宮守の神域   作:銀一色

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東京編です。



第207話 東京編 ⑩ 挑発

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視点:神の視点

 

 

 

「シ、シロ!大変だ!」

 

 小瀬川白望が組長との交渉を成立させ、部屋から退室した矢先に辻垣内智葉が非常に焦ったような表情をして小瀬川白望に向かって言う。小瀬川白望はそんな辻垣内智葉を落ち着かせるように話す。

 

「どうしたの……智葉らしくもない」

 

「とりあえず、対局する部屋に来い!」

 

 小瀬川白望は辻垣内智葉に言われるがままに腕を掴まれ、連れて行かれる。その道中で「メグとネリーは?」と小瀬川白望は辻垣内智葉に聞くが、もはやそれどころではないといった感じではあったが、「先に部屋で待っている!」と答える。

 

 

「はあ……はあ……ここだ」

 

 そう言って辻垣内智葉が足を止めて、小瀬川白望を部屋の前まで連れてき終える。小瀬川白望はあの辻垣内智葉がこれほどまでに取り乱しているには何らかのわけがあるのだろうと推測し、少しばかり緊張感を感じながらも部屋の中へと入る。するとその部屋の中には、小瀬川白望と同じ……いや、少し年上の女性が立っていた。その女の人は制服を着ており、今から賭博麻雀をするというこの部屋では若干どころかかなりの場違い感があった。まあそれを言ったら小瀬川白望達も場違いなのではあるのだろうが。

 

「……代打ちってのはあんたなの」

 

 小瀬川白望はその女性に向かって声をかける。するとその女性は小瀬川白望の言葉に対して「イグザクトリーです……もしかしてガールが出てきてちょっとガッカリしちゃいましたか?」と返す。

 

「いや……別に」

 

 そう小瀬川白望は反応するが、背後にいた辻垣内智葉が小瀬川白望の事を呼ぶ。小瀬川白望が「何?」と返すと、辻垣内智葉は小瀬川白望の腕を掴み、戒能良子には聞こえないようにこう言った。

 

「知らないのか、あいつのこと……」

 

「うん……有名人?」

 

「今年のインターハイで大暴れして、高校一年生なのにも関わらずプロ入りがほぼ確実となってるスーパールーキー、戒能良子だ。……まさかアレを代打ちに立ててくるなんて……!」

 

「ふーん……」

 

 小瀬川白望はそれを聞いた後でも、あまり関心が無さそうに戒能良子の事を見る。そして目が合い、小瀬川白望は戒能良子に向かってこう言った。

 

「……さっき組長さんから聞いたけど、利益ゼロの代わりに責任もゼロなんだって?」

 

「イエスです。私もこういった裏のお仕事はする気なんてナッシングでしたけど、私のグラウンドファーザーがここの組にお世話になってたというので……そういった契約で私はここにきました」

 

 それを聞いた辻垣内智葉が「まあ……そりゃあそうだろうな。仮にそれで金なんて貰っていたら、プロ入りも確実視されていた人間が故にかなり大きな問題だ。当然の契約内容だろうが……」と言う。が、それを聞いたからなのかどうなのかは不明だが、小瀬川白望は少しほど不気味に笑った。

 

「……なるほど、二流だ」

 

「!!」

 

 

 小瀬川白望がそう言い放った瞬間、場の空気が凍りつく。言われた本人の戒能良子は勿論、辻垣内智葉や座って様子を見ていたメガン・ダヴァンやネリー、周りにいた黒服までも、変な緊張感を抱いた。

 

「……見た目に反して、結構失礼なガールですね」

 

「私は率直に感じたことを言ったまで……利益ゼロなのはどうとしても、責任も負わないというのじゃ話にもならない。正直な話……興が削がれた気分だよ。折角こうしたチャンスが巡ってきたと思ったのに……そんなリスクを背負ってすらいない人間と闘ったんじゃいつもと変わらない……むしろそれならいつもの方がマシかな」

 

「あんたは確かに雀士からしてみれば多分一流……それこそ今の表のプロの世界じゃトップクラスに並べるかもね。だけど……勝負師としてのあんたは今のところ二流以下……熱くもないただの凡夫」

 

「なら私にどうしろと?」

 

「簡単な話、あんたも背負えばいい。リスクを……でもそれは立場上、あんたは金を賭けたりする事はできない……」

 

 だから、と小瀬川白望は言い、続けざまに口を開いた。小瀬川白望から放たれる条件に一同が注目する。

 

「……もしあんたが負けたら、1日なんでも私の言うことを聞くこと。それでいい?」

 

「……?もう一回言ってくれませんか?リピートプリーズです」

 

 戒能良子は困惑しながら小瀬川白望にもう一度頼むように言うが、小瀬川白望はさっき言ったことを一字も変えずに繰り返した。周囲の人間は呆気にとられている。それはそうだ。戒能良子が負けたとしても、小瀬川白望の言うことを1日なんでも聞くという条件に対し、小瀬川白望が負けたら2000万の代償を払わなくてはならない。完全に釣り合ってなかった。

 戒能良子はその条件に何か裏があるかとも思ったが、考えるだけ無駄だと悟り、深呼吸して「オーケーです。こちとら色々言われて結構アングリーだったので……受けて立ちましょう」と小瀬川白望に向かっていった。それを聞いた小瀬川白望は「そうでなくちゃ……」と言って笑い、部屋の中央にある全自動でない麻雀卓を前にして胡座をかく。

 

(……正直、さっきの条件は何も意味はない。あれはただそういう"体"が欲しかっただけ。ただ、戒能さんを本気にさせたかっただけなんだけど……結構上手くいったなあ)

 

 結局のところ、さっきまでのは小瀬川白望の挑発に過ぎず、戒能良子はそれにまんまと乗っかってしまったわけだが、何はともあれこれで戒能良子を本気にさせることができた。まあ、流石にプロ入りが確実視されていたエリートが歳下にあんなことを言われればプライドというものが黙っていないだろう。

 ある意味、それは命を賭けた闘いではないものの、自分のプライドや誇りを賭けた勝負となった。結局、賭博も命を賭けてはいるものの、極論を言えば自分の誇り、プライドを賭けて削り合っていると言っても差し支えないため、本質的な意味では戒能良子も賭博として小瀬川白望と闘うこととなったと言っても過言ではなかった。

 

(さあ……始めようか)

 

(……全力で叩き潰します。それこそ彼女をキルするつもりで)

 

 

 戒能良子と小瀬川白望の闘いの火蓋が、今切って落とされた。




戒能さんとシロの一騎打ちは果たしてどうなる……!?
次回も東京編です。
あと2日しか休日がないじゃないか……たまげたなあ……

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