬川白望がそう言うと、「照、この後どうする?」と小瀬川白望が宮永照に聞く。そんな光景を見て、亦野誠子は心の中でこう思ったそう。

 

(……本当に夫婦になれるんじゃないかな。この2人……似た者同士だし……)

 

「……?どうしたの、誠子さん」

 

 そんな亦野誠子を見て宮永照がそう聞くが、亦野誠子は「いや、何でもないです」と笑って誤魔化した。

 

 




次回も東京編。

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