宮守の神域   作:銀一色

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東京編です。



第217話 東京編 ⑳ 豊満

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視点:神の視点

 

 

 

「……大丈夫?ネリー、智葉」

 

 小瀬川白望は自分の事をまじまじと見ながら悶絶しているネリー・ヴィルサラーゼと辻垣内智葉に向かってそんな一言を投げかける。それに対して二人は顔を赤らめながら「いや……なんでも、ない」と言って顔を隠す。小瀬川白望はあっけらかんとした表情で二人の事を見ていたが、「ふーん……それならいいけど」と言い、再びシャワーを流し始めた。

 そして一難去った辻垣内智葉とネリー・ヴィルサラーゼは胸を撫で下ろし、それぞれ身体を洗い始める事にした。しかしその位置どりもまた欲望に忠実であるということをよく表していて、小瀬川白望を挟む形の位置どりであった。そして頭を洗っている最中、ネリー・ヴィルサラーゼは隣にいる小瀬川白望の事を横目で見ながら、こんな事を思っていた。

 

(……麻雀を打っている時とはまるで別人だね。ネリーはそこが白望の一番不思議なところだよ……)

 

 麻雀を打っている時……というより、正確には麻雀や賭博の話をしている時の小瀬川白望は狂気で溢れている。自分の事を助けてくれる優しい人のはずなのに、彼女からは恐怖しか感じなかった。だが、今の小瀬川白望にはそんな狂気などというものは一切合切感じられない。言い方は悪くなるが、ダルがりの天然ジゴロである。

 まるで、何者かに取り憑かれていたかのように。……いや、それは少し語弊がある。むしろ麻雀、賭博の時の小瀬川白望こそ、真の小瀬川白望なのかもしれない。だから取り憑かれているという表現は不適切だ。

 

(……これが俗に言う"ギャップ"ってやつなのかな?ネリーにはよく分からないけど……)

 

 ネリー・ヴィルサラーゼ自身、こういう女性に対して特別な感情を抱いたことなど無いため少々戸惑っていた。無論、隣で自分に対してドキドキしている事など小瀬川白望は知る由もなく、黙々と身体を洗い続けている。

 

(……一体何を食べたら、あんな風になるんだろうか?)

 

 そしてネリー・ヴィルサラーゼとは反対側にいる辻垣内智葉は、二年前よりも大きくなった小瀬川白望の胸を当人にバレ無いようにしてジロジロと見ながら、そんな事を疑問に思っていた。自分がそうでもないだけあって、小瀬川白望のような豊満な身体は一種の憧れでもあった。きっと小瀬川白望にその事を言えば「肩が凝るから……無い方が良いよ」と如何にも彼女らしい事を言うのであろうが。

 

「……ん、待っててくれたのか?」

 

 そして辻垣内智葉とネリー・ヴィルサラーゼが頭と身体を洗い終えたと同時に、先に洗っていたはずの小瀬川白望がようやく洗い終える。辻垣内智葉はてっきり自分達が小瀬川白望に気を遣わせて待たせてしまったのかといった風に小瀬川白望に聞いたが、「いや……なんか身体中がダルくてボーッとしてただけ……」と返す。どうやら気を遣っていたとかそういうことではなかったようだ。

 

「そうか……じゃあ、手。貸してやる」

 

 そう言って辻垣内智葉は小瀬川白望に手を差し伸べる。小瀬川白望は「ありがと……」と言って辻垣内智葉の手を握る。辻垣内智葉が自分で差し伸べたはずなのだが、やはり手を握るという事は辻垣内智葉にとっては緊張以外の何事でもなかった。辻垣内智葉は深呼吸をすると、一気に小瀬川白望を引っ張り上げる。

 

「……ありがとう。智葉」

 

 引っ張り上げられた小瀬川白望は改めて辻垣内智葉に向かってそう言い、辻垣内智葉は顔を赤くしているのを隠すようにして、「さ、行くぞ」と言って先にメガン・ダヴァンが入っている浴槽へと向かう。しかし、さっき握っていた手はしっかりと握ったままで、話そうとはしなかった。

 

(むー……)

 

 そんな二人を見ていたネリー・ヴィルサラーゼは頬を膨らませていた。そして我慢の限界だと言わんばかりに、辻垣内智葉が握っている手とは反対の方の腕にしがみついた。今小瀬川白望達がいるところからメガン・ダヴァンのいる浴槽まで距離は殆どない筈なのに、わざわざ三人は繋がれたまま浴槽へと歩いていく。

 

 

(オー……あれが"両手に花"ってやつですか……)

 

 そして先に風呂に浸かっていたメガン・ダヴァンは、前方からやってくる小瀬川白望達の事を見て呆れながらそう思う。辻垣内智葉も、ネリー・ヴィルサラーゼも、自分からやり始めたことなのに自分で恥ずかしがっていて、端から見ればとても面白い光景であった。

 

(っていうか。完全にオウジサマですね……これがテンネンの恐ろしさ……!)

 

 両端に辻垣内智葉、ネリー・ヴィルサラーゼがいる状態の小瀬川白望を見ながら、メガン・ダヴァンはそんな事を思っていた。するとメガン・ダヴァンは辻垣内智葉と目が合った。どうやらあの幸せそうな状況でもさっきの誤解の嫉妬心は忘れていなかったようで、此方を見ては睨み付けて、怖い表情になったと思ったら直ぐに小瀬川白望の事を見て顔を赤くしていた。一体恥ずかしいのか怒っているのか、果たしてどっちなんだと問いかけたくなるが、それを聞いたらまたややこしくなるであろう事を予見して、メガン・ダヴァンは口を抑える。

 

(フウ……あの二人を見て恥ずかしがってるのを楽しむのも飽きて来ましたシ、そろそろ上がりましょうカネ……)

 

 二人が恥ずかしがっている姿を見て楽しむという中々Sな楽しみ方をして満喫しきったメガン・ダヴァンは立ち上がって、多少危険ではあったが辻垣内智葉の傍から上がろうと足を踏み出した。が、

 

(アッ……!?)

 

 その瞬間、足を挫いてメガン・ダヴァンの身体がヨロケた。本来辻垣内智葉の傍……左側を通ろうとしたのに、メガン・ダヴァンは誤ってその進路を右へ……小瀬川白望へと向かってしまった。

 

(……マズイ!?)

 

 今更進路方向を変えることも不可能なため、メガン・ダヴァンはせめて衝突だけは避けなければと腕を小瀬川白望の首の傍を通す。しかし、それだけでは腕が当たる心配が無くなっただけだ。小瀬川白望の事を押し倒すような状態になりつつある。そこでメガン・ダヴァンは小瀬川白望が頭を撃たないようにと、彼女の首の横から出した腕を交差させ、小瀬川白望の頭を覆うようにした。結局、小瀬川白望は頭を撃つ事なくただ押し倒しただけとなったのだが、それを横で見ていた辻垣内智とネリー・ヴィルサラーゼはそれどころではなかった。

 

「イツツ……大丈夫でしたカ?シロサン」

 

「……大丈夫だよ。そっちこそ大丈夫?」

 

 小瀬川白望がそう言ったことにより一安心して「大丈夫デス」と返答するが、メガン・ダヴァンは横から発せられる殺気を感じ取った。

 

(……オット)

 

 身の危険を悟ったメガン・ダヴァンは、直ぐに小瀬川白望の身体から離れ、辻垣内智葉の横を通って風呂から脱出。そして駆けていくように浴室からいなくなっていった。そうしてようやく一息つける状況にありつけたメガン・ダヴァンは、心の中でこんな事を呟いていた。

 

 

(アブなかったです……真っ二つにされるところでしタヨ。それに、一瞬オトサレかけました……怖いデスね)

 

 

 

 

 

 

「じゃあ、私達もそろそろ上がろうか」

 

「そうだな……シロ」

 

「ネリーも上がる!」

 

 

 そしてその十数分後、小瀬川白望の知らないところでメガン・ダヴァンは辻垣内智葉とネリー・ヴィルサラーゼから色んなことを問い詰められたりしたが、ここでは割愛させてもらう。

 

 

 




次回も東京編。
そろそろ戒能プロのターン

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