宮守の神域   作:銀一色

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東京編です。
ちょっと原作と時間軸が違う箇所がありますが、そこは仕方ないということで……


第224話 東京編 ㉗ 方向音痴

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視点:神の視点

 

「コホッ、コホッ……」

 

 昼とも言えぬし、かといって朝とも言えぬ微妙な時間帯で小瀬川白望は咳をしながら東京の街を歩いていた。やはりいくら熱が下がったからとはいえ、咳や鼻水の症状が全て治ってはいなかった。

 

(まあ……あのダルさと頭痛が無くなっただけまだマシかな……)

 

 しかし、体調は昨日と比べて格段に良くなったと言えるであろう。あの状態で続けていればいつ倒れてもおかしくなかった。そう言った意味では、好調と言えるのではないか。

 今度小瀬川白望が会う人物は、2年前に決勝戦で死闘を繰り広げた宮永照であった。彼女と会うのももう2年前が最後で、それ以降はメールや電話などでしか関わりがなかったのだ。しかも、同じ東京にいる辻垣内智葉と比べてメールや電話の頻度は少なく、基本的に小瀬川白望から声をかけて連絡を取り合うので、宮永照から声がかかってくるのはほぼ無いと言っても過言ではなかった。小瀬川白望はきっと携帯慣れしていないんだろうなと推測しているが、それは半分当たっていて半分外れている。どういうことかと簡単に言えば宮永照が小瀬川白望に好意を向けているが故に、宮永照がどう話しかけていいのか分からないという悩みが本物の原因であったりする。

 そんな宮永照の言ってしまえばヘタレと小瀬川白望の鈍感さが重なり合い、連絡を取り合うのも少なかったので小瀬川白望はやけに宮永照と会うのを楽しみにしていた。

 

(っていうか、照はちゃんと待ち合わせ場所に来れるかな……)

 

 そんな事を考えながら小瀬川白望が待ち合わせ場所にまで向かっていると、ここで小瀬川白望は宮永照が重度の方向音痴であったことを思い出した。彼女と最初に東京で会った時は分からなかったが、その後からだんだんと重度の方向音痴であると分かりはじめていた。その方向音痴っぷりは絶大であり、辻垣内智葉の家でなどもはや遭難と言えるレベルで迷っていた。もう少し具体的に言えば、宮永照がトイレに行ったと思ったら20分以上経っても帰って来ず、挙げ句の果てに辻垣内智葉が黒服を動員してやっと見つけるというほどである。確かに辻垣内智葉の家は広く、小瀬川白望も迷わないとは言い切れないが、彼女にとっては辻垣内智葉の家は家ではなく、もはやラビリンスでしかなかった。

 そんな彼女と待ち合わせしているのだが、その地点に彼女が迷いなく到着するとは考えにくい。到着してから捜索をしても見つかりそうにも無いので、小瀬川白望は予め宮永照に電話をして、今どこにいるのかを聞き出す。そして宮永照には動かないように指示して、小瀬川白望がそこへ向かう。そんな作戦を実行しようと携帯を取り出そうとした。するとその瞬間、「白望さん?」という声が聞こえてきた。

 小瀬川白望は驚いて後ろを振り返ると、そこには宮永照が少し怯えながら立っていた。小瀬川白望は呆気にとられながらも、「照……?」と宮永照に問いかける。

 

「ど、どうしてここに来れたの?」

 

 そして小瀬川白望は当然の疑問を宮永照にぶつける。あの宮永照が、まさかちゃんと来れるなんて。まだ集合場所ですらないこの場で会えたのは奇跡に近い。きっと明日は槍が降ってくるだろう。そんな感じで宮永照に聞くと、宮永照は少し悲しい表情を浮かべながら「待ち合わせ場所に行こうとしたら……途中で迷って……ずっと彷徨ってたら運良く会えたから……」と言い、それと同時に小瀬川白望に抱きつく。小瀬川白望はそんな宮永照を見ながら(そりゃあいくら方向音痴で迷い慣れてはいるはずだけど……怖いよなあ)と思いながら、抱きつく宮永照の頭をポンポンと触る。そうして宮永照が小瀬川白望の身体から離れると、小瀬川白望はとりあえず、と言い、ファミリーレストランを指差して宮永照にこう言った。

 

「お店で何か食べながらでも話そっか?」

 

「うん……分かった」

 

 そうして小瀬川白望は宮永照がどこか別の方向に向かって居なくならないように腕を掴んで、ファミリーレストランの店内へと入っていった。

 

 

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(そういえば……最初に会ったのも店内だったっけ)

 

 そして宮永照がパフェを食べている光景に既視感を覚えながらも、2年前のことを思い出す。宮永照と出会ったのはこの店ではないにしろ、こういうファミリーレストランの店内での事であった。その時も彼女は何やらパフェを頬張っていたような気がする。

 

「懐かしいね……」

 

 小瀬川白望がパフェを食べ進める宮永照に向かってそう言うと、宮永照も微笑んで「うん……そうだね」と言ってパフェを再び食べ進める。

 

「そういえばさ」

 

「……何?白望さん」

 

「あれから結局どうなったの」

 

 小瀬川白望がそう聞いた瞬間、宮永照が持つスプーンの動きが止まる。宮永照は少しほどスプーンを震わせながら「……妹のこと?」と聞くと、小瀬川白望は黙ったまま頷いた。

 

「……あれから、一回だけ私の妹が来たことがある」

 

「へえ……どうだったの」

 

 そう言うと、宮永照は肩を震わせながら「怖かった……咲が私の事を嫌いになってるんじゃないかって思うと……怖くて……何も話せなかった……」と俯きながら言う。

 

「……嫌いになってるわけじゃないと思うよ」

 

「でも……私は……」

 

「そもそも、本当に嫌いになってたら照の所に来ないと思う。私だったら絶対行かない……むしろ」

 

「妹さんはむしろ逆、照と仲直りしたいって思ってるはずだよ。これは2年前にも言ったかもしれないけど、両方に非があるわけなんだし……」

 

「そう、だけど……」

 

 小瀬川白望はそう言う宮永照を見て、(これは仲直りまではもっと時間が必要になるなあ……時間を置いた方がいいんだろうけど、そうしたら何もしないような気がするし……まあ、そこは照次第かな)と考え、「まあ、この話は止めにしよっか」と言うと、宮永照は「うん……ありがとう」と言って、残りのパフェを食べ進めた。




前書きに書いた通り、咲が照の所に訪問する時期が違います。
まあそこは見逃して下さい……

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