宮守の神域   作:銀一色

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第210話 東京編 ⑬ 自信

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視点:神の視点

 

東二局 親:黒服2 ドラ{西}

 

小瀬川白望 31000

黒服1   24000

戒能良子  21000

黒服2   24000

 

 

 東一局一本場では小瀬川白望が戒能良子の癖を利用して7700と一本場を加えた300、合計8000を直撃させ、戒能良子の親を蹴ると同時に順位を逆転させる。

 逆転、とはいってもまだまだ序盤の東二局で尚且つ点差は10000点と、勝負が決したという事はできない状況であった。直撃を決められた戒能良子無論そのつもりで、一層闘争心を燃やしている。

 

(……やはり、最初に感じたようにミステリアスなガールですね)

 

 そしてそんな戒能良子は小瀬川白望の事を見ながらそんな事を思う。戒能良子が小瀬川白望と初めて相対した瞬間から感じてきた妙な感覚。これが戒能良子にとっては初めてのものであった。確かに何かを感じているはずなのに、戒能良子の目……イタコの戒能良子の目でさえも何も見えない。それが不気味であり、恐ろしかった。

 

(何というか……何も見えないですね。ここまで見えないとミステリアスを通り越して不気味です……)

 

(それだけでも不気味なのに……それ以上に恐ろしいのはあの不可解な打ちまわし。人によってどっちが恐ろしいかは分かりませんが……全てを見透かされているようなあの打ちまわしの方が私にとっては恐ろしい……全く、厄介極まりないエネミーですね)

 

 そう、戒能良子はこの時点で気付いているのだ。小瀬川白望の恐ろしさは、得体の知れない何かよりも、彼女の深層心理でさえも操ってくるほどの心理掌握術であると。気づいてはいるのだ。しかし……

 

 

「ポン」

 

小瀬川白望:手牌

{裏裏裏裏裏裏裏裏裏裏裏} {八横八八}

 

小瀬川白望

打{1}

 

 

(……仕掛けてきましたか。そしてそこで一索を切ってきたという事は……)

 

 

 戒能良子の読み通り小瀬川白望は次巡、狙っていると言わんばかりに手牌から{6}を切り出す。本来なら{1}の近くで警戒しているはずの{3}を、無警戒状態にさせるはずの{6}切り。しかし、ここは切れない。小瀬川白望が戒能良子の二重の癖を利用していると仮定すれば、小瀬川白望が待っているのは{3}となる。さすがに癖といえども、ここで切るほど木偶の坊ではない。無論、ここは戒能良子は攻めには行かずに萬子で打ち回す。

 

 

(あとは彼女がツモってこない事を祈るしかないですね……)

 

 戒能良子は、この時点ではそう考えていた。少なくとも自分が振り込んでこの東二局が終了するという未来は無い。そう確信していた。しかし十三巡目にその確信はあっさりと覆される。戒能良子が切った{④}を見て小瀬川白望は牌を倒す。戒能良子は小瀬川白望の和了形を見てやっと自分が振り込んだという事実に気づいた。

 もはや、自分の目で確かめでもしない限り信じられない……そんな領域の確信であった。しかし、たとえどれほどの理屈を揃えて確信していたとしても、現実に勝る虚像はないのだ。

 

 

 

「……ロンッ」

 

 

小瀬川白望:和了形

{二三四③赤⑤23466} {八横八八}

 

 

 

「断么九、ドラ1……2600」

 

 

 

 2600。これは大きい点数とは言えるものでは無い。しかし、戒能良子は避けた。そう確信していた状態で討ち取ったこの和了は、点数以上に戒能良子の精神を削って行った。

 

(何故……?癖を利用していたんじゃ……)

 

 困惑しながら小瀬川白望の和了形を見つめる戒能良子に、小瀬川白望は小さく笑ってから戒能良子にこう言った。

 

「獲物を狩るとき……獲物が狩られないように右、左と逃げ回ったとしても、それが助かる手立てにはならない。猟師はただその獲物に照準を合わせるだけ……」

 

 

「殺されたくない。そう思うならば猟師()から逃げるのでなく、闘わなければいけない……獲物(あなた)のままじゃ猟師()に狩られるだけ……」

 

 

 

 そう言って小瀬川白望は自身の和了形と山を崩して、牌をかき混ぜる。全自動卓が普及しているこの時代には随分と手慣れた山積みを披露しながら、未だ呆然とする戒能良子に追撃するようにこう言い放つ。

 

 

「……私の親番くらいは、ダルくさせないでよ。私も狩りだけじゃちょっとダルくなってくるからね」

 

 

(……まあ、今の感じじゃ南場まではこんな感じなんだろうけど)

 

 

 

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東三局 親:小瀬川白望 ドラ{⑤}

 

小瀬川白望 33600

黒服1   24000

戒能良子  18400

黒服2   24000

 

 

 

 小瀬川白望が親の東三局。小瀬川白望が予見していた通り、戒能良子は自身を完全に失いかけている。あれほどの小瀬川白望の挑発で逆上さえできないほど、心がまいってしまっている。

 しかし、戒能良子という人間の過去から考えてしまえばそれも仕方ないかもしれない。戒能良子は高校一年生でありながらも、今年のインターハイで暴れまわり、プロ入りも確実視されている超期待のスーパールーキーであった。そんな勝ち続けてきた人間、勝つ側であった人間が、突如自分よりも数段格上……というか次元違いの力量差、しかもそれが自分よりも歳下である雀士が目の前に現れたのだ。戒能良子が失墜してしまうのも無理はない。

 一度バランスを崩せば、才気優れるものほど脆い。かつて赤木しげるの前に最初に立ちはだかった矢木圭次が言っていた通りである。その言葉通り、戒能良子には今闘争心というものが欠けている。

 

 

「リーチ」

 

 

小瀬川白望

打{横⑧}

 

 

 

(……ッ!!)

 

 

 戒能良子は顔を顰めるが、今回は小瀬川白望の捨て牌を見れば普通に待ちに気付ける。そんな分かりやすい捨て牌であった。見る限りでもタンピン三色の気配で、待ちはちょうど{⑧}の裏筋の{④⑦}待ちといったところか。しかし、戒能良子は意外にもこの捨て牌に手が止まってしまっている。

 

 

(……これは、どっちを切ればグッドなのか)

 

 気づいてはいる。気付いてはいるのだ。{④⑦}が危ないなど、百も承知なのだ。しかし、それでも尚、それでも尚分からない。自分が信じきれなくなっているのと、小瀬川白望ならあり得るだろうという謎の読みが、戒能良子の判断力を失っていく。

 

 

戒能良子

打{中}

 

 結局、戒能良子は暗刻で持っていた{中}を切ってしまう。戒能良子からしてみれば逃げの一手だったのだろう。というか、誰がどう見てもこれは逃げの一手だ。

 しかし、小瀬川白望はそれを許さない。逃げようとする戒能良子を、小瀬川白望は逃さなかった。

 

 

「……ロン」




次回も東京編です。

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