宮守の神域   作:銀一色

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東京編です。
明日は月曜日……?


第229話 東京編 ㉜ 散れ

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視点:神の視点

 

東二局 親:宮永照 ドラ{5}

 

小瀬川白望 40600

宮永照   23100

亦野誠子  26300

 

 

 小瀬川白望が亦野誠子を三副露させて宮永照の良手を潰した前局、宮永照を潰すために小瀬川白望は自分の親を捨てたことにより、逆に良い手を流された宮永照は今度は親番となった。

 通常なら、この時点で宮永照に好調が来る流れではない。それに2年のブランクもあるし、そう容易く流れを手繰り寄せることはできない。早くも勝負あったかと思われそうな状況ではあるが、小瀬川白望ほどではないにしろ、宮永照も十分『通常』という言葉では計ることのできない人間である。

 そう、確かに流れを失った。失墜していたと思われても仕方のない内容であったが、彼女は腐っても『牌に愛された子』である。ちょっとやそっとでは揺らぐものでは到底ない。

 その証拠にこの東二局、宮永照の手牌……

 

宮永照:手牌

{一①④⑤⑦⑦⑨24578東東}

 

小瀬川白望:手牌

{九九九①②⑥⑧⑨113西中}

 

 

 小瀬川白望とほぼ互角……いや、それ以上と言っても過言ではない内容……!両者共に三向聴ではあるが、宮永照にはダブ東である{東}が対子となっている。それに、小瀬川白望も確かに三向聴ではあるものの、手牌は老頭牌に偏っており、チーのできないこの三麻では明らかに不利な状況であった。

 確かにこの状況、宮永照が有利であると言わざるをえない状況ではあったが、宮永照は全然安心などしておらず、むしろこの状況を危惧していた。

 

(白望さんなら、こんな状況でも何をしてくるか分からない……)

 

 そう、今宮永照が闘おうとしている相手は小瀬川白望だ。ただの人間ではないのだ。小瀬川白望は2年前、幾度となく宮永照が有利、勝利を収めるであろうと予想された状況でも、何度でも何度でもその予想を裏切ってきたのだ。当然、油断できる相手などではない。というか、油断という選択肢がある時点で勝ちの芽などあるわけがない。それを宮永照は2年前に痛いほど思い知らされてきた。故に。

 

「……ポン!」

 

宮永照:手牌

{①②④⑤24578東東} {⑦⑦横⑦}

 

打{②}

 

 速攻を仕掛けに行く。多少打点や飜数が落ちてもそれは仕方のないこと。とにかく和了。和了なのだ……!小瀬川白望でさえ追いつけないほどのスピード、目にも留まらぬ疾風怒濤のスピードで宮永照は駆けていく。しかし、小瀬川白望はそんな宮永照を試すが如く。

 

「ポン……ッ」

 

小瀬川白望:手牌

{九九九①⑥⑧⑨113西} {②②横②}

 

打{①}

 

 

 小瀬川白望も動いて出る。{②}鳴き{①}打ち。無論、この行為にはあまり意味はない。言うなれば脅し。これで宮永照の中張牌切りによる前進を抑止しようという試みであった。進んでみろ、さもなくば殺すぞ。そんな言葉を放つように小瀬川白望は構えるが、実際小瀬川白望が持っているのは刃のない剣。見せかけにしか過ぎないのだが、それが宮永照を悩ませることとなる。

 

宮永照:手牌

{①④⑤24578東東} {⑦⑦横⑦}

ツモ{6}

 

打{①}

 

 

宮永照:手牌

{④⑤245678東東} {⑦⑦横⑦}

ツモ{東}

 

 

(……ッ!)

 

 

 小瀬川白望が{②}を鳴き、{①}を切った以上混一色や清一色ではない事は確かである。だとすれば、可能性があるのは役牌かもしくはタンヤオ。そのどちらかである。そしてそのどちらかで可能性が高いとしたらタンヤオである。しかし、それがいけない……!そう、宮永照のこの手、聴牌するためには何か中張牌を切らなくてはいけないのであった。それも、二枚。もちろん今重なった{東}の暗刻を切るという事も可能ではあるものの、その{東}だって安全というわけではない。

 未だ場には{東}は出ておらず、宮永照が迂回するために切った{東}を小瀬川白望が{発}などの他の役牌を持っていて単騎で狙っていた……あるいは、対々和三暗刻で宮永照が暗刻落としでくるだろうと予想して単騎で狙っていた……何て事は容易に想像できてしまう。小瀬川白望であるなら、それだけでどんなパターンだって。一転して追い詰められる宮永照。が、しかし。

 

 

(……私はあの時、逃げたから直撃を受けた)

 

 ふと思い出すのはまたもや2年前、全国大会決勝の後半戦南三局。死の淵から蘇った小瀬川白望が絶体絶命の状況で宮永照から直撃をとったあの思い出。宮永照はあそこで、最初に逃げてしまったのが全ての始まりであったのだ。

 確かに、宮永照が振り込むという最悪の事態が起こりうる可能性は幾らでもある。しかし、あの時もそうであった。散々迷った挙句、小瀬川白望にしてやられた。小瀬川白望という名の迷宮、ラビリンスに迷わされた。

 

(どうせいつかは散る(死ぬ)定めなら……)

 

 そう言って宮永照は手の中にある逃げの{東}を手牌の横にそっと置き、代わりに{2}を掴む。2年前のような逃げの一手ではない。攻め。攻めの一手。

 

(私も嶺に咲く花のように……)

 

 

(胸を張って散れ……!)

 

 

打{2}

 

 

 宮永照が打ってから数秒、時は静寂を迎える。亦野誠子は宮永照から鬼気迫るものを感じ取って狼狽えている。対する小瀬川白望は、静かに宮永照の目を見ていた。

 

 

「……ツモりなよ、釣り人さん」

 

 狼狽えているために中々牌をツモろうとしなかった亦野誠子に向かって、小瀬川白望がそう言ってゲームの続行を促す。宮永照は安堵とはまた違った感情を感じながら、再びツモ番になるとすぐ様牌をツモってくる。

 

宮永照:手牌

{④⑤45678東東東} {⑦⑦横⑦}

ツモ{④}

 

 宮永照の前へ進む姿勢に牌が応じたのか、あっという間に聴牌に至る。{369}の三面待ち。そのためには{⑤}を切らねばならなかったのだが、今の宮永照を止める障壁など無いに等しかった。

 

打{⑤}

 

 

(……面白い。そうでなくちゃ……)

 

 

 そんな宮永照を見て、小瀬川白望は心の中でそう呟いて手牌を倒す。この時点で小瀬川白望は悟っていたのだ。次巡、宮永照がツモってこの局は終わるであろうということを。

 

(……何て人、いや、バケモノなんだ!)

 

 そして宮永照の次に牌をツモる亦野誠子は、宮永照を見て未だ驚愕していた。宮永照のその狂気にも似た、前へ進む姿勢。それが亦野誠子にはもはや人間ではなく、バケモノにしか見えなかったという。

 

「ツモ」

 

宮永照:和了形

{④④45678東東東} {⑦⑦横⑦}

ツモ{3}

 

 

 

「ダブ東、ドラ……1」

 

 

 宮永照は小瀬川白望の予想通り、聴牌して直ぐ様次巡に和了る。宮永照がそう申告し、小瀬川白望は点棒を渡す。しかし、その時の小瀬川白望はしてやられたといった感じではなく、至って無表情。いつもと変わりの無い、冷静でクールな崩れることの無い表情。

 しかし、そんな薄皮を剥いでやれば、その中にいるのは神をも殺す狂気で塗りたくられた言葉で表現できない正真正銘のバケモノ、いや、それ以上の何かであった。

 




次回も東京編です。

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