宮守の神域   作:銀一色

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東京編です。


第222話 東京編 ㉕ お粥

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視点:神の視点

 

 

「……なにしてんの」

 

「え、いや……あのですね」

 

 上半身が半裸状態となっている小瀬川白望が、自身の拳を掴む戒能良子に向かって問いかける。寝る前までは椅子に座っていたはずの戒能良子が、起きてみたら何故か自分の事を押し倒して、何故か服を脱がせられている。完全に何か変なことをされかけていたとしか思えなかった。

 何をしているのかと問い詰める小瀬川白望に対して、問い詰められる側の戒能良子はおどおどしながら小瀬川白望の拳を掴んでいた。ありのままの事実を言ったところで、結局は小瀬川白望の服を脱がせようとしたというのは事故ではなく、事実でしかない。しかし、ここで黙りこくっているのもあらぬ誤解を受けてしまう可能性もある。完全に追い詰められた状況となった戒能良子ではあったが、とうとう観念したのか、小瀬川白望にさっきまでやっていたことを明かす。

 

「……成る程ね。その気遣いは嬉しいけど……なんていうかなあ。そこまでする必要はないと思う……」

 

「その点に関してはソーリーです。すみませんでした」

 

 そう言って戒能良子は頭を下げる。素直に謝られて少し戸惑った小瀬川白望は「うん、まあ……許すけど」と言い、それに続けて戒能良子に「とりあえず腕、離してよ」と頼む。そう言われた戒能良子はハッとして掴みっぱなしであった小瀬川白望の腕を離す。

 

「じゃあ汗とか拭くし、着替えたいから出てって……」

 

「お、オーケーです」

 

「あ、あと……多分着替えたらそのまま寝るから……」

 

「......I see」

 

 

 そうして戒能良子はスッと部屋から出て行く。小瀬川白望はそれを確認してから途中まで脱がせられていた服を脱ぎ去り、汗で濡れている背中を拭く。そうして別の服を着ると、再び床についた。今何時なのかは小瀬川白望には分からなかったが、病人にできることは寝ることしかない。窓から見える空はまだ青く、夕方でもなさそうなので寝ることにした。多分昼時は過ぎているのだろう。が、風邪のとき特有にものなのだろうが、不思議と食欲は湧かず、何かを食べようという気にはなれなかった。

 

(まあ何かしらは食べた方がいいんだろうけど……)

 

 しかし実際問題食欲が全くないので、無理に食べてしまえば嘔吐する可能性もある。消化器官も十分に作動しているかどうか分からないこの状況で、消化の良いもの以外は食べない方が賢明であろう。そう思って小瀬川白望は何も食べようとしなかった。

 これで三度寝となる睡眠ではあったが、さっきは戒能良子に半分起こされたようなものだったので、目を瞑れば直ぐに寝ることができた。

 

 

 

(……ハア。思えば私は結構フールな事をしてましたね……)

 

 そして戒能良子は小瀬川白望が寝ている寝室から少し離れたリビングにあるソファーに座ってテレビを見ていながら、さっきやっていた自らの行動に対して後悔していた。

 きっと今戒能良子に過去に戻れるなら何をしたいと聞けば、おそらく数分前の自分を止めたいと言うであろう。そんな感じがするほど、今の戒能良子は後悔の念を抱いていた。

 

(今は……多分スリーピングでしょうね)

 

 戒能良子は部屋に出るときに小瀬川白望が言っていたことを思い出し、とりあえず今自分が何もやることがないという事実に直面する。また看病という名の小瀬川白望の事を見守る行為はさっき痛い目を見たので、もう一回しようという気にはなれない。しかしそうなるとすると、困ったことに何もすることがなかったのだ。

 

(病気の時の代表的フード、お粥をメイキングするのも良いですが……今作ったところで冷めてしまいますね……それはノットグッド)

 

 結局、何もすることがない戒能良子はソファーに座ってただただテレビから映し出される映像を眺めるほかなかった。その様子はまるで滝に打たれている修行僧のように雑念などが取り払われていた。と言っても、ただただ無心であっただけなのだが。

 そして無心のままテレビから与えられる視覚的情報を得続け、一体どれくらい経ったのか分からないほどの時間が経過した。するとリビングと廊下を繋ぐドアが開かれる。戒能良子はドアの方を見ると、そこにはいかにもダルそうにしていて、足をふらつかせていた小瀬川白望がいた。戒能良子はそんな小瀬川白望を支えるようにして、自分が座っていたソファーに座らせる。

 

「大丈夫ですか?あまり無理せず、スリープしてても良いんですよ?」

 

「いや……さっきまで散々寝たから。それに……」

 

「それに?」

 

「一人でいるより……二人でいた方が気持ちがダルくないから」

 

 不意にそんなことを言われた戒能良子は顔を赤くして、「そ、そうですか……」と言って顔を隠すように俯く。そして小瀬川白望がソファーに体重をかけると、ふと小瀬川白望の腹部から音が鳴った。本人は食欲はあまりないと言っていたが、どうやら胃は食べ物を欲していたようだ。その音を聞いた戒能良子は「ふふふ……お粥をメイキングしてきますね」と言い、キッチンに向かった。

 

(しっかし……お粥かあ。最後に食べたのはいつだっけ……)

 

 小瀬川白望はキッチンでお粥を作る戒能良子の後ろ姿をソファーから眺めながらそんな事を考える。

 

(ああ……そういえば姫子と手錠で繋がれた時に哩に食べさせて貰ったんだっけ)

 

 確かに佐賀で小瀬川白望は白水哩の作ったお粥を食べていたが、それは別に病気というわけではなく、事故によるものであった。であるから、実際病気になったときにお粥を食べたことなどそれこそ記憶からなくなるほど前の話だということであろう。そんな事を戒能良子がお粥を作り終えるまで考えていた。やはり風邪の影響なのかどうかはわからないが、思考力が低下しているように思える。脳が働いていないのか分からないが、小瀬川白望は(こんな時に麻雀打ったらどうなるんだろ……)と、一応はそういう事を考えるほどの思考力はあったため、まだ大丈夫なほうなのであろう。

 

「お待たせしました。お粥です」

 

 そして戒能良子がお粥をテーブルの上に置き、小瀬川白望に向かって言うと、小瀬川白望はのそっと立ち上がって椅子まで向かう。そうして座り、お粥を食べようとスプーンを持つが、そこで戒能良子のストップがかかる。

 

「ど、どうせなら……私が食べさせてあげますよ」

 

「……嬉しいけど、戒能さんの負担にならない?」

 

「ドントウォーリーです。むしろどんと来い、ウェルカムですよ」

 

 そう言って小瀬川白望は戒能良子にスプーンを渡して、戒能良子はそのスプーンでお粥を掬い、ふーっと息をかけ、小瀬川白望の口元へと運ぶ。小瀬川白望は戒能良子の息によって適温となったお粥を口に入れる。戒能良子はドキドキしながら「……どうでしたか?」と聞くと、小瀬川白望は「うん……おいしい」と答える。

 それを聞いた戒能良子は幸せそうな表情をして、小瀬川白望にどんどんお粥を食べさせる。小瀬川白望自身も、食欲がないはずなのにここまで食べれていることに対して少し驚いていた。

 

「……ご馳走様」

 

「お粗末様です」

 

 そうして小瀬川白望が全部食べ終えると、戒能良子は食器とスプーンを直ぐに洗い始める。迅速な行動で小瀬川白望は感心しながらも、戒能良子に「あまり起きているのも身体にバッドです。白望さんはスリープして下さいね」と告げられ、寝室へ戻って再び寝ることにした。

 そうして小瀬川白望がいなくなり、戒能良子だけとなったリビングでは小さく拳でガッツポーズを取る戒能良子がいた。

 

 

 

 




次回で戒能プロ編は終わる(予定)です。

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