宮守の神域   作:銀一色

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東京編です。
シロたんイェイ〜


第225話 東京編 ㉘ 海

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視点:神の視点

 

 

「じゃあ、これからどうしようか?」

 

 宮永照がパフェを食べ終えたのを見計らって小瀬川白望は宮永照にそう聞く。そもそもちゃんと集合できるかどうかで悩んでいた小瀬川白望がその後のプランなど考えているわけがなく、結局宮永照に聞かざるを得なかった。しかし宮永照も小瀬川白望と会うまで迷っていたので、そんな事を構想している余裕もなく、「どうする……?」と返答する。

 今までは辻垣内智葉を始めとした、小瀬川白望が会いに行った人間は大抵何かしらのプランを考えてきてくれた。故に小瀬川白望は自分から何かをしようと提案することに慣れていなかったのであった。無論宮永照も何かをしようと提案することなど全くないわけで、話し合いは膠着するかに見えた。

 

「……よし」

 

 急に宮永照が立ち上がって、小瀬川白望に向かってそういった。小瀬川白望は何だと少し驚いていたが、宮永照はそんな小瀬川白望にこう提案した。

 

「とりあえず、どこかゆっくりできるところに行こう。公園とか、二人でゆっくりできる場所」

 

 いきなりの提案ではあったが、結局小瀬川白望がさっきまで考えていても何も思いついていなかったため、宮永照の提案を受け入れる。どこか落ち着いた場所でゆっくりするという、今までに小瀬川白望はそんな事はしたことなどなかったが、まあそれもたまにはアリかなと小瀬川白望は考える。いつものように小瀬川白望がどこかに行って誰かと麻雀をするのではなく、こうしたのんびりと過ごすのも新鮮味があって良いかもしれない。

 

(それに、照は小学校の頃の全国大会以来麻雀はやっていないからね……姉妹の仲も麻雀が原因らしいし、触れない方がいいかもね……)

 

 そして何よりも宮永照にとって麻雀は全国大会が最後と決めているのであろうということだ。宮永照曰く麻雀が原因らしいので、彼女が麻雀を辞めた以上無理にやるのは良くないだろう。今だけは武者修行という事を忘れて、純粋に宮永照と楽しい時間を過ごそうと考えた小瀬川白望であった。

 

「善は急げ、もう行こうか。ここの近くで何かあったりする?」

 

 小瀬川白望はそう言って立ち上がると、宮永照にそう聞く。宮永照は少しほど考えると、「近くに東京湾ならあるけど……公園とかあったかな……?」と答える。

 

「東京湾か……まあそれでも良いんじゃないかな。私は行ったことないし……」

 

「そうだね。別に公園とかがないと行けないわけじゃないし……どこか静かな場所であれば」

 

 そうして宮永照と小瀬川白望は代金を払って、ファミリーレストランを後にする。そして近くにあるという東京湾に二人は向かった。

 宮永照の言っていた通り、東京湾はファミリーレストランから近く、歩いて十数分の地点からもう既に東京湾の海が見えていた。

 

「すご……」

 

「自然だけの海も良いけど、こういった都会と自然が混ざった風景も結構良いものだよ」

 

 小瀬川白望は東京の都会感と、東京湾の自然感の両方を一望できたことにより少しほど感動する。まだ遠目からしか見ていないのにも関わらず、小瀬川白望の見たことのない風景に心を躍らせていた。

 

「ん……あの堤防のところに誰かいる?」

 

 そうして遠くから東京湾の風景を見ていた小瀬川白望は、東京湾にある堤防の上に誰か人がいるのを発見した。ただの普通の人であったなら気にするほどのことでもなかったのだが、問題はその人の横に置いてある釣具らしきものであった。こんな冬の時期に釣りをするなんて珍しい話だ。

 

「ほんとだ。……しかも、女の子?」

 

 宮永照もその釣具を持つ人の事を見ていると、次第にその人が女の子であるという事に気付いた。女の子で釣りをやっている人間なんてこれまた珍しく、小瀬川白望と宮永照の興味は東京湾から完全にその女の子の方に向けられていた。

 

「……どうする?照、話しかけてみる?」

 

 小瀬川白望が宮永照に向かってそう聞くと、宮永照も「うん。面白そうだしちょっと話しかけてみよう」と答え、二人はその少女の元へと向かって行った。

 

 

 

(……今日は冬にしては水温が高いから、思ったよりも釣れるな)

 

 そして釣りをしていた少女、名を亦野誠子という少女は自分で釣った魚を見ながら心の中でそう呟く。基本的に、冬での釣りは堤防などではなく船を利用するものだが、まだ中学生という事でそういうことは出来ず、今日のような特別水温の高い日でしかする事ができなかった。

 

 

「すみません……」

 

「わっ!?」

 

 そして突如現れた小瀬川白望と宮永照に亦野誠子は驚く。思わず持参してきた折りたたみ式のイスから転げ落ちそうになりかけたが、すんでのところで踏み止まった。

 

「な、なんでしょうか?」

 

 亦野誠子は驚きながらもやってきた小瀬川白望と宮永照にそう聞くが、宮永照は亦野誠子がもつ釣竿に引っかかっている魚を指差して「食べるの?それ」と言うと、亦野誠子は思い出したかのように「ああ、そうだった……」と言って魚を海へリリースした。

 

「……戻しちゃうんだ」

 

 そんな一部始終を見ていた小瀬川白望は亦野誠子に向かってそう言うと、「ええ、まあ……自分だけの趣味なんで、調理とかはできないんですよ……キャッチアンドリリースです」と答える。

 

「冬なのに釣れるものなの?」

 

「今日みたいに水温が高い日なら、冬でも割と釣れたりするんですよ。それを考慮しても今日はかなり釣れてますけどね……っと」

 

 亦野誠子はそう言って釣竿を振って東京湾へ投下する。小瀬川白望と宮永照はそんな光景を見ていると、亦野誠子にこう言われた。

 

「お二人は釣りとか興味あるんですか?」

 

「いや……ないけど、釣りをしているあなたに興味が湧いただけ……」

 

 宮永照がそう言うと、小瀬川白望も「同じく…」と答える。亦野誠子は「へえ……」と答え、再び魚が掛かった事に気づく。そこからの亦野誠子の魚を釣り上げる動作は全くもって淀みがなく、趣味でやっているにしてはかなり手慣れた動作であった。そうして例のごとく亦野誠子は釣り上げた魚を海へと戻す。

 

「……釣りは良いですよ」

 

「うん。あなたの目からそれは十分に伝わってきた」

 

 小瀬川白望がそう答えると、亦野誠子は「あれ、そんなに顔に出ていましたか?」と言うが、隣の宮永照は(顔に出てなくても白望さんなら余裕で分かるんだけどね……)と思いながら亦野誠子の事を見ていた。

 

 

「じゃあ、お二人の趣味とかって何かあるんですか?」

 

 亦野誠子が小瀬川白望と宮永照にそう聞くと、小瀬川白望は少し言い淀んだ。宮永照が隣にいる状況で麻雀と言ってしまっていいのだろうか。そう言った事を考えていたが、隣にいる宮永照は亦野誠子に向かってこう言った。

 

「……麻雀」

 

「麻雀ですか……なるほど」

 

 そう聞いた亦野誠子の目つきが変わる。その目を見ただけで小瀬川白望は麻雀を打った事のある人間だと看破したのは言うまでもないが、それよりも何よりも宮永照がああいった事に対して驚いていた。さっきまで小瀬川白望は宮永照は麻雀からはもう足を洗ったと思っていたものだから、驚いても仕方のない事だが。

 

「実は私も麻雀が二つ目の趣味なんですけど……ちょうどいいし、打ちましょうか?」

 

「いいよ」

 

「照……」

 

 承諾する宮永照に小瀬川白望はそう言った事を聞こうとするが、宮永照は小瀬川白望に向かって亦野誠子には聞こえないほどの声でこう言った。

 

「確かに、私は麻雀のせいで苦い思いをした」

 

「だけど……それだけじゃない。楽しい事も沢山あった。……苦しい思い出も、楽しい思い出も……捨てたくない。だから、今日は打つよ。白望さん」

 

 

 




まさかの亦野パイセン登場。
これは59400どころじゃ済まなそうですね……

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