宮守の神域   作:銀一色

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東京編です。


第215話 東京編 ⑱ 分が悪い

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視点:小瀬川白望

 

 

「お待たせしました……お嬢」

 

 私が戻ってきてからどこか機嫌が悪そうにしていた智葉の元へ、黒服がやってくる。その言い振りからして、どうやら迎えの車が到着してきたのだろう。そしてこの黒服はその迎えの車を運転していた……のかな。流石に智葉のように見ただけで識別することはできないが、だいたい状況と場合から推測することはできる。

 

「あ、ああ……分かった」

 

 さっきまで若干自分の世界に入り込んでいた智葉は我に返って黒服にそう答える。そして冷静を取り戻したのか私に向かって「……行こうか」と言った。私はそんな智葉に「……うん」と答えて、智葉の後を付いて行った。

 

 

 

 

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視点:神の視点

 

 

(……何なのでしょうか。この感じは……)

 

 

 小瀬川白望が部屋から出て行った後、戒能良子は部屋の中で不思議そうに自分の携帯電話を見つめながら、ふと自分の今の感情に対して疑問を覚えていた。

 

 

(さっきまで……対局していた時は、ただただ恐ろしいものとしか見ていなかったはずなのですが……)

 

 そのはずなのだが、何故だろうか戒能良子は小瀬川白望を目の当たりにした途端、何か変な感情を抱いていた。今まで感じた事のない不思議な感情、それに戒能良子は疑問を抱いていたのだ。

 

(……ミステリーな人ですね)

 

 小瀬川白望のあの感じを見ていた以上、戒能良子も小瀬川白望がふっかけてきた約束事はもう覚えていないと気づいていた。というかそもそも、あの約束事自体小瀬川白望は本気でやるつもりがない。それに気付いていた、そのはずであった。

 しかし、戒能良子はどういうわけかそれを口実にしてでも小瀬川白望と話したい、会いたいと思ったのだ。それが俗に言う恋という感情であることに、戒能良子は気づいていなかった。

 

(……ふふっ、罰ゲームがこんなに待ち遠しいと思ったのは初めてです)

 

 

「……一人でニヤニヤしおって、何か嬉しい事でもあったのかのう?」

 

 そんな戒能良子を見た組長は若干茶化すようにしてそう言った。

戒能良子は気づいていなかったが、ちょっと前から組長は既に部屋の襖を開けて戒能良子の事を見ていたのだ。

 そんな組長の言葉を聞いた戒能良子は顔を赤くして「な、なんでもないです……ノープロブレムです」と言う。

 

「そうか……まあ、そういう事にしておいてやろう」

 

「ああ、それと……すみません。負けてしまって……」

 

 戒能良子は頭を下げてそう謝罪するが、組長は「ハハハ!構わんよ……流石にアレが相手じゃあ、いくらお前さんでも分が悪い」と戒能良子に向かって言う。

 

「……何かあの娘について知っているんですか」

 

 それを聞いた戒能良子は、組長に向かってそんな事を聞いた。それは小瀬川白望の事を意識していたからではなく、ただ純粋に雀士として、あの強さについて知りたかったからであった。……無論、あくまでそれが大部分であるだけで、そんな気持ちが微塵もないと言われればノーなのであるが。

 

「いや……確証は無いんだがな。ワシが未だ若造だったころ、当時最強だった雀士がいてな……どことなく、ソイツに似てるんだ」

 

 

「……当時最強って言うと、今でいう小鍛冶プロ位でしょうか」

 

 

「それ以上だ。確かに小鍛冶は麻雀が生み出した化物だが、ソイツは化物なんてものじゃない。……そうだな、一言で表すならば狂人。それも、生まれつき……根っからの狂人なんだ。ワシやお前さんのような人間じゃあ到底理解することなどできない程の、な」

 

 それを聞いた戒能良子は驚愕する。戒能良子が思いつく最強の雀士といえば小鍛冶健夜くらいしか思いつかなかった。それほど戒能良子にとって小鍛冶健夜は強大な存在であり、多くの人間が憧れを抱く対象であった。なのにそれを真っ向から否定され、挙句それ以上と言われたのだ。戒能良子の驚愕も分からないものではない。

 

「……その人が、あの娘に似ている……と?」

 

「ああ。一瞬ソイツの孫かとも思ったが……"家族はいなかった"と明言するあたり、それは無いだろうがな……そもそも、家庭を持つような人間でも無いしな……」

 

「まあ、そうでなくともあの小娘の実力は本物だ。少なくとも、その例の奴以来の希少な人材である事には間違いない」

 

「なるほど……」

 

 それを聞いた戒能良子は、どこか納得したような表情でそう呟く。そして心の中で小瀬川白望に向かってこう言った。

 

(ますます、ミステリーになりましたよ……明日が楽しみです)

 

 

 

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視点:小瀬川白望

 

 

「ふう……疲れた」

 

 私は欠伸をしながら車から降りる。まだそんなに夜中ではないにしろ、色々あった私の体は疲れきっていた。流石にあそこまで車移動が多いとなると、車内で乗るだけでも体は疲れてくるものである。

 今日は智葉のところに泊まると決めてあるから今日はもう車移動というのは無い。メグとネリーもそうするらしく、三人で智葉の家に泊まらせてもらう事となっていた。

 

「……シッ、シロ?」

 

「ん……」

 

 そうして本日二度目の智葉の家にやってきて、荷物が置いてある部屋で私が明日の支度をしていると、智葉が後ろから声をかけてきた。私は振り返って智葉の方を見ると、智葉は顔を赤くしながら私に向かってこう尋ねてきた。

 

「……風呂は、ど……どうする?一人の方がいいか?」

 

「うーん……別に何人でもいいけど。……っていうか、それならもう入る?智葉」

 

「えっ!?ああ……いや、うん。分かった……」

 

 智葉はそう言って廊下を猛ダッシュで駆けて行った。私はそんな智葉を見送りつつ、メグとネリーがいる寝室へ行き、一緒にお風呂に入ろうと誘いに行った。

 

「イイですよ。これが俗に言う"ハダカのツキアイ"というものですネ!行きましょう、ネリー!」

 

「ええ……いや、でも……」

 

 随分とノリ気のメグはまあいいとして、ネリーは何かを言いよどんでいた感じであった。もしかして宗教的なあれなのか、はたまた純粋に体を見せるのが怖いのか。そりゃあさっきのさっきまで多額の借金に追われていたのだ。警戒心は消えることは無いだろう。

 

「……まあ、宗教とかそういう問題だったら、別に無理はしなくてもいいよ。ネリー」

 

「エッ」

 

「……何、どうかしたのメグ」

 

 私がそう言い返すと、メグは「イエ……なんでもないデスよ」と言い、またもはぐらかされてしまった。そんなやり取りをしていると、ネリーは私に向かって「ネリーはそんな問題はないよ。だけど……」

と言って顔を赤くして黙りこくってしまった。私がそんなネリーを見て困っていると、メグが小さな声で呆れたようにしてこう言った。

 

「シロサン……乙女心というのを分かってあげて下さいよ……」

 

 私はどういう意味かメグに問おうとしたが、メグは私が聞き返す前に私とネリーの体を掴んで智葉のいるところまで走っていき、結局聞く事はできなかった。

 

 




次回も東京編。
ああああ月曜日がやってくる

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