宮守の神域   作:銀一色

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東京編です。
うわああああああGWが終わるううう


第209話 東京編 ⑫ 情報量

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視点:神の視点

 

東一局一本場 親:戒能良子 ドラ{七}

 

小瀬川白望 23000

黒服1   24000

戒能良子  29000

黒服2   24000

 

 

(……随分と簡単に和了らせてくれましたね。もっと手こずるかと思っていましたが)

 

 東一局、まずはダブ東のみの1000オールをツモ和了った戒能良子は、自身のスムーズな和了りに少し首を傾げる。もっと何か仕掛けてきているものかと思っていたのだが、意外にも小瀬川白望のリーチはただの聴牌即リーのようだ。

 

(……これならいつもの癖でわざわざ二筒を止めずに、さっさと和了った方がグッドでしたかね。まあリザルトは変わらないんですけどね)

 

 戒能良子は小瀬川白望がリーチ牌として切ってきた{③}の近くである{②}を警戒して止め、数巡待って小瀬川白望から筋である{⑤}が切られてから{②}を改めて切ったことによって一度失速したのだが、結果的にあそこは勝負にいってしまっても良かったのかもしれないと戒能良子は考える。まあ、それは結果論であるしそもそもどっちを選んでも結果は変わらなかっただろうが。

 

 

(一体何故あのリーチを……?)

 

 そして小瀬川白望の後ろにいるメガン・ダヴァンは今も尚小瀬川白望のさっきの聴牌即リーに対して疑問を感じていた。隣にいるネリーも、どうやら麻雀は辛うじて知っていたのか同じく疑問そうな表情を浮かべていた。

 

(……どこまで戒能良子の事を知れたのかは分からないが、果たしてあれでどれほど収穫があったのか……)

 

 しかし、小瀬川白望という雀士がどういう雀士か肌で感じたことのある辻垣内智葉だけは、さっきの行動の意味を推測する。それは言わずもがな小瀬川白望が戒能良子の事を「調べる」行為であり、完全に小瀬川白望は戒能良子という雀士……いや、戒能良子という人間を調べている。

 

(和了ったのは早計だったかもね。5000ぽっちの差を得るために払う情報の量ではない……)

 

 そして実際小瀬川白望も、戒能良子という人間の思考をおおよそ掴みかけていた。ここで戒能良子が和了ってきてくれたのは大きい。戒能良子がどのような思考で打ってきたかが鮮明に分かるからだ。それに、小瀬川白望は戒能良子の捨て牌の全てを手出しか、ツモ切りかを覚えていて、牌の配置も全て覚えている。つまり、殆ど牌譜を見ているに等しいものであった。辻垣内智葉は牌譜を見ても全容は分からなかったと言っていたが、それはそこから辻垣内智葉は特異的なもの……つまりオカルトのみを見つけようとしているからだ。戒能良子の思考回路を追うように解明していけば、オカルトまでは分からずとも戒能良子という人間が何なのかを知ることができる。

 そういった意味でも、小瀬川白望は5000のリードを得るために差し出す情報量ではないと言ったのだ。確かに大切な親番ではあるが、それを差し引いても小瀬川白望に渡した情報量は大きかった。

 おそらく、通常の人間が同じ量の情報量を渡されたとしても、それを100パーセント有効活用できる人間はいないだろう。だからこそ戒能良子は和了ったのかもしれない。しかし、小瀬川白望は別。僅かな心の揺れでさえも自身の情報として加えるのだ。そんな小瀬川白望にさっきのような行為は正しく自殺行為。無謀と言っても差し支えなかった。

 

 

(……役満必至とか、そういう強力なオカルトを使われるとそれはそれでダルいけど……見たい気持ちもあるし、半々かな……)

 

(まあ、そろそろ本気で行こうか……)

 

 

 そう心の中でつぶやき、東一局一本場の配牌を取っていく。そんな小瀬川白望を見た組長は、内心で小瀬川白望の事を評価していた。

 

(……確かに点棒を得たのは戒能のとこの孫だが、一枚上手なのはあの嬢さんだな)

 

 彼は前局、小瀬川白望の手牌と戒能良子の配牌を見比べていたのだが、彼は率直に小瀬川白望の方が一枚上手であると感じた。確かに、麻雀という観点からしてみれば戒能良子がリードしたのであろう。しかし、博打……勝負という観点からしてみればリードしたのは小瀬川白望であった。

 

(……どこでそんな打ち方を知ったのかは分からないが、この嬢さんは勝負において必要な"情報"の重みを理解している打ちまわしをしている)

 

 そう、勝負や博打で相手に勝つのに必要な土台は"情報"である。勝負の半分はこの情報量によって決まると言っても過言ではなかった。裏の世界でさえも、それを重視する人間は今となっては少ない。故にそんな小瀬川白望を組長はとても懐かしそうに見つめていた。

 

 

「チー」

 

小瀬川白望:手牌

{一三六七七②③④188} {横657}

 

打{一}

 

 

 そして六巡目、最初に小瀬川白望が仕掛ける。とはいっても、端から見ればただのチーだが、実はこのチーにはある仕掛けが施されていた。

 

(この一萬によって……警戒をさせることができる……)

 

 キーとなるのは小瀬川白望が切ったこの{一}。{二}が繋がる可能性があるのというのに、完全に孤立した{1}があるというのに小瀬川白望が切った{一}。しかしこれが戒能良子獲り、その幕開け。

 

(戒能さんは相手が何かアクションを起こしたりすると、その同巡に切った牌の近くの牌を異様に警戒する傾向にある……おそらく意図的でなく、体に染みついているパターン……)

 

 小瀬川白望の推測によると、小瀬川白望がリーチやら何やらすると、戒能良子はその同巡に切った牌の周辺の牌を警戒するらしかった。だから前局戒能良子は{③}切りリーチに対して{②}を止めたのだ。しかし、それでは数巡後の{②}打ちは説明がつかない。いくら筋の{⑤}が通ったとはいえ、安牌でもない……むしろこういう裏の世界の麻雀でその警戒を解くことはできるのだろうか。そう思われがちだが、戒能良子の癖はそれだけではない。

 

(……だけど、その警戒は同じ筋が切られた時に雲散霧消する。安牌と同等レベルで扱ってしまう……感じを見る限り、それも癖……体が覚えてしまっている……)

 

 そう考えると、あれだけ警戒していたはずの{②}を{⑤}が切られた途端処理したことにも説明がつく。至ってそれは癖と言っても合理的なものではあったが、小瀬川白望からしてみれば格好の的であった。

 

(どうやら鳴きでも同じように警戒してるようだね……さっきから全く一萬の近くが切られなくなった……)

 

(だけど……こんな感じに筋が切られると)

 

 

小瀬川白望

打{六}

 

 

 

戒能良子

打{三}

 

 

 

(あっさり警戒は緩む……)

 

 

小瀬川白望:和了形

{三七七七②③④888} {横657}

 

 

「ロン、7700の一本場は8000……」

 

 

「お、オオ!やりましたネ!シロサン!」

 

 小瀬川白望が手牌を倒すとほぼ同時に、後ろにいるメガン・ダヴァンが立ち上がってそう言う。振り込んだ戒能良子は心の中でこんな事を思った。

 

(……まさか、私の"癖"に気付いて……?もしそうだとしたら、癖には警戒しないとダメですね……)

 

 しかしそんな思考さえも読み取ったのか、小瀬川白望は心の中でこう呟く。

 

(癖を警戒するんだとしても、どっちにしろ私にとっては好都合……好きにしなよ……戒能さんが戒能さんのままである限り、戒能さんが私に勝つ事は不可能……)

 

 

(私に勝つなら、自分を捨てるくらいしなきゃ……自分という理に縛られてちゃ、縛られるものがない私には勝てない……)




次回も東京編です。
ピンチとはなんだったのか。

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